上 下
138 / 257
ライラック王国~ダウスト村編~

教えてもらうお姫様

しおりを挟む
 



 ガイオが用意してくれた夕飯は、大きな鍋で用意した具沢山のスープだった。

 昨日と同じ、いや、夕飯だけでなく基本的に大きな鍋で用意したスープがある気がする。



「大鍋の料理は毒を混ぜるのも楽だけどターゲットが一人なら不向きだしね」

 シューラは自分の皿に入ったスープの匂いを嗅ぎながら言った。



「毒は無いよ。何なら僕が食べるよ。」

 シューラはミナミの方を見て頷きながら言った。



「ガイオさんはそんな馬鹿なことしないよ。それに君は毒が効かないから毒見はそこの変態でいいと思うよ。」

 マルコムはイトに目を向けていた。

 どうやらイトの認識は変態で固定されているみたいだ。



「味ではわかるよ。」

 シューラは口を尖らせて言った。



「とりあえずいただこうか」

 イトは物騒な会話に耐え切れなくなったのか、自身のスープに手を付け始めた。



 それを皮切りに全員が食事を始めた。



 暖かく、程よい塩味と少しピリリとする香辛料。そして肉や野菜など色々な食材があっておいしい。

 ガイオの用意してくれた夕飯のミナミの感想だ。



「ガイオさんとても美味しかった。ありがとう。」

 食べ終わるとミナミは笑顔でお礼を言った。



 そういえば、お城でいつもご飯を作ってくれた人は元気かな?

