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ライラック王国~ダウスト村編~

お転婆でもお姫様

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 マルコムが裁断し、ミナミが縫った服はすっぽりと着れるワンピースだった。

 腰にベルトを着けて丈を調整して、村で動き回るのにはちょうどいい。



 くるくると回ると裾がひらひらする。



 ちょっとテンションが上がっているミナミを見て、マルコムは少し呆れた顔をしていた。

 だが、シューラとミナミを見比べて何やら頷いた。



「お嬢さんとイシュさ、ちょっと村を散歩して来てくれない?」



「いいけど、どうして?」



「イシュが嗅いだ薬物の匂いがどこが強いかの確認と、お嬢さんが一緒に居るときの村人の態度。」

 マルコムはどうやら確認したいことがあるようで、それをシューラに頼んでいるのだ。



「それ以外に何かありそうだけど?」

 シューラは腕を組んでマルコムを見た。



「ちょっとイトに確認してもらっていることがあるからそれ次第。あと、イシュはあまり腕が立つってばれないようにね。」

 マルコムはちょっと注文が多いが、きちんと何か考えているらしい。



 ミナミはのどかな村を散歩できるのは嬉しいから頼まれごとや思惑は別に構わないのだが



「夕飯までには帰ってきて。こっちはガイオさんに話すこともあるから早く帰り過ぎないでね」

 マルコムはこれがメインのようだ。

 なんとなくだけど、ミナミがいないところでガイオと話したい様子だった。



「あと、はぐれないように手でも繋いでおいて」

 マルコムはミナミが迷子になると思っているのか、シューラからはぐれようないようにと念を押した。



 確かに盗賊関係者がいると思われている村だ。



 ミナミだって自分が若い女性であるゆえに狙われる可能性があるのはわかっている。



「わかった!よいしょ!」

 ミナミはマルコムに勢いよく返事をするとシューラの手を握った。

 そして勢い余って魔力を込めてしまった。



「ひんっ」

 シューラが上ずった声を上げて跳ねた。

 跳ねた後も俯いて肩を震わせている。



「あ…ごめん。勢いが余った。」

 魔力を使う練習をしていたからか、気軽に魔力を使ってしまうようだ。



 ミナミは謝ったときに気付いた。



 シューラが跳ねたあと、マルコムがミナミと距離を取ったことに。



 一歩半ほど離れている。

 あと片足が外側に向いていつでも飛び出せるようにしている。



 マルコムはミナミをすごく警戒している。



 昔お城に迷い込んだ子猫を撫でまわそうとにじり寄ったときに

 あんな動きを取られた覚えがある。



 そして気のせいじゃなければ、彼はミナミを未知のものを見るような目で見ている気がする。



 お城にいたときに、楽しいことがあって発光していると

 オリオンがたまにあんな目をしてきたのを思い出した。



 別にミナミは魔力を流そうと思っていないし、そもそもくすぐったいと思わせないようにしないといけないのだ。



 ちょっと注意力が散漫になると流してしまう。それに、魔力の扱いがまだうまくない。



 考えてみると、ミナミはどのような不快感なのか知らない。



 不公平かもしれない。

 ミナミは握ったシューラの手を見て、それからシューラを見た。



 シューラは首を傾げている。

「どうしたの?」



「不公平な気がして…」



「不公平?」

 ミナミの言葉に反応したのは警戒をしているマルコムだ。



「私、イシュがどんな不快な思いをしているのかわからないから…わかったら私も注意すると思うの。

 だから、私にもやってみてくれる?」

 ミナミはシューラが最初に流した違和感のある魔力はわかっている。



 だが、あれで飛び上がるほどの衝撃は無い。



 シューラは険しい顔をしている。



「俺も流せたらよかったのにな…何かできる方法、魔術師とかに聞いてみようか…」

 マルコムも不公平と思っているようで、彼は何か報復方法を考えているようだ。



 ただ、マルコムの報復対象はシューラなのでミナミは心安らかにいられる。



 シューラの顔色が悪い。

 たぶんミナミのお願いではなく、後ろのマルコムの呟きに対してだろう。



「…わかったよ。じゃあ、覚悟していてね」

 シューラはミナミの手をぎゅっと握って、ミナミの顔を見た。



 ミナミは覚悟を決めた。



「うん。どんと来い!!」

 ミナミは自分の胸をどんと叩いて言った。

 その時に胸がたゆんと揺れた。





「…えい!」

 シューラはミナミに魔力を流した。



 その瞬間、何とも言えない静電気の様なピリリとした感覚が手から全身に走った。

 ただそれと共に神経を緩く刺激するような感覚も走り、呼吸を忘れてしまうほどだった。



「うごぅっ」

 思わずミナミは腹の底から呻いた。



 そして、身体に流れ終わったあとでも、余韻のように全身が逆立ったような感覚がして震えが止まらない。

 そう。

 ひたすらくすぐったいのだ。



 ただ、ミナミはここで、とても大事なことに気付いた。



 それにはマルコムとシューラも気付いていたようで、何とも言えない顔をしている。





「…私の反応が、一番かわいくない…」

 ミナミの呟きに二人は何も答えなかった。











 それから、マルコムの言いつけ通り、シューラと二人で村の中のお散歩に出た。



 ミナミは軽やかな足取りで村を歩いていた。

 あまりじっくり見る暇はなかったので新鮮だ。



 川の上流側からゴトンゴトンと音がするので、その方向を見ると

 家にくるくる回ったタイヤがついている建物があった。



