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ライラック王国~ダウスト村編~

似ているお姫様

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 夜は襲撃にうってつけだが、襲撃の気配は無い。



「無いね…」

 マルコムの横にいるイトが呟いた。



「そうだね。だけど、これで思った通り、ただの馬鹿じゃないね。」

 マルコムはイトを横目で見ながら言った。



「思った通り…か。モニエル君はだいたいの目星はつけているの?」

 イトはマルコムを感心した様に見ながら訊いた。



「いや。…ただ、この村を狙うというのは、バカか、狙いがあるかのどっちか、その両方だからね…俺は、狙いがあると睨んだんだ。」



「へえ…たとえば?」

 イトはやはり興味深そうに見ている。



 マルコムは足を止めた。イトもそれに合わせるように足を止めた。



「けが人だね。」



「なるほど。でも、それだけか?」



「いや、けが人と何かを探していると思っている。具体的に言うなら…けが人から何かを聞きたいのかもしれないね。」

 マルコムは淡々と言った。



「へえ…何を聞きたいんだろうか?」

 イトは顎をさすりながら訊いた。

「わかるわけないでしょ。俺たち来たばかりだよ。」

 マルコムはイトの様子を見て首を振った。



「確かに。」

 イトは楽しそうに笑った。



「だから、捕まえた奴らに訊くんだよ。」

 マルコムは歩き出した。その方角は、捕らえた盗賊がいる方角だ。

 イトは驚いた様子だが、彼に合わせて歩き出した。



「でも、何でけが人目当てだと?」



「この村に似つかわしくない恰好、ケガをしているのは彼等だけだということ。わかりきったことでしょ…」

 マルコムは溜息をつきながら言った。



「すごいなモニエル君。」



「…馬鹿らしくなってきた…」

 冷やかすように褒めるイトを見て、マルコムは口を歪め、諦めの様に呟いた。



「穏やかそうな顔しているのに、結構気が短いなー。せっかく可愛い顔しているのに…」

 イトはさらに冷やかすように言った。



「君は軽薄そうな顔をしているね。」

 マルコムはイトの言葉に怒ることなく、嫌味のように言った。



 イトもマルコムの言葉に怒ることはなく、むしろ楽しそうに笑っていた。



 二人は捕らえられた盗賊がいる、村の端に当る場所の小屋に入った。

 小屋の造りは簡単だが、この小屋には地下があり、地下には牢屋のようなところがある。



「しっかりとした地下だね。」

 マルコムは地下に通じる階段を眺めながら言った。



「そうだな。素人づくりでもないし、使っている材料もしっかりとした石だ。」

 イトも同じく感心した様に階段を眺め、降りながら壁の石を叩いていた。



「ただの村じゃないってのがよくわかるね…」

 マルコムは階段を降りながらも、腰に差した剣に手をかけていた。



「警戒し過ぎだぞ。」



「そういう君だって、袖に仕込んだ刃物の位置を、直ぐに取り出せるようにしたでしょ?あと、使えるなら闇の魔力使って探ってよ」

 マルコムはイトを横目で見た。



 イトは一瞬顔を強張らせたが、諦めたようにため息をついた。

「本当に鋭いね。持っている魔力、闇は出さないようにしていたのに…」

 困ったように言うと、イトは手を床に付けて闇の魔力を出した。



「君みたいな輩なら持っているだろうと思ったんだよ。あと闇を持っている奴って隠密活動やりがちだから」



「それは否めない」



「まあ、俺は用心棒だからね」

 マルコムはその結論で話を終わらせようとした。



「職業柄、いろんな用心棒見てきたけど君ほど腕が立つ奴は初めて見たよ」

 マルコムにイトは目を細め、探りを入れるように呟いた、

 マルコムはその視線を受けて首をかしげて笑い、歩みを進めた。



「別に問いではないよ。下手に探ると怖いのはわかっているから」

 マルコムを追うようにイトは早歩きで付いてきて、話しを続けてきた。



「簡単な答えしかないから呆れただけだよ。」

「簡単?」

「そうだよ。」

 イトはマルコムに答えを期待するような視線を向けた。

 その視線を受けたマルコムはため息をついて



「そいつらが俺より劣っていただけだろ」

 とあきれたように言った。



「いや、確かにそうだけど・・・」

 あまりに簡単な答えにイトはたじろいだ。



「ロクな用心棒に遭っていないんだね。君の人脈も大したことないんじゃない?」

 たじろぐイトにとどめを刺すようにマルコムは言うと、腰に掛けた剣に手をかけたまま地下に降りた。





 地下には捕らわれた盗賊がうずくまっていた。

 拘束されているので自然なことだが、少し違和感があった。



 イトもマルコムもその違和感に気付いて、互いに目を見合わせて盗賊たちに駆け寄った。



 盗賊たちは拘束され、猿轡を嚙まされてしゃべれないでいる。

 格好はまさに村に襲ってきた盗賊だが



「あれれー?お前ら誰だよ」

 イトは牢の格子に手をかけてため息交じりに尋ねた。



 イトの声に拘束された盗賊の格好をしたもの達は顔を上げた。

 その目は縋るようなものがあった。



「どう考えてもその体格だったら馬を乗り回して他人を襲うことができないよね」

 マルコムは牢を開けた。



「ガイオさんに報告と相談だね。」

 マルコムは盗賊の格好をしたもの達の拘束を解き始めた。

 そして歯を食いしばって表情を歪めた。



「俺・・・嫌いなんだよね。裏切り者って」

 そうつぶやくマルコムの様子をイトは興味深そうに眺めていた。











 手当を受けた子供は呼吸も落ち着き、素人目にもひと段落着いたとわかった。

 薬草を付けるくらいしかやっていないが、ミナミは何とも言えない心地よい疲労感で満たされていた。



 そういえば、手に入れるのが難しい薬草が無くても大丈夫だったのだろうか?

