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ライラック王国~ダウスト村編~
精一杯の青年
しおりを挟むけが人を看終わったシューラとミナミは、ガイオの家に戻り、自分の滞在する部屋にいた。
シューラは習慣なのか、自分の武器の手入れをして居る。
ミナミは椅子に座り、呆然と自分の手を見ていた。
どうして手が震えたのか、ミナミはわからなかった。
確かに、父とアロウの死にショックを受けた。
だけど、悲しんだはずだ。
二人の死を、しっかりと悲しんだはずだ。
それに、全く魔力が使えなかったのだ。
「…どうしたの?」
シューラがミナミの方を心配そうに見ていた。
だが、その顔はどことなくぎこちない。彼なりに慣れないことをやっているのだろう。
「…わからない。」
ミナミは少し拗ねる気持ちが起こった。
本当は、何もできない自分が情けなくて、自分以外の者達が自分の代わりに動いていると思って、申し訳なくて仕方ない。
シューラは、自分の武器を仕舞い、それを壁に立てかけミナミの元に歩いてきた。
「…君には…その、恩がある。」
シューラはミナミの様子を見て戸惑っているようだ。
「…私、悲しんだよ。辛かったけど、まだ辛いけど…」
ミナミはゆっくりとシューラを見上げた。
「…でも、どうして私、何もできないの?」
ミナミは、答えを求めるようにシューラを見た。
シューラは少し考え込むように黙った。
暫くして、ミナミの手を両手で取った。
「…それは、悲しいとかの話じゃなくて…手が震えたこと?」
シューラは手に取ったミナミの両手を見つめて訊いた。
「…うん」
「…どうしてだろう…」
シューラも不思議そうに首を傾げた。
「魔力も使えなかった」
「それは使わなくて正解だよ」
ミナミの言葉にシューラは間髪を入れずに言った。
どうやらミナミはなるべく癒しの魔力を使わない方がいいようだ。
だが、それでも
「…私が言い出したのに…みんなに迷惑を…」
「最終的に請け負ったのは、僕が看ると言ったからだと思うよ…その、アロウさんのことで気を紛らわせたいとか…思ったのも…」
「それは、マルコムを丸め込むためにわざと言ったことでしょ?…私のわがままを通すために…」
ミナミは首を振った。
シューラは困った顔をした。どうやらミナミの言ったことは当たっているようだ。
彼なりに不慣れながらもミナミに気を遣っているようだ。
「…シューラは、私のわがままをどうして通させてくれたの?」
ミナミはシューラを見上げた。彼は、マルコムと違ってミナミの意見に好意的だ。
最初の印象では、こうなるとは思っていなかった。
「…僕、君がわかったからね…」
シューラは少し悲しそうに笑った。
「私が?」
「いや、全部じゃないよ。そりゃ、理解できないこともあるけど…、僕は…君と悲しみっていうのを…いや、君から教えてもらったのかな…」
シューラはミナミの横にぴったりとくっついて座った。
「…シューラ…」
「…僕、理解し合えた人には協力するよ。…昔も、僕と理解し合えた人のわがままを聞いて協力したことあったから…」
シューラは懐かしむように目を細めた。
彼の身の上に関わる話を聞くのは、ミナミは初めてだった。
身の上と言うのには抽象的だが、彼の過去の話だ。
「…その人とは、何を理解しあったの?」
「…さあ。…ただ、僕は後悔していない。だから…その、君のわがままを聞くんだと思うし…」
シューラは首を傾げて言葉を濁したが、後悔をしていないというのは確信を持っていた。
その彼の様子に、ミナミはどこか不安定さを感じた。
「でも、変なことは言わないでよ。僕は気は長くないから…」
「…うん。」
「僕よりも…マルコムの方が色々詳しいよ。彼は、その…僕よりも人間を知っているから…」
シューラは自分が、思ったほどミナミを元気づけられていないと思ったようで、少し申し訳なさそうにしていた。
事実、シューラは別にミナミのわがままを通した理由を言っただけである。
「…マルコム…か…」
ミナミはマルコムの辛辣な口調を思い出して、また気分が沈んだ。
「…とにかく、村にいる間は僕が護るから…っていうより、それが仕事だから。」
シューラはミナミの顔を見て困ったような顔をした。
元気づけようとしても、いまいちできないが、自分なりに気を遣ってくれるシューラにミナミは少しだけ癒された。
「ありがとう。」
ミナミは、心からお礼を言った。
「仕事だから…大丈夫。」
シューラは少し照れくさそうに俯いた。どうやらお礼を言われ慣れていないのかもしれない。
村の周りを徘徊するように見まわるマルコムとイトは、黙々と歩いていた。
「…しっかし、イシュ君があんなに手当てに慣れているとは思わなかったよ。」
イトはわざとらしい口調でマルコムに言った。
「彼は戦い慣れしているからね。俺もだけど、そういう人間の方が傷の手当は慣れている。乱暴だけどね…」
マルコムは面倒くさそうだが、淡々と言った。
「でも、君もひどいね。あのお嬢さん、血に慣れていないのに手当することになったんでしょ?それを…」
イトは挑発するようにマルコムに言った。
「当然のことを言ったまでだよ。時間を削がれるよりも、俺がやって、彼女の手を止めるのが一番だった。」
「それでも、雇い主だろ?言い方もっと優しくしたら?」
「それは支払いに含まれていないはず。」
マルコムはイトの言葉を断ち切るように言った。
「イシュ君の方が優しいんだね。彼女に…。あと、君もイシュ君に対しての方が優しいね」
「彼は子供だから。」
マルコムはイトの言葉を振り払うように言った。
「子供ね…。」
イトは探るようにマルコムを見た。
「それよりも…あの滞在人について何か知らないのかい?」
今度はマルコムが探るようにイトを見た。
「俺はお使いに出ただけだし、来た時にはもうすでに襲われていた後だって、言ったろ?」
イトは両手を上げて困ったように眉を寄せて言った。
「へえ…腑に落ちないいい方だね…」
マルコムは目を細めてイトを見たが、諦めたようにため息をついて前を見た。
「何か?」
「商人の癖に、得にもならない薬草探しをしていたことだよ。」
マルコムはイトを見ずに言った。
「モニエル君…誰だって世話になっている村のためならそれくらい動くだろ?」
イトは嫌味を言うようにマルコムを見下ろして言った。
「誰だってね…」
マルコムは口を歪ませて言った。
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