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ライラック王国~ダウスト村編~
告白をする青年
しおりを挟む食事を終えたら歯を磨いて、桶にお湯を入れてもらって体をふき、着々と寝る準備に入った。
流石に贅沢にお風呂などは毎日は無い。
どうやら週に何日か村近くの川で水浴びをするのが普通らしい。
力仕事をする男衆は毎日水浴びをしているが、家の作業の多い女性はそこまで水浴びに行かないらしい。
あとは覗きの心配があるとのことだ。
「こうなるなら風呂作っておけばよかったな・・・いや、今からでも作れば今後役に立つか・・・」
ミナミたちの様子を見たガイオは、そんな事をブツブツ言いながら桶を持って台所に戻って行った。
どうやら風呂の設置を考えているようだ。
今後ミナミのような客人が来る可能性があるかもしれないと考えているのだろう。
「まあ、こういう逃げ場みたいな村は必要だからいいんじゃないか?」
イトは濡れた髪をかき上げて言った。
「君は水浴びしてきたんだ。外はどうだった?」
シューラはミナミと同じく桶に入った水で体を拭くくらいで済ませている。
「ああ。モニエル君に少しでも村を見る口実を作って外を見ろ・・・って言われてね。でも水浴びできる川は人目の少ないところだし、村の様子は察せられなかった。」
イトはどうやらマルコムに言われて村を見るために外で水浴びをしたようだ。
「モニエルの言う通りの目的なら、昼に水浴びをすればいいじゃん。・・・でも夜は人目が無いのか・・・いいな」
シューラは明日以降、夜に水浴びをすることを考えているようだ。
「まあ、俺は見られてもいい身体しているから昼でも余裕だな」
「君はよくても周りが嫌だよ。」
イトの自信満々の言葉にシューラは顔を顰めて言った。
「でも水浴びいいなー」
ミナミはお城の噴水や離宮の小川で遊んで楽しかったことを思い出した。
兄のオリオンは嫌がっていたが姉のアズミと飛び込んだこと。
「それいいね」
「よくないよ」
イトは目を輝かせて賛同したがすぐにシューラが却下した。
「ミナミお嬢さんの外見はたぶんこの村だと浮くよ。」
シューラはイトに同意を求めるように目を向けた。
「まあね。ミナミお嬢さん可愛いからね。何歳?発育もいいゴフッ」
イトの何となく俗っぽさ満載の質問にシューラは手刀をお見舞いした。
痛そうと思いながらミナミはイトに言われた質問について考えていた。
「発育って?」
「知らなくていいよ。・・・後でモニエルに聞いたらいいよ」
シューラは一瞬迷った顔をしたが、マルコムに丸投げするらしい。
「その質問するところ見たいね」
イトは心底楽しそうに笑っていた。
よくわからないミナミは首をかしげるしかできなかった。
「じゃあ、君は自分の部屋に戻って。僕たちはもう寝るから。」
シューラは足でイトを押して部屋から追い出そうとした。
イトは名残惜しそうにミナミを見てきたが、いろいろあって疲れたミナミはシューラの言う通りもう寝たいので
イトを見送ることにした。
イトが出て言った部屋は二つベッドとミナミたちの荷物がある。
「ミナミで一つで僕たちが一つ使うから…こっち側に寝てね」
シューラは二つのベッドを見比べて壁側の方をミナミに薦めてきた。
「申し訳ないよ。二人の方が体が大きいし」
ミナミは薦められたベッドに座ると、片側を開けてもう一人寝れるスペースがあることを主張した。
「一緒に寝る方が申し訳ないよ。…あと一般的に年頃のお嬢さんはそういうのはやめた方がいいよ。それに僕たちは元々野宿も平気な人間だから」
シューラはミナミの行動に少し呆れながらも、しっかりと説明をした。
「…さみしいし」
ミナミは口を尖らせた。
お城では一人で寝ていたが、父親を亡くし一人の兄が裏切り一人の兄が自分を守るために逃がし
家族との絆に大きな変動がある日々を過ごしていた。
あと、マルコムは別としてシューラは一緒に寝ても平気な気がするのだ。
「…寝付くまでの添い寝ならいいよ」
シューラは拗ねる様子のミナミを見て諦めたのか、ため息をつきながらミナミの座るベッドに腰かけた。
「ありがとう。わがまま言ってごめんね」
「別にいいよ。僕も君には世話になっているし」
シューラは何でもないように言うが、ミナミはシューラの世話をしたことが無い気がした。
どちらかというと面倒をかけている。
「マルコム以外といて楽しいのは初めてだから」
シューラは少しだけ微笑んで呟いた。
その顔をミナミは可愛いと思ってしまった。
「シューラって可愛いよね」
「え?」
思わず言葉に出してしまったので、ミナミは慌てて口を閉じた。
「君ってやっぱり美的感覚おかしいよね」
シューラは心底信じられないような顔をしていた。
村の川辺に揺らめく人影があった。
バシャバシャと川に人が入る音がしたあと
「覗き?」
といら立ちを隠さない声がした。
川に水浴びをしに来たマルコムは川の傍の木を睨みつけていた。
「別にー追い出されちゃったから」
木の陰から出てきたのはイトであった。