 ミナミはそんなことを思っていた。



「言っておくけど、帝国関連の情報はあまりわからないし、関わりたくないから俺らがいなくなってから動き出してね。」

 マルコムはイトとガイオを見て念を押すように言った。



 イトはバツの悪そうな顔をしているが、ガイオは強くうなずいている。

 おそらくイトは帝国の話を聞きたかったのだろう。



 帝国はここ数年で急成長した国だから当然だろう。



「急成長したのは俺がいなくなってからだから、内部はわからないんだ。」

 マルコムはシューラと頷き合いながら言った。



「じゃあ、二人はどう動くつもりだ?」

 イトは座り直すように体勢を変えてからマルコムとシューラに尋ねた。



「ミナミ目当てで来るだろうし、僕の事を明らかに邪魔ものと思っているからね…



 動きとしてはまず騒ぎを起こす。この前と同じように広場辺りに盗賊が来るだろうね。

 それから時間をおいて魔獣でも出すかな?」

 シューラは顎に手を当てて頷きながら言った。



 このような事態を考えるのに慣れている感じがする。



「要は、陽動作戦ね。後、村人も信用しないでね。そしてガイオさんはガレリウスが帝国を敵に回しているって言った方がいいよ。

 規模の大きなたくらみだと思うから、非合法だと思わずに協力している村人がいてもおかしくない。」

 マルコムはガイオに念を押すように言った。



「優しいな。」



「優しくないよ。より敵を追い詰めるために必要なことだよ。そして、ガイオさんが忠告をすることは大事だよ。守らない奴を切り捨てられるからね」

 イトの言葉にマルコムは皮肉気に笑いながら言った。



 どうやら忠告というのは攻撃や切り捨ての理由を作るためのものらしい。



 ミナミはなるほど…と頷きながら感心した。



「でも、ガレリウスはなんで私を?もしかして正体がバレたの?」

 ミナミはガレリウスが自分を狙う理由がわからなかった。

 だが、王族で特殊な魔力を持っていることがバレているなら話は別だ。



「そりゃあ、姫様が綺麗だからだよ」

 イトは少し困った顔をしている。



 マルコムは顔を顰めているし、シューラはうなって何か悩んでいる。



「ありがとうイト。でも、どうして綺麗だから狙うのかな?」



「姫様。そこは深く考えない方がいいよ。君は守られることに集中して。」

 キリが無いと判断したのか、マルコムはそこでミナミの話を切った。



「う…うん。」

 ミナミは自分が状況をわかっていないのだな、と思ったが



 綺麗なら他にも対象がいるのにどうしてだろう…



 とも思っていた。



「こっちがやる事は単純。

 全部ぶっ潰すだけ。」

 シューラは両手を広げておちゃらけた様子で言った。



 マルコムはそれを聞いて口に笑みを浮かべている。



「やってきた盗賊は俺が全部倒すよ。

 立ち上がる気力がなくなるくらいに、ちゃんと魔力も使ってあげるから」

 マルコムは笑みを浮かべ、左手で髪をかき上げて言った。



 そしてその笑みは歯を見せる凶暴なものだった。



「だからイトは姫様を守ってね。

 何かあったらライラック王国の王族だけじゃなくて俺たちも敵になるから」

 マルコムはイトに威圧的に言った。



 イトは表情をこわばらせたが、しっかりと頷いた。



「ガイオさん。魔獣の密輸については何か聞いている?」



「いや。プラミタがある西の大陸は魔獣が多いからよくわからない。」

 ガイオは首を振った。



「負けることは無いと思うけど、シューラと相性が悪かったら時間がかかりそうだ」

 マルコムはシューラと目配せをしながら言った。

 どうやらシューラの要望通り、マルコムは対人で戦う形になったようだ。



 ミナミはマルコムはいろいろ言いながらシューラに甘いのでは?と思っている。



 また、自分も気にかけてもらっているのもわかっているので

 優しいというよりも身内に甘いような気がした。



「変なことをするなよ」

 マルコムはイトに念を押すように言った。



 ミナミはそこまでしなくてもと思った。













 しかし、今

 その念押しの意味がよく分かった。



 ミナミは客間でイトと二人きり。



 ミナミだってお年頃だからベッドのある部屋で男の人と二人きりなるのが危ないことだというのはわかっている。



 ちなみにシューラやルーイは別枠になっている。

 ミナミにとって危ない男性ではない。



 イトは出会い方からして少しおかしかった。

 あと、彼はなんか完全に信用できない気がするのだ。



 最初はあまり思わなかったが、彼の言動を見ていると何故だがそう思えてくるのだ。



「マルコムとシューラは大丈夫かな…」

 ミナミはふと外に出て行った二人を想った。



 二人はミナミに良くしてくれる。

 シューラとはアロウさんの事で、悲しみを共有できた。

 最初マルコムとの行動は不安だったが、彼は思った以上に気を遣ってくれている。

 たまに冷たいが。



「村人は君とシューラ君がデキていると思っているよ。」

 イトは場を和ますためか、または何かきっかけづくりかミナミに話しかけてきた。

 そして

「まあ、実際デキているのはあの二人だろうけど…」

 と若干引きつった顔で呟いた。



「デキているって?」

 ミナミは俗語に疎かった。彼の言っている意味がわからない。

 デキているとはなにがなのか分からないのだ。



 それを見てイトは驚いた顔をしたが、すぐに意地の悪いそうな顔になった。



「そういえば、姫様発育って聞いた?」

「あ、聞くの忘れた。イトはわかるの?私、そこまで身長は大きくないのに…」

 ミナミは結構前に言われた発育という言葉の持つ意味がわからなかった。

 文字通りなら何かが発達しているのだろう。ただ、ミナミはそこまで大柄ではない。



 果たしてミナミは発育がいいといえるのか?



「うーん。マルコム君がかわいそうだから教えてあげるね。」

 イトは何やら口元にだらしない笑みを浮かべている。



 ミナミはイトから少し距離を取って頷いた。

 距離を置かれたことにイトは悲しそうな顔をした。



「姫様、胸部大きめだって言われるでしょ?」



「うん。でもあまり気にしたことなかったの。最近よく言われるけど…」

「まあ、お姫様に胸の話題を振る馬鹿はいないだろうし、噂でも聞いているけど温室育ちだもんね。」



「よくわからないけど、私は甘やかされていたのは事実だよ。」

 ミナミは自分が愛情たっぷり注がれて何も知らずにいたことを嫌というほどわかっている。

 ただ、それだからと言って悲観はしない。

 なぜなら、愛情を注いでくれた人たちが大好きだからだ。



 そもそも甘やかされていたとはいえ、悪いことをしたら怒られていたうえに兄のオリオンは礼儀にうるさい。

 また、善悪の判断もしっかりとできる。どちらかというと、カモにされそうなタイプの温室育ちだ。



「あと、胸部が大きい人は結構いるらしいよ。シューラがマルコムも大きいって言っていた。」

 ミナミはシューラがマルコムのも大きいと言っていたことを思い出した。



 それを聞いてイトはまた引きつった顔をしている。



「そういえば、イトは闇の魔力を使えるの?」

「お。魔力にご興味が…ってライラック王国のだから当然か」

 ミナミの質問にイトは驚いたような顔をしたが、すぐに納得した。



 ミナミたちの王族が特殊な力を持っているのは有名なのだ。



「私のお友達が闇の魔力を使うことが多いんだけど、あれって隠れたりするのに丁度いいの?」

「うーん。紛れさせるというべきかな?闇の魔力を纏うと周りと自分の境界線が曖昧になるんだ。だから隠密活動の時に多少荒い動きをしてもバレるリスクが少し低くなるんだ。」