 ただ、明らかに回復した子供を見ると深く考えるのは後でいいとミナミは思った。



「女神様じゃないの?」

「そうよ。ただのその辺のお嬢さんなのよ」

 手当された少年はキラキラとした目をミナミに向けながら尋ね、ミナミはそれに優しく答えた。



「その辺にいるというのは語弊がありそうだけどね」

 シューラはあきれた様子だが、手当てを受けた少年たちを注意深く見ていた。



「ふふ・・・最近女神ってよく言われる気がする」

 ミナミはイトにも女神って言われたことを思い出し、何となく照れくさい気持ちになった。



「よく?」

 耳ざとくシューラはミナミの言葉に眉をピクリと吊り上げた。



「うん。イトさんにも・・・」



「あいつにも!?・・・いや、そういえばそんな軽口・・・」

 ミナミの答えにシューラは思わずといった様子で声を上げた。

 部屋中に響いたのに気づきシューラはすぐに口を塞いだ。



「・・・今のことも含めてモニエルに言った方がいいね」

「え?・・・どうして?誉め言葉とか口説き文句じゃ・・・」

 声を潜めてシューラは尋ねた。マルコムをモニエルと呼ぶのは周りを警戒している様子だ。その警戒がミナミに伝わり返答は思わず声が震えてしまった。



「でも・・・本当に女神様に似ているわ」

 手当てを受けていた女性が体調が落ち着いたのか、目を薄く開けてミナミを見ていた。



「あ・・・ありがとうございます・・・?」

 ミナミは照れくさいというよりもなんとも言えない気持ちになって、どう返事すればいいのかわからずにとりあえずお礼だけ言った。



「君たちさ・・・もしかして帝国に行っていた?」



「そうですよ。帝国で見た女神様の絵にそっくり」

 女性はシューラの質問に警戒を見せることなく答えた。



「帝国・・・」

 ミナミはふとマルコムやリラン、エミールが自分を見て別の人の名前を言っているのを思い出した。



 いや、だがそれが彼女の言う女神と共通するはずはない。

 そう自分に言い聞かせ、偶然と片付けようとした。



 シューラはミナミをちらりと見て少し考え込むように俯いた。



「シュ・・・イシュどうしたの?」



「ううん。君もこれから嫌でも知ることだけど、僕の一存で君に話していいのか、わからないから・・・」

「関わる?」



「まあ、だって女神様って結構な頻度で言われているでしょ?」

 シューラはちらりと横たわる女性を見て言った。



「うん・・・」

















 マルコムとイトがガイオの家に戻ると、ガイオだけが家にいた。

 どうやらマルコム達三人を合わせた客人が泊まる部屋の準備をしているようだ。

「お嬢様とイシュは?」

「彼らはまだ患者の手当てをしている」

 マルコムの問いにガイオは、マルコムとイトが戻ってきたことに初めて気づいたようで準備の手を止めた。



「気を遣わせて悪いね」

「盗賊を追い払ってくれたんだ。当然だ。」

 イトの軽口のような言葉にガイオは真面目に答えた。



「それだけど、厄介なことになったよ」

 マルコムの言葉にガイオは警戒するように目を細め、辺りを見渡した。



「村に内通者がいる。というよりも村の奴が首謀者だよ。」

 マルコムの言葉にガイオだけでなくイトを驚いた。



「いや、内通者はわかるけど・・・首謀者かどうかは」

「俺の勘だよ。」

 イトの言葉にマルコムは当然のように答えた。



「イシュも同じこと言うんじゃないかな?」

 とつけ食わるように言った。



「勘か・・・だが、内通者がいるのは確実か」

 ガイオはそれ以上は追求せず、事実確認だけするようだ。



「それは確実だ。捕らわれた盗賊が手品のように村人に代わっていた。猿轡をさせていたから、ただ見回りしただけなら気づかずに終わった可能性がある。」

「・・・厄介だな」



「ミナミお嬢様を単独行動はさせないほうがいいじゃないか?」

 イトはマルコムを探るように見て尋ねた。



「言われなくてもそうするよ。彼女にはイシュをつけているし」

