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ライラック王国~ダウスト村編~
色気を出す青年
しおりを挟む村人たちの襲撃で今後の話をできなかったミナミたちは、イトとガイオがいない時を狙って今後の話をすることにした。
といってもマルコムの方針で彼が決めた。
幸い村人たちからいろんな話が聞けたので、それも今後の行動の指針としたいところだ。
村で集めた情報をまとめたところ、この村の近くの町はロートス王国との国境にあたる河口の町だそうだ。
ライラック王国の王都ほど大きくはないが、漁船が行き来する港町だそうだ。
そして、一番大事な事はロートス王国は帝国の手が伸びていない。
「なんでもライラック王国が特殊過ぎるから近くの国はどこにも寄らないという方針に昔から定めているらしいよ。要は隣国がライラック王国を侵略することが無いという暗黙の国際的な協定になっている。だからロートス王国に入国してしまえばしばらくは俺たちも追われないってわけ。」
マルコムは講義をするように説明をした。
「そういえば、お姉さまも私も大陸にはお嫁にいけないって言われた気がする。それの関係かな?」
ミナミはアズミがお嫁に行くときにちらりと耳に挟んだ話を思い出した。
もちろん直接聞いたのではなく、盗み聞きだ。
「そうだろうね。君たちの一族の力の詳細については知らないけど、王族の特殊性を維持するならその方針が利口だね。」
マルコムはどうやらミナミの話でいろいろ分かったようだ。
ミナミはいまいち特殊性の維持とか言われてもわからない。
「つくづくライラック王国の王族ってなんの秘密があるのかわからないね。」
シューラは首を傾げるミナミの髪をつまんで、指で遊びながら呟いた。
どうやら彼はミナミの金色の髪が面白いようだ。
「長い歴史で消えている部分が多いだろうけど、それを差し置いても強い癒しの魔力は魅力だよ。癒しの魔力は貴重でしょ?」
マルコムはチラリとシューラに目を向けて言った。
彼の言う通りシューラは癒しの魔力を持っている。
「まあ、とにかくロートス王国に早い段階で入るのがいいね。中立国といっても帝国がいつまで黙っている見ているかわからない。」
マルコムは早い段階でロートス王国に入ることが最善だと思っているようだ。
なので、この村でする身支度はロートス王国までの物でいいとなる。
ただし、この村の盗賊は片付けた方がいいだろう。
村から出て襲われたらたまったものではない。
「それに、島から出る大きな船はどうしてもライラック王国が多いから目立たないけど、ロートス王国も十分別の大陸に行くことはできる国だよ。」
地図を広げマルコムは慣れたようにミナミに説明した。
誰かに指示を出すのに慣れているらしい。
そしてマルコムはロートス王国に着いた後の話を少しするようだ。
「で、俺としては魔術師の国があるっていう西の大陸を目的地にしたいんだけど」
マルコムは、彼にしては珍しいほど遠慮気味に言った。
おそらく本当に彼の要望のようだ。
先の話をしたのは、この要望を耳に入れてほしかったからなのだろう。
客間でベッドに座って、ミナミは説明をするマルコムの話をじっと聞いている。
「僕は全然平気だよ。世界基準の魔術師がどんなものか知りたいし、ミナミの魔力の扱いも勉強しやすいだろうしね」
ミナミの隣に座るシューラが片手をあげて言った。その目は好奇心だろうか?未知のものに対してキラキラしている。
そして、彼はミナミの先のことも考えてくれているようだ。
ミナミはそんなシューラの言葉に嬉しくなってちょっとふわふわと魔力を出してしまった。
マルコムに睨まれて魔力を漂わせていることに気付いて、慌てて押し込めた。
隣のシューラは目を丸くしている。
「えっと…ありがとう!あとライラック王国は魔術師は少ないから私も気になる!」
ただ、ミナミは滅多に聞かない魔術師という存在にも心が躍っているのだ。
癒しを持っていたり戦いに魔力を扱う人というのはいるが、魔術師となると違うらしい。
どう違うのかわからないが、西の大陸の国で資格を取ってきちんと勉強した人らしい。
「まあ、俺の予想だと君たちはがっかりすると思うよ。」
マルコムは何か思っていることがあるらしく、皮肉気に笑った。
「そうなの?」
ミナミは首を傾げた。
「俺はともかく、追跡したときのリランを見ているでしょ?間違ってもアレと比較したらだめだよ。バケモノだから。」
マルコムは追いかけてきた時のフロレンス、リランのことについて言った。