 イトはミナミの質問に思いのほか丁寧に答えてくれた。



「なるほど。他に何か魔力のお話ってある?」

 ミナミは空き時間をイトと過ごすなら、勉強に使ってしまおうと思ったのだ。

 もちろん後でマルコムにも聞くが、魔力というのは個人の感覚によって違うことが多い。

 まして持っている魔力が違ったらなおさらだ。



 なので、より多くの人から聞くのがいいだろうと思ったのだ。



 それに、父の言っていた色んな角度から見るのも大事という教えを実践しているのだ。



「魔力に関しては魔力量によって違うからね。俺はまあまああるけど、帝国のバケモノどもとは違うし。」

「そういえばフロレンスさんは空を飛んでいた。」

「風の魔力の超上級技術じゃねーかよ…誰だそのフロレンスって…」

 ミナミの言葉に驚き、イトは口調が荒くなっている。

 ただ、別にミナミはそれを無礼とかは思わなかった。



 ミナミはフロレンスが赤い死神であることをいっていいのか考えた。

 マルコムやシューラの手の内を明かさないのからいいだろう。



 勝手にそう判断した。

 あと、なんとなくこの男にはリランの話をした方がいいと思ったのだ。



「えっと、赤い死神って呼ばれている…」

「うわ…プラミタが黙るわけだ…」

 イトはミナミの言葉を聞いてあきれたように言った。



 彼の言葉の意味は解らなかったが、リランの技術がとんでもなく高いのはわかった。

 そういえば、マルコムがバケモノと言っていた気がした。



「ってことはマルコム君も相当だな…」

 イトの呟きにミナミは内心頷いた。



 マルコムは地面一帯をひっくり返せるし、フロレンスを足止めする風も扱える。

 この情報は言わないが



 あと…

「あれ?」

 ミナミはそこで引っ掛かった。



 逃げる時にシューラは風の魔力を使っていた。

 だが、彼は水と草と癒しだと言っている。



「自分の持っていない魔力を使う方法ってある?」

 ミナミはシューラが嘘をついているとは思えなかったのだ。

 なので、あの時に使った風の魔力は何か仕掛けがあったのでは?

 と思っている。



 ミナミの言葉を聞いて、イトは気まずそうな顔をして目を逸らした。

 おそらくあるのだろう。



「ああ…お姫様にはまだ早いから、今度マルコム君に聞くといいよ。」

「そういえば、どうしてマルコムなの?シューラじゃないの?」



「いや、だって彼、姫様とは違う意味で世間知らずでしょ。」

 イトはわかりきったことのように言った。



 彼の言っていることは正しいのでミナミは頷いた。



「!?」

 イトが急に辺りを見渡し、ミナミの傍に寄った。



 ミナミは思わず警戒して身構えたが、彼の表情が何やらおかしい。

 イトはミナミに外から見えないが、外の様子を察せれるように窓の脇へと来るように手招きをした。



「外…始まったよ。」

 イトは顎で窓の外を指した。



「…わ…」

 窓の外には盗賊だけでなく村人に囲まれたシューラとマルコムがいた。



 そして

「おい!いるんだろ!」

 家の玄関から怒声が響いた。



「思った以上に村人が関わっているってことか…」

 イトは慌てる様子もなく呟いた。



 ミナミは思わず自分の身体を抱きしめた。



「安心しな。姫様。



 あの二人は、兵士を数千人一気に片付けたようなバケモノだ」



 イトは何かを期待するように窓の向こうのマルコム達を見ている。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕はただの妖精だから執着しないで

BL / 連載中 24h.ポイント:2,280pt お気に入り:562

勇者パーティーの仲間に魔王が混ざっているらしい。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,443pt お気に入り:64

兄と一緒に異世界に来ましたが、僕はゆっくり絵を描きたい。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,025pt お気に入り:24

正反対の双子と、彼らに恋した兄弟

BL / 連載中 24h.ポイント:1,009pt お気に入り:17

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

BL / 完結 24h.ポイント:11,379pt お気に入り:243

龍刻のメサイア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:823pt お気に入り:247

転生皇子の新生活 高等部編

BL / 連載中 24h.ポイント:540pt お気に入り:91

新人悪魔と作る『人類殲滅計画書』

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:0

God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:18

処理中です...