 マルコムはイトの探るような目を気にする様子無く言った。



「イトは何を探っているんだ?」

 ガイオはイトとマルコムの様子を見て呆れたように尋ねた。



 イトはガイオとマルコムを両方見て、困ったように首を傾げた。



「いやー。だって本当にモニエル君ほど腕の立ち人物はほとんど見たことないからさ。結構前にトラブった黒い死神ぐらいだよ」

 イトは言葉にマルコムは眉をわずかに動かすだけで特に反応を見せなかった。



 だが、逆にガイオは驚いた様子を見せた。



「黒い死神・・・帝国のか?ライラック王国に来ているのは赤い死神じゃないのか?」

 ガイオは警戒する様子を見せた。

 あまり帝国に対していい感情を持っていないかもしれない。



「俺は商人だからあちこち回るしねー。船旅の時に少しトラブってね。」

 イトはその時のことが大変だったのを表現したいのか、困ったように眉を寄せてわざとらしくため息を吐きながら言った。



「死神の話はいいから、村の話だよ。」

 マルコムはどうでもよさそうに言った。



「武人なら誰もが食いつく話題なのに、モニエル君は食いつかないんだね」



「目の前のことが一番だからだよ。さっさとこれからの話をしないなら俺はイシュたちの所に行くよ」

 マルコムは眉間と鼻の上に皺を寄せた。



「そうだな。失礼した。」

 ガイオはマルコムに軽く謝った。

 だが、イトはつまらなそうに口をとがらせている。



「とにかく、うちのお嬢様に危害が加わらないようにするのは第一だよ」

 マルコムは腕を組んで、当然のように言った。



「それは無理だろ」

 その言葉にイトは答えた。

 イトをマルコムは睨んだが、根拠を求めるように無言で顎をクイっと動かした。



「俺や君の確信した通り、村の中に協力者がいる。村に一番価値のあるものってなんだ?」

「価値のある・・・」

 イトの言葉にマルコムは警戒した。

 なぜならミナミの地位を悟られたと思ったからだ。



 しかし、その反応が悪手だとすぐに気づいて取り繕うように嫌悪を見せた。



「お嬢様の地位は知らないけど、彼女胸が大きくてかわいいしね。まだ成人していないお色気美人が確約されている少女なんて・・・放っておくわけないよね。」

 イトはマルコムの表情がどういうことを示すか掴みかねているようだが、当然のことのように言った。



「まあ、容姿は悪くないからね。」

「モニエル君って容姿はいいけど、絶対にモテないよね」

 マルコムが頷きながら言った言葉にイトは若干引いていた。



「でもイシュがついているから大丈夫だ。彼も腕は立つ。」

 マルコムはイトの言葉をガン無視してガイオを見た。



「彼が武器を振るうところは見ていないが、動きや振る舞いから強者というのはわかる。何よりも今の君に評価は確実だな」

 ガイオはマルコムの話を聞いて納得したように頷いた。



「ただ、彼は世渡りとかは苦手だし、駆け引きも俺ほど得意じゃない。」

「駆け引き得意なのか?モニエル君。君っててっきり全部力で解決するタイプだと思っていた。」

 マルコムは言葉にすかさずイトは反応した。



「手の内を見ずに評価するなんて、本当にお前商人か?」

「だって手の内明かしてくれないよねー。同じ山道を迷った仲なのに・・・悲しブゴッ」

 呆れたような口調のマルコムにイトは悲しそうに言ったが、すぐさまマルコムに鳩尾を肘で殴られ蹲った。



「迷ったのはお前だけだろ」

 マルコムは冷たく吐き捨てるように言った。



「あー・・・で、どうするつもりだ?」

 二人の様子を呆れたように見ていたガイオが待ちくたびれたのかマルコムに質問した。



「簡単だよ。村にいる裏切り者を見つければいいだけだからね」

 マルコムは当然のことのように言ったが、その回答を聞いてガイオだけでなく、蹲っているイトまでも首を傾げた。




_______

先行投稿をしているなろうに近づいてきたので、明日から一日一話0時投稿にします。
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