リランのことを言われて一瞬ミナミはドキリとした。
ただ、よくよく考えてみると
風の魔力で空を飛び、雷の魔力でマルコムに攻撃をしていた。
確かにあの様子を見ると只者じゃないのはわかる。
そして、それと渡り合って地面をひっくり返していたマルコムも相当だということになる。
「ああ…それは僕もわかるけど、それを抜いても専門で魔力の扱いだけをやっているんだから、僕たちの予想もつかないものかもしれないよ」
やはりシューラの目はキラキラしている。
好奇心に溢れて可愛いとミナミはつくづく思う。
あと、ミナミはマルコムもシューラの言葉を聞いて同じように目を輝かせたのに気づいた。
これはマルコムの可愛いところも見れたかもしれない…などと考えた。
「強いかな。ケンカ売られたら刀で斬れるかな?」
だが、次に言ったシューラの言葉で何か違うとミナミ察した。
温室育ちだが、シューラがかなり物騒なことを言っているのはわかる。
「人間だから殴れば痛がるし血も出るよ。戦い方が特殊かも…」
物騒なシューラの言葉にマルコムは優し気なたれ目を細め笑った。
そしてマルコムも同じ考えだったようだ。
なるほど、二人は仲良しだ。
そして、その時のマルコムの目が結構色っぽいと、色々なことに疎いけどミナミは思った。
「それに、君が言う通り俺たちが予想のつかないものはあるかもしれない」
「君は何が知りたいの?」
マルコムの言葉にシューラは怪訝そうな顔をした。
「俺と君が警戒していることを思い出してよ。なんで逃走に楽な魔力を使わずにいるか…」
マルコムはどうやら魔力を使わないように行動をしているらしい。
隠密活動では積極的に闇の魔力をつかったりするからミナミにとっては意外だった。
そういえば、そんな警戒をしていることを聞いた気がする。
なんかの道具を警戒してだったような
ミナミは記憶をたどった。
「魔力を察知する何かの道具を警戒してだね。たしかに魔術師の国なら詳しいことがわかるかもしれないね。」
シューラは納得したように頷いた。
なるほど。ミナミは魔術師の国に行ってみたいというマルコムの要望の理由に納得した。
帝国がもしその道具や魔力を察知する術を持っていたら、二人は不利になる。
強大な帝国の手の内はわからないが、いつ帝国が手に入れるかわからない。
「でも一番の理由は、君が魔力を使うのは派手だからでしょ。ガサツだし、力加減っていうのを知らないからね。」
シューラは呆れたような顔でマルコムを見た。
その様子からシューラは、ちょっとは魔力を使っているようだ。
ただ、ミナミは気になることがあった。
「ガサツなの?」
思わず驚いて口に出してしまったのだ。
ミナミの言葉にマルコムは眉をピクリとさせた。
ただ、ミナミにとってマルコムはガサツという言葉が合わない気がする人間なのだ。
険しい顔ばかりしているから神経質な気もするし、端正な顔のせいか荒々しさは少ない。
何よりも護衛としてよく気がつくと思っている。
「うん。すごい大雑把でガサツだよ。」
ミナミの言葉に答えたのは隣に座るシューラだった。
彼はすごく頷いている。
「おい、
覚えておけよ」
そんなシューラをマルコムは顎を上げて見下ろすように見て言った。
先ほどの色気を感じる目の細め方をしている。
シューラがビクリとしたのがわかった。
ミナミは余計なことを言ってしまったのかと思って反省したが、最後に余計なことを言ったのはシューラだったのでは?
という結論にたどり着いた。
「は!?」
しばらくの沈黙があったあと、シューラは何かいいことがあったのか目を輝かせて立ち上がった。
その急な動きにミナミとマルコムは目を丸くしたが、マルコムはすぐに納得したような顔になった。
ミナミはまったくわからないが。
ただ、その理由はすぐにわかった。
「変態覗こうとしている」
とシューラは窓を指さして言った。
そのシューラの言葉がかかって数秒すると、窓がカタリと開きイトがのっそりと顔を出した。
どうやらイトが覗こうとしているのに気づいたらしい。
「…気づくのかよ…まじか」
イトは気づかれたことがショックなようで凹んでいる。
ただ、ミナミは覗かれそうになったこっちが被害者なのになぜあちらが必要以上にダメージを受けているのかわからなかった。
素直なミナミは
「どうして覗いた方がショック受けているの?」
とポツリと無意識に口に出していた。
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