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ライラック王国~ダウスト村編~
悪い青年
しおりを挟む「ガレリウスがどんな男だと?」
ガイオさんの家に戻ったら、彼は台所でお茶を淹れようとしているところだった。
そんな彼に間髪を入れずマルコムは先ほどシューラから出た男について尋ねた。
「見ればわかるが、奴はこの村にしては珍しい優男だ。モニエルほどじゃないが、目立つな。
あとは頭がいいから、この村と町の取引の際に交渉役をやって貰っている。腕もお前らほどじゃないが立つはずだ。」
ガイオは思ったよりもガレリウスという男に好意的なようだ。
「ガイオさんはただ有能っぽいだけで交渉役とか任せるわけ?」
マルコムはガイオの様子に何か別の事があると思ったようだ。
ミナミはガイオの言っていることに違和感はない。
有能だから交渉役をやらせている。ただそれだけだろう。
「…俺の兄の忘れ形見だ。」
ガイオは気まずそうに言った。
どうやら有能なのは確かだが、身内もあって重要な役割を与えているらしい。
「じゃあ、親族補正無しでガレリウスという男はどんな男?能力が高いのはわかったから人間的な面で」
マルコムは腕を組み、試すような視線をガイオに向けている。
「悪い子じゃない。ただ、半端に知恵が回って有能なせいで少し他人をぞんざいに扱ったり自分は特別だと思っている傾向が強い。」
ガイオは気まずそうに言った。
どうやら人間的にはちょっと問題が見える男らしい。
「なんだ。僕と対して変わらないね」
シューラが愉快に笑いながら言った。
「君はお嬢さんをきちんと尊重しているし、ぞんざいに扱うのはクズだけでしょ。あと君は半端じゃなく有能できちんと知恵が回る。俺だって君には苦戦したんだ。それに客観的に見ても特別な存在だから天と地ほどの差がある。」
すぐにシューラの言葉をマルコムが訂正し
「あと君は悪い子だろ」
と付け加えるようにだが、重要なことのように言った。
それを聞いてシューラは目を丸くしたが、すぐに「確かに」と言って笑った。
「俺は何のやり取りを見せられているんだ?」
イトは二人の様子を見て困惑した顔で呟いた。
ミナミはマルコムの言葉にはちょっと同意だが、ミナミにとってシューラはいい子だ。悪い子とは思っていない。
ただし、これは自分の主観であることをミナミはわかっている。
あと、少し引っ掛かったが、マルコムとシューラは戦ったことがあるような発言があった。
そういえば、二人が敵同士だったと小耳にはさんだことがあるが、剣を交えたとは思っていなかった。
「あいつなのか」
ガイオはマルコムの質問から察したようだ。
まあ、彼もこの段階でこの質問は違和感があるのだろう。
「この段階でそういう発言が出るってことは、彼でもおかしくないと思っていることだねー。不穏分子だと何となくわかっていたわけか。
まあ、親族補正というべきか、身内だから深く思っていなかったってところか」
イトはそのガイオの様子を見て、彼の中でも手引きの裏切り者はガレリウスだと確信したようだ。
「はっ…親族っていってもたかが血の繋がりだろうに…。それが信用の前提条件になる理由がわからないね。」
マルコムは口を歪めて嘲笑い吐き捨てるように言った。
「まあ、血縁っていうのは確実な繋がりだから、信用に絡めるのは多いってもんだよ。おたくらがどういう過去があるのかわからないけど、一般的にはそう思う人が多い。」
イトは諭すように言った。
彼はマルコムとは違い血縁が信用に繋がる事に納得があり、ガイオに理解があるようだ。
「どういう形でも信用という繋がりをガイオさんは感じていただけってことでいいでしょ。誰の種とかなんて、人間としての要素の一つなんだから。」
シューラはマルコムを見て呆れたような顔で言った。
その発言もいかがなものか…とガイオとイトは思っていた。
ミナミは半分くらい理解できなかったので首を傾げた。
「まあ、深い話はここまでで、大事なことがあるだろう?」
イトはシューラとマルコムの間に入り、止めるようなそぶりを見せながら言った。
そして、ガイオを見た。
「ガイオさんはガレリウスってやつ。捨てられる?」
イトは黒い瞳を光らせて尋ねた。
その目は調子の軽い様子は無く、ただ目の前の男の信用を見極め計るような目だった。
その様子を見てミナミは彼が商人なのだというのが腑に落ちた。
お腹が出てヘラヘラという様子は無いが、あの油断のできない目はミナミも城で何度か見たことのある異国の商人のものと似ていた。
ガイオは口を引き結ぶように閉じ、いつも刻まれている眉間の皺をさらに深くした。
迷っているのだろう。
「親切だね。俺はガイオさんの選択を聞かずに不穏分子は斬り捨てるよ。」
マルコムはイトとガイオの様子を見て呆れたように言った。
「商人っていうのは言質を大事にするからな。一番は契約書だけど」
イトはマルコムに言いながらもガイオから目を離さない。
ミナミはだんだん話が物騒な方向にいっていることに気付いて、無意識に手を強く握っていた。
なぜなら、今の状況はガイオに甥を見捨てるように促すような場面なのだ。
マルコムとは違いミナミは血縁の信頼を理解できる。
血縁というよりも家族だが、愛された育ったミナミはそれを切り捨てるというのに忌避感がある。
兄であるホクトが父親を殺したあとだからなおさらだろう。
そんなミナミの様子に気付いたシューラがマルコムに視線を送った。
その視線を受けてなのか、マルコムはミナミの様子に気付いて「しまった」というように顔を歪めた。
「とりあえず、ガイオさんは依頼された準備をお願いするよ。俺とイシュで片付けるから。」
マルコムは自分が失態を犯したと思っているらしく、顔を不機嫌そうに歪めている。
おそらく彼は、ミナミの感受性を甘く見積もっていたのだろう。
「俺は?」
「君はお嬢さんの護衛だ。たとえ変態でも彼女に何かするような馬鹿な事はしないだろうしね。」
マルコムは顎でイトにミナミを差して言った。
何となくだが、マルコムはシューラととっとと片付けようと思っているのだろう。
ただ、ミナミはイトが護衛になるのは少し不安だった。
マルコム達いわく腕が立つらしいが、なんとなく不安なのだ。
「よろしくね。お嬢さん。」
イトは複雑そうな顔をしたが、すぐにいつもの軽薄そうな笑みを浮かべてミナミに笑いかけた。
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