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ライラック王国~ダウスト村編~

不機嫌になる青年

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 覗きをしていた変態と言われているイトは、ミナミたちの話合いを覗こうと試みて失敗し、今マルコムに首根っこを掴まれて引きずり回されている。

 現にマルコムに引きずられるイトを村人たちは物珍しそうに見ている。



「そんなに怒らないでよー。だいたい何も聞けなかったし」

 イトはヘラヘラと笑いながら言っている。

 マルコムに引きずられながら。



「ご丁寧に闇の魔力を使って覗こうとしていたくせに、軽く終わらせると思うのか?」

 マルコムは辛らつだ。



 そしてそれはミナミには初耳だった。



 どうやらイトは闇の魔力を纏って隠れながら様子を見ようとしていたらしい。

 ただ、すぐにシューラに気付かれた。



「そこまでわかってるのかよ…自信無くすよ本当に…」

 マルコムの言葉を聞いてイトはさらに凹んだ。



「そういえば、お嬢さんにとってちょうどいい教本だね。そう思わない?モニエル」

 シューラは何か気付いたようにイトを見た。



 マルコムはシューラの意図がわかったのか、納得したように頷いた。



「教本ってなに?」

 イトは先ほどの凹み具合が嘘のようにケロリとした表情で聞いた。

 彼のこの切り替えの早さはすごい。とミナミは思った。



「闇の魔力を扱う典型的な覗き魔として…ね。お嬢さんなら将来的にこういう変態がついて回りそうだから」

 シューラは冷たい目でイトを見て言った。

 ミナミはその言葉でイトのような人に追い回されるのを想像した。



 結構嫌だった。

 だが、そんな事を口に出すことは無い。

 顔には出したが。



 ミナミの嫌そうな顔を見てイトが悲しそうな顔をした。



「いい考えだけど、まずお前に見てもらいたいものがある。」

 マルコムはイトを地面に投げ捨てるように拘束を解いた。

 イトは地面に転がるわけでもなく三回くらい地面を跳ねて着地した。



 かなり身のこなしが軽いのでは?と素人であるミナミは思った。



 マルコムが先導してきた箇所は村の入口である洞窟の前だ。



 そういえば、盗賊は馬に乗ってくるので山道から入る洞窟から来ているわけはないな

 とミナミは考えていた。



「盗賊は川辺の方から来ているみたいだよ。農地の開けた道から来ている。だからここは盗賊のこととは無関係かもしれないけど、気になるんだよね」

 マルコムは村の入口の周りを見渡し、首を傾げていた。



 彼の行動の意味がわからずミナミは首を傾げた。シューラもだ。



 イトもなんとも言えない顔をしている。



「わかりやすすぎる。こんなおざなりな隠し方だと甘いと思う。イト。お前もこの村に来た時の思わなかったのかい?」

 マルコムは自分と同じ意見をお前も持っているよな?と思えるような圧迫感のある質問をした。



 ただ、マルコムの考えは当たっているようでイトは驚いたように目を見開いていた。



「まさかモニエル君と同じ考えだったとは…これって気が合うから俺たち一緒に」

「黙れ。」

 イトの言葉を一蹴し、マルコムはなにやら一人で納得したような顔をしている。



 ミナミは話についていけない。

 が、ミナミの隣のシューラは納得していた。



「まあ、今回の盗賊には関係ないかもしれないから、お前も同じ疑問を持っているのか確認したかっただけだよ。」

 マルコムは両手を広げて何かを表現するイトを睨むように見て言った。



 今更だが、マルコムはミナミやシューラは君といい、イトはお前と言っているようだ。



「じゃあ、盗賊関係で僕から報告するね。」

 二人の会話が終わったのを確認するとシューラが手を挙げて言い

 そして

「僕はガレリウスという男が気になる。」

 と言った。



 ミナミは話についていけない。

 しかも知らない人間の名前が出てきて大混乱だ。



「僕がわかる限り、奴は欲のにおいがプンプンする。あと危険な薬物のにおいもする。」

 どうやら彼は昨日の夜の見回りで察知したらしい。



 昔「欲にまみれた俗物め…」とかオリオンが言っていた臣下がいたからあんな感じの人がいるのかと、ミナミの中で欲のにおいがプンプンする人物を思い浮かべた。



 でっぷりとベルトの上に乗るほどの立派なお腹、顔は脂でテカテカと光り口には卑屈な笑みを浮かべている。



 ただ、そんな人物がこの村にいるとは思えないので、ミナミは人間って難しいなーと勝手に完結していた。



 そして

「は?」

 急に響いたマルコムのドスの効いた声でミナミは思案から戻った。



「昨日の夜察したのか?」

「察してはいたけど、確信したのは村人に囲まれた時だよ。君にされた無茶ぶりのおかげでね。」

 シューラは多少不機嫌さを露わにしているマルコムに臆することなくケロリとした様子で答えた。



 マルコムが怒っているときには脅えた様子を見せるのに、この感じは平気なんだーとミナミはマルコムとシューラを見比べて不思議に思っていた。