「筋肉の付けすぎで身長が止まったの?すごい身体だね」
イトはマルコムの身体を見て感心したように言った。
マルコムは彼の言う通り、幼少期の頃からの過剰な戦闘訓練で早くに身長が止まってしまった。なので平均よりも少し小柄だ。
ただ、身長が止まっても筋肉をつけることはできる。
「あと、体の傷すごいね。顔立ちは大人しそうな貴族っぽいのに、体は歴戦の戦士みたい。」
「実際そうだから」
マルコムはイトの言葉を否定しなかった。
彼の身体の右腕と左肩にある傷跡は体つきを含めて戦いで付いた傷にしか見えない。
「で、何が聞きたい?俺の事を探っているだろう?イシュのことも…」
マルコムは特に体を隠すことなくイトを見た。
「だから…お前、強過ぎるんだよ。」
「それはお前の周りの奴が弱いから…」
「俺は帝国以外の国は渡って様々な軍を見てきた。」
イトはマルコムの言葉を途中で切った。
「お前と張る奴なんて、それこそ黒い死神だけだ。」
「光栄だね」
「正直、この盗賊騒動はモニエル君たちの武力であっという間に解決するさ」
イトはそう言うとマルコムを真剣な顔で見た。
そして何かを決したような顔をし
「俺の護衛にならないか?」
と言った。
「嫌に決まっているだろ」
マルコムは即答した。
あまりの早さにイトは固まった。
「今はお嬢さんの護衛だし、俺は先払いしてもらっているんだ」
「イシュ君だけでも十分でしょ。彼も強いし、彼女だって…」
「いや、彼女はイシュだけでは守れない」
イトの言葉にマルコムは首を振った。
「あと…」
マルコムはイトをゆっくり見上げた。
「帝国のお宝は下手に探らない方がいいよ」
マルコムは今までに無い真剣な目でイトを見た。
「死神か」
「たとえ俺が護衛についても守れないと断言できる」
イトの質問に答えず、マルコムは続けた。
「親切なご忠告か…」
イトはマルコムが自分の誘いに乗ることが無いうえに質問にも答える気が無い様子を見て、諦めたように言った。
「まあ、君のことはそこまで嫌いじゃないからね」
マルコムはそれだけ呟くと、川から上がって体を拭いて服を着始めた。
「え?…それって告白?」
イトはマルコムの言葉に驚いて呟いたが
「不快だけどね」
とマルコムは付け加えるように言った。
シューラはふわふわとした夢の中にいた。
目の前の光景は、祖国で見たことのある王の寝室にある寝具のように清潔できらびやかだ。
見覚えのある光景だがなじみのないものだ。
そんなきらびやかできれいな場所に異質な自分がいがいる。
なによりも、ずっと血なまぐさい道を歩いてきた自分がこんな風景を見るなんて驚いている。
家族、唯一、大切な人
シューラが理解できなかったものだ。
ただ、それらは一振りの刀で簡単に消え去る者。
それは理解できている。
だからシューラにとって力は唯一のものなのだ。
強いものはすごい。単純だ。
生きていくために必要なものは吸収したが、人との繋がりだけは理解できなかった。
ただ、自分と同じ感性を持っているマルコムと出会って唯一というのがわかった気がした。
自分とマルコムは心を開かないということを前提としてるが
気を許しているのは確かだ。
どうして心を開かないことにしたのかは簡単だ。
シューラは心を開くということがわからなかったのだ。
人に対して見えない何かを求めることも
「気の抜けた顔・・・そんな顔できたんだね」
呆れたようなマルコムの声がかかった。
シューラははっとしてゆっくりと起きた。
隣ではミナミがすやすやと眠っている。
どうやら同じベッドで添い寝をしてそのまま寝てしまったようだ。
「戻ったんだ。」
シューラはとくに慌てる様子もなくマルコムを見た。
マルコムがさっぱりした様子なのは水浴びをしてきたからだろう。
「姫様は世間知らずで君も似たようなものだからね…俺からしたら二人の子守をしている気分だよ」
マルコムは何かをとがめたりする様子は見せず、疲れたような声色で言った。
「僕は成人している」
シューラは口を尖らせて鼻の上に皺を寄せた。
「お姫様と行動をするようになって、君は精神面で大きく変わった。」
マルコムは首を振った。
「失望した?」
「いや…興味深くて」
マルコムはシューラの言葉は切り捨てるように否定した。
「俺は裏切りと犠牲で捨てたけど…君がもし、心の唯一を作ったらどう強くなるのか…ってね」
マルコムは悲しそうな顔をしていた。
シューラは知っている。
彼が言っている捨てたものを
「何それ」
ただ、マルコムが何に興味があるのかシューラにはわからなかった。
「安心して。俺は君のことが好きだし君とはおそらく死ぬまでの付き合いだと思っている。」
「それはこっちもだよ。」
マルコムの言葉にシューラは安心するのではなく、当然のことだと思って笑った。
「それより、僕の精神面よりも…君がこんな話を僕にするなんて、君も成長した?」
シューラはすかさずマルコム尋ねた。
「泣かすぞ」
低い声でマルコムは言った。
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