「イシュ。あれ何?くるくる回っているの」

「あれは水車だよ。僕もあまりなじみがないね」

 シューラもあまりなじみがないもののようだ。あとでマルコムに聞いてみよう。



 しばらく歩くと、青や紫、赤やピンクなどの色とりどりの動物がいた。

 形は牛に似ているが、ちょっと色が違う。



「あの動物は?」

「あれは牛だよ。たぶん魔獣の名残が強いから色味が違うんだよ」

 なんでも、家畜化していくうちに魔獣の時にあった魔力が抜けていき色合いが地味になるらしい。

 ミナミの知っている家畜は、厳密には魔獣なのだがほとんど魔力が抜けきっている状態でより安全らしい。



 田舎の方だと、まだ魔力の色が出てくる家畜がいるらしい。

 ちなみに魔力のある家畜のお肉を食べたとしても魔力が体に着いたりすることはないらしい。

 あと、ちょっとえぐみがあって臭いとのことだ。



「でも例外はあるんだ。たとえば、自分と同じ魔力を持った家畜とかなら違うらしいよ。でも、家畜の魔力を調べる術は無いからね。

 あともう一つは、食べる対象が癒しなら別かもしれない。だけど、癒しを持っている家畜なんていないからね。」

 シューラは結構物知りなのかもしれない。



 ミナミはなるほどと思いながら話を聞いていた。



 しばらく歩くと、動物が住んでいるような小屋の近くにとてつもないにおいを放っている樽がある。



「あのくさいのは?」

「あれは牛の排泄物。畑の肥料にするために置いているんだ。」

 シューラは少し遠くに見える畑を指さして言った。



「のどかな村だね」

「そうだね。どう見ても元荒くれ者たちの村とは思えない」

 シューラもミナミと同じ意見のようだ。



 ただ、ここでシューラがピクリと何かに反応した。



 なぜ反応したと分かるのかというと、マルコムの言いつけ通り手を繋いで歩いているからだ。

 マルコムはミナミが暴走すると思っているのか、それともオリオンたちから脱走の話を聞いているのかわからないが

 はぐれないようにと念を押していた。



 繋いだ手をプラプラと振って歩くのは、よく姉と遊んでいるときにやっていたので懐かしい気持ちになる。



「…あれは…」

 シューラの目つきが変わった。

 ミナミはシューラが見ている方向を見た。



「町に売りに行く家畜なんですよ。」

 急に後ろから声がかかってミナミは飛び上がった。



 後ろには、ガレリウスと数人の村人がいた。

 笑顔のガレリウスと、驚いたような顔でミナミたちを見る村人は何とも言えない雰囲気があった。



 シューラは落ち着いていたので、近づいてきているのに気づいていたようだ。



「こんにちは」

 ミナミはシューラの手を強く握りながらガレリウスに挨拶をした。

 ガレリウスはにこやかにミナミに応え、彼はシューラを見た。



「君は彼女の護衛か」



「ガレリウスさんって呼べばいいんですか?」

 シューラはとりあえず「さん」付けで呼ぶようだ。



「ご自由にどうぞ。君は…」

「イシュといいます。」

 シューラはとくに温度の無い声で淡々と言った。



「イシュさんですか。医者の真似事ができると聞いたのですが、お嬢さんの護衛としてついているだけではない様子ですね」

 ガレリウスはシューラのことをじっくりと見て、何かを探っているようだ。



 ミナミは彼がなんでシューラに絡むのかわからないが、とりあえずいい感じではないのはわかった。



 ただ、ここで大事なことを思い出した。

 シューラの雇い主は厳密には亡くなったアロウさんだが、今はミナミである。



 このガレリウスは雇い主を飛ばして用心棒に話かけている。



 ここにオリオンや父親がいるならミナミは一番偉い人じゃないので、思う存分シューラの後ろに隠れられるが、これは何か違う気がした。



「イシュは私の護衛です。お医者さんの真似事だけでなく様々なことを知っているので旅の助けになってくれるんですよ。」

 ミナミはシューラの前に出てガレリウスに答えた。



 ミナミの言ったことは事実だ。

 それにこのガレリウスという男。

 シューラが何か言ったとしてもその情報を知りたいわけではないと思うのだ。



 何となくだが、彼は自分の中の答えがあって、それ以外受け付けないような感じがするのだ。



 なので、ここでシューラが何を言っても面倒になる。

 というよりも雇い主の頭上で会話をしているようなものなので無礼なのだ。



「今は初めて見るものが多かったので質問をしていたんです。」

 ここまで言えば疑問は無いだろう。

 ミナミはガレリウスとその後ろの村人たちに笑いかけて言った。



 お転婆といえどお姫様だ。

 本人は自覚していないが、その辺の金持ちとは気品が全然違う。





 一緒にいるシューラが目を丸くするくらい違うのだ。



「ガレリウスさんがお話しした町に売る用の家畜とは、あの辺のものと同じなのですか?」

 ミナミはとりえあず、彼らが話しかけてきた厚意だけ受け取ることにして、あとは相手にしないでおくことにした。



「え…ええ。」



「なるほど。知らないものが多いのでとても新鮮です。教えてくださってありがとう。」

 ミナミはそうお礼を言って締めると、シューラを見て、彼らから離れたいと目で訴えた。



 何となくガレリウスが不快なのだ。



「では、ガレリウスさん。自分たちはこれで」

 シューラは軽く頭を下げて、ミナミを守るように位置取りしながら歩きだした。



「あの人たち…なんか嫌だね。」

 ミナミはガレリウス達から離れた位置に来てから呟いた。



「…なんというか、お転婆でも生まれがよくわかるよ。」

 シューラは感心したように頷いて言った。



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