 おそらく不機嫌の理由は、話を聞く限り、マルコムは昨日の夜から報告してほしかったようだ。



「薬物の臭いって…イシュ君さ…」

 イトは別の意味で顔を引きつらせている。



「僕は薬全般に強いんだよ。味覚嗅覚も鋭い。あと、きったないもの沢山知っているからそういう輩にも鼻が利くんだよね。」

 シューラは口に凶暴的な笑みを浮かべ赤い瞳を怪しく光らせて言った。



「君の能力は疑っていない。…でも早めに教えてほしかったよ」

「だって、君に話したら変な威圧感出すでしょ。意外とクズは危機察知能力が高かったりするからね。



 それに僕だって威圧感出している凶暴なゴリラの傍に居たくないし」

 シューラはマルコムの言葉に呆れたような様子で返した。



 話の流れ的に、凶暴なゴリラとはマルコムのことだろう。



「ねえお嬢さん。あの二人っていつもあんな感じなの?」

 イトはマルコムとシューラの様子見てミナミに尋ねて来た。

 彼の顔は変わらず引きつっている。



「…仲良しだよ」

 事態もよくわかっていないので、ミナミはとりあえずその言葉で濁した。



「それはそうと、モニエルは村の入口を見て何を思ったの?」

 そして、ミナミはこの微妙な空気からいち早く抜けるため、話題を戻した。

 戻したというよりもマルコムが気になっている村の入口の様子についてミナミは何もわかっていないのだ。



「ああ。簡単だよ。この村の性質にしてはわかりやすすぎるって事だよ。今回はあまり関係ないかもしれないけど、俺はここに前まで何らかの魔力がかかっていたと思っている。」

 マルコムは洞窟の入口を眺めて言った。



 その意見にはいまいちピンとこないが、イトは納得した顔をしているし、シューラは険しい顔をしている。

 おそらくマルコムの疑問は正しいものなのだろう。



 ミナミは理解はしなかったが、彼の疑問はわかったのでとりあえず頷いた。



 ただ、話題は変えてもマルコムは不機嫌だった。



「お嬢さんは今日村の人と接して何か感じなかった?」

 シューラはマルコムの不機嫌を気にせずミナミに尋ねた。



「一気に人が近くに来たからそれどころじゃなかったよ。それに、私はたぶん勘が鋭くないと思うの。よく鈍いって言われていたし…」

 ミナミは今朝自分の周りに群がった村人たちを思い出したが、いまいち印象に残る人はいなかったと思っていた。

 それにミナミはだいぶ鈍いらしい。お城にいたころから言われていた。



「ああ。」

 ミナミが鈍いと言われていると聞いてシューラだけでなくマルコムも納得した様子を見せた。



「でも悪意とかは別じゃないの?お嬢さんさ、綺麗なものしか知らなそうだから逆に敏感かもしれないし。」

 イトは興味深そうにミナミを見て言った。

 確かに彼の言う通りミナミは綺麗なものに囲まれていたと思うし、自分が汚いものを知らずにいたのはここ最近嫌というほどわかった。



「変なことを考えている人を見分ける方法は教えてもらったけど、この村に来てからはあまり見分ける役割果たしていないの」

 ミナミは昔教えてもらった、変なことを考えている人の見分け方をこの村に来てから実践したが、全然見分けられないのだ。



「それってどういう見分け方?」

 珍しくマルコムが興味深そうにミナミを見て尋ねた。



「えっとね、変なことを考えている人はお胸をじろじろ見てくるから、お胸を見てくる人がいたらすぐに連絡しろとお兄さ…家族が言っていたの」

 ミナミは数年前オリオンに注意されたことを言った。

 確か、お勉強を抜け出してお城の探検をしたときに遭った人が変な人だったらしく、後日オリオンに脱走を注意されたときにそれを念押しで言われたのだ。



「確か、お話しするときに相手の目を見ない人は疑わしいことを考えているから…って言っていたの!」

 ミナミは根拠を付け加えた。

 オリオンにどうしてそれで見分けられるのか尋ねたときに彼が少し悩んでミナミにこう言ったのだ。



 マルコムとイトは微妙そうな顔をしている。

 もしかしたらミナミの言ったことが間違った知識だったのかもしれない。



「でも、村の人たちほとんど人と話すときお胸を見てくるからよくわかんない。間違っていたのかな?」

 ミナミはしきりに目線が胸部に行くことを疑問に思っていた。

 ただ、もともと荒くれ者たちに村だから根底に後ろ暗さがあってなど潜在意識的な問題なのかと変に難しく考えていた。



「とりあえず、お嬢さんは家族の人が言った通りにすればいいよ。ただし、家族じゃなくて僕かモニエルに伝えてね。」

 イシュは困ったように笑いながら言った。

 宿にいた時よりも彼はミナミに優しい表情を向けてくれている。これもミナミを心配してのことだろう。



「わかった。イシュ。さっそくだけどイトさんもそうだよ。」

 ミナミは報告の義務を与えられたと思ったので、胸をやたら見て話してくるものを報告した。



 イトはマルコムとシューラに睨まれた。



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