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ライラック王国~ダウスト村編~

暴力的な青年たち

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 夕方の村の広場には、中央部にマルコムとシューラ。

 そして彼らを囲むように立つ男たちとそれを遠巻きに見るものがいた。



 盗賊は変わらず8人。



 例の、投獄されたが村人と入れ替わっていた奴らだ。



 そして、どうやらあちらの仲間には癒しを持つものがいるのだろう。

 マルコムやイトにやられた傷が治っている。



「そして、どれだけの村人が関わっているんだろうね」

 シューラは愉快そうに笑いながら言った。



 本当に彼は人の歪みを見るのが好きだ。

 マルコムはつくづくそう思う。



 だから彼はマルコムの様子を見るのが好きなのだろう。



 共に行動する理由は唯一の理解者という存在もあるが

 彼のその趣味の悪さも理由の一つだろう。



 ガイオとイトには、村に盗賊を片付けるために襲ってきたら返り討ちにする作戦があることを広めてもらった。

 そのうえで、ガイオには盗賊とガレリウスが繋がっており、帝国を敵に回していることも広めてもらった。



 つまり、ここでマルコム達を阻む存在は屠ってもいい存在だ。



「ガレリウスさんだっけ?」

 マルコムは盗賊たちではなく、少し離れたところにいる男に声をかけた。



 彼のよく張る声は、他人に大声で指示を出すのを慣れている



「お前の秘密兵器も出せよ。雑魚」

 マルコムは高らかに笑いながら言った。



 マルコムの言葉を聞いてガレリウスは驚きを見せたが、すぐに怒りで顔が歪んだ。



「分不相応だと思わないのか?お前と彼女」

 マルコムは、ガレリウスがミナミを欲しがっていることを言っている。



「は…たかが、用心棒風情が、俺に指図するな。」

 ガレリウスは唾をまき散らしながら叫んだ。



「たかがだって…ねえ」

 マルコムは困ったように笑い、隣にいるシューラの肩を叩いた。



 肩を叩かれたシューラは体ごとマルコムもたれかかった。

 体格が良くて体幹がしっかりとしているマルコムはシューラがもたれかかってもびくともしない。



 というよりも、この行動はいつもの事なので気にすることではない。



 周りの村人や盗賊たちがなにやら目を丸くしたが

 マルコムもシューラも、これから片付ける連中を気にするほど気遣いのできる人間ではない。



「本当にねえ。…知っている?どんなに大きな権力よりも武力が一番強いんだよ」

 シューラは笑いながら言った。

 その表情は、ミナミと一緒に歩いていた医者の真似事のできる青年とはかけ離れたものだった。



 あまりの変わりように盗賊も周りの村人たちも驚いている。

 何も知らないものが見たら、悪役はシューラだろう。



 マルコムは彼の気持ちがよくわかる。



 シューラは久しぶりに周りに考慮せず刀を振れるので気分が昂っているのだ。



 アロウの死があって、彼の気分はひどく沈んでいた。

 自身の中でいろいろな変化があって、戸惑いも多かっただろう。



 ミナミに対して芽生えた愛着や思いは、彼にとっていいものだ。



 だが、息抜きは大事だ。



 マルコムもだがシューラは戦闘狂の気が強い。



 戦いが大好きだ。



 だから、とりあえず手加減をしなくていい魔獣をシューラに譲った。



 とはいえ、まだ作戦の途中だ。



「ちょっと、あんまり本性出し過ぎないでよ。まだ油断させたいんだから」

 マルコムはあまりに愉しそうなシューラに呆れながら小言を言った。



「ここにいるやつら片付けたら魔獣出すかな?」

「俺の獲物取るなよ。」

 シューラは盗賊を全部一人で片付けて魔獣を出してもらおうと思っているようだ。

 だが、それはマルコムは看過できない。



 人間はマルコムの獲物だ。

 そういう取り決めでかかっている。



 このままだとシューラはマルコムの獲物も取る。

 油断させる作戦はシューラの忍耐が持たないと判断した。



 もともと全部ぶっ潰す予定だったので、小細工など必要なかった。

 マルコムは小難しく考えていたのが馬鹿らしくなって一人笑った。



「じゃあ、悪いけど連れが魔獣を倒したいんだよ。」

 マルコムは背中に背負った槍を持った。



 マルコムが構えたことで周りの盗賊たちと村人が構えた。



 村人の何人かが魔力を使おうとしている。



 笑える。

 マルコムはそう思ったが、思うだけでなく口に笑みを浮かべていた。



「舐めるなよ。」

 身体に魔力を巡らせる。



 リランから逃げる時ほど力まなくていい。



 マルコムは土と風と火、そして光の魔力を持っている。

 一般的に見るならかなり種類の多い方だ。



 貴族も色々あるが、王族の平均が3つで世界的に見て多い水準だ。

 なので、4つも持つマルコムは相当だろう。



 帝国のあった大陸は、そもそも魔力の種類が多い人間が多かった。

 王族でないシューラも3つ持っているのだ。

 そして、もっと多い人間をマルコムは知っている。



 ルーツに秘密があるのかもしれないが、それは置いておき



 今使うのは



 マルコムは風の魔力を纏い跳躍をした。

 手ならしに近場にいた盗賊の頭、槍でぶん殴った。



 風の魔力の跳躍で攻撃に勢いがついたのだろう。

 結構な威力になった。手加減と言った手前情けない。



 敵方は、ガレリウスだけは反応を見せていたがそれ以外は全く動けていなかった。



 なるほど、ガレリウスがこの中で一番“まし”なのだとわかった。



 殴った盗賊は、残念ながらもう亡くなっただろう。

 マルコムがうっかりと手加減をしなかったからだ。



 マルコムに殴られ倒れた盗賊は、明らかに絶命しているとわかる。

 それを見て、周りはざわついた。



「ほら…」

 マルコムは威嚇するように槍を振り回してから地面を突いた。



「連れが魔獣を倒したがっているんだから

 早く出せよ」

 マルコムは脅しながら魔獣を要求した。



 そのやり方は、もはやチンピラだった。



「ひ・・・ バケモノ!」

 盗賊たちは怖気づいている。



 そして盗賊よりも村人の方が衝撃は大きい。



「ねえ、逆らわない奴の手足の腱は切っていい?」

 シューラは明らかにマルコムに脅えている村人たちを見て尋ねた。



「いいよ。露払いなんて殊勝なことをするんだね」

「時間食いそうだからだよ」

 シューラはマルコムに言うとすぐに走り出した。



 腰に掛けた刀をスラリと抜く。

 洗練された攻撃のための動き。



 白銀が鋭く舞った。



 シューラは刀に水の魔力を纏わせて斬撃に含めた。

 数人の村人たちが足を切られてその場で倒れこんだりしている。



 その狙いの正確さに、思わずマルコムは内心うっとりする。



 相変わらず彼の放つ白銀の斬撃の残虐性は寒気がするほど綺麗だ。



 圧倒的だ。

 それはあちら側もわかったのだろう。



 そんな中、ガレリウスは何やら宝玉の様なものを取り出した。



 いや、宝玉だ。



 その宝玉は真っ赤で、とても綺麗だった。

 ただし、マルコムはその赤に既視感があった。



 シューラの宝石の様な赤い瞳とはまた違った赤。



「ご主人様が命じる。あの二人を殺せ!」

 ガレリウスは大声で叫んだ。



 その途端、村が揺れ始めた。



 いきなりの事に驚いたが、マルコムは先ほどのガレリウスの発言を思い出した。

 そして、魔獣が不用心に町に送るものとして置かれていたこと。



 魔獣は一匹ではない。

 それは何となく予想はしていたが、それにしても様子が違う。



 結局、マルコム達に立ちはだかった魔獣は一匹だった。



 だが、それはマルコムよりも明らかに大きく、手漕ぎの小さな小舟くらいの全長がある虎だった。

 真っ白な毛と、ところどころ入った歪な縞模様。

 長い尻尾は炎のように揺らめく青い魔力を纏っている。

 目は金色と黒のオッドアイだが、どこか乳白色に濁りが見える。

 そして、その魔獣の口元に付いた夥しい血を見て納得した。



 この魔獣一匹のために、数多の魔獣が餌となったことだ。



「ガルラアアアアアア!」

 唾と血をまき散らし、その獣は咆哮を上げた。

 それは辺り一帯を轟かせ、簡素な村の建物が揺れきしむほど大きなものだった。



「どんなに腕が立とうが…

 この巨獣ビャクシンに敵う者などいない…」

 ガレリウスは真っ赤な宝玉を大事そうに抱えながら、尊大に言った。



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