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ライラック王国~ダウスト村編~
勘繰り合う青年たち2
しおりを挟むガイオの家の二階にある客間にミナミたちはいた。
テーブルを挟んで向かい合うように置かれたソファにミナミとシューラで一つ、イトで一つと腰掛け、ガイオはテーブルの空いている面に向かうようにしゃがみ、マルコムはミナミとシューラの後ろの壁にもたれかかり立っていた。
ミナミはガイオが出してくれたお茶を飲もうとした。
それをシューラが止めた。
「毒は入っていない。安心しろ。」
ガイオは二人の動きを見て困ったように言った。
「僕が先に飲むよ。」
シューラは自分のお茶をクイっと飲み干した。
だが、飲み込む前にシューラは咳き込んだ。
その様子にイトは構え、テーブルに置かれたお茶に警戒するような視線を向けた。
ミナミはシューラの背中をさすり、どうすればいいのか考え、吐き出させようと背中を思いっきり叩き始めた。
シューラの背中をミナミの拳が殴る音と、シューラが咳き込む音が部屋に響いた。
だが、そこでミナミは思い出した。
シューラは毒が効かないと言っていたことを…
慌てていないマルコムを見ると呆れた顔をしている。
「が…まず!!」
シューラが涙目で、嗚咽のように呻きながら言った。
「…え?」
ミナミはシューラの言葉を聞いてポカンとした。
イトも目を丸くしている。
周りの様子を見てシューラは慌てて深呼吸をし、ミナミの手を止めさせた。
「…毒は無いよ…」
シューラは未だ涙目だが、呼吸が整っている。
だが、毒の有無は判断できたようだ。
「…あ…そうなんだ…。」
ミナミは机に置かれた自分のお茶を一瞥しただけで、手に持つことはしなかった。
それはイトも同じだった。
「ごほん…っと…話をいいか?」
あまりに気まずい空気が流れたからか、ガイオが話を振った。
「ああ。俺も早く話したい。」
イトはマルコムに目を向けていた。
どうやらイトはマルコムが気になって仕方ないようだ。
ミナミは彼の変わりようが気になった。それはシューラもマルコムも同じようだ。
自ら互いを深く探らないとの旨を言っておきながら、何故彼がそんな変化をしたのか…
「まず…一つ、これだけ答えて欲しい質問がある。モニエル君もイシュ君も。」
イトは真剣な表情だった。
「質問?…ものによったら正確に答えられないものか…」
「“はい”か“いいえ”で答えられるものだ。」
イトはイシュが言い終える前に言い放った。
それだけ大事なものらしい。
「ものによるけど…質問を聞いてもいい?」
マルコムは腕を組んでイトを睨みつけている。というよりも警戒をしているのだろう。
「モニエルとイシュは…2ヶ月前…ロートス王国にいたか?」
イトはゆっくりと、慎重な口調で言った。
それだけこの質問が重要なようだ。
彼の目はマルコムとシューラの少しの変化も見逃さないようにギラギラしている。
対して、マルコムとシューラは気の抜けたような、拍子抜けというのがふさわしい顔をしていた。
「いや。俺とイシュは最近ライラック王国の港に来たばかりだ。ロートス王国は行ったことが無い。」
マルコムの言葉にシューラは同意するように頷いた。
ミナミは二人の詳しい行動は知らないが、表情を見る限り嘘を言っているわけではないようだ。
「…そ…そうか。」
イトは残念そうに項垂れた。
「答えたんだから…お前のこと、少し話すんだよね。」
マルコムは項垂れるイトに容赦なく冷たい口調で言った。
イトは無言で頷き、しばらく考え込んでいた。
イトはマルコムとシューラに対して、先ほどまでの興味が無い様で、いくらか気楽そうな顔になっていた。対照的にガイオはマルコムとシューラが気になるようだ。
考え込むイトを見て、マルコムは呆れたようにため息をついた。
「さっきの質問だが、きちんと意味がある。」
イトは指を組んで淡々とした口調で言った。
もはや会話にミナミはついて行けないし、この会話に一番無関係だと思っていた。
ただ、気になる。
「意味…?」
マルコムは訝しむような声を上げた。
「ああ。俺がこの村に来たのは情報収集のためだ。」
イトはガイオを見て言った。ガイオはイトに頷いた。
「お前に興味を持ったのは…強いからだ。」
イトはマルコムが想像よりもずっと腕が立つことがわかったから態度が変化したと説明した。
ただ、それだけで先ほどの質問の意味はわからない。
ミナミはそうだが、マルコムは違うようだ。
「へえ…じゃあ、君は顔を知らない人間を探しているんだね。」
「察しが良くて助かる。」
イトとマルコムは勝手に会話を進めている。
ミナミの隣でシューラは首を傾げて会話に参加するのを止めていた。
ミナミもそれに倣った。というよりももとより参加していない。
「俺は、とある腕の立つ人間を探している。だが、そいつの顔も名前も知らない。わかるのはとんでもなく強いってだけだ。」
イトは困ったように首を傾げた。
「とんでもなく強い…か。俺は井の中の蛙かもしれないけど、俺より強い人間はあまり見たことないね。まあ、魔力の扱いを含めると分からないけどね」
マルコムは右頬の傷に触れながら言った。
ミナミはマルコムの手の動きから彼の右頬の傷を改めて見た。
彼の手つきや今の表情…
何気なく彼の顔の傷を見ていたが、もしかしたらあの傷は因縁深いものなのではないか…
ミナミの中でそんな考えが生まれた。
訊けないが…
「悪いな。…変な質問をして。ただ、俺から見てもお前は相当強い。」
「どうも。君も商人にしても…腕が立つよね…。それにずいぶんと魔力を使いなれている。」
マルコムは挑発するように言った。
それにイトは驚いたように目を見開いた。
「よく商人だってわかったな…やっぱり、それっぽいか…」
イトは自分の腕を持ち上げ服を引っ張たりして恰好の確認をしていた。
ミナミも驚いた。
ミナミの見たことのある商人というのはきらびやかな服を着て、やたら豪華なものを売りつける顔のテカテカした人間だからだ。
イトとは結び付かない。
「確かに商人っぽいよね…」
ミナミの隣のシューラが同意した。
それにミナミは少しだけ裏切られた気分だった。彼にはミナミと同じく会話について行けないままでいて欲しかった。
「まあ、モニエル君の言う通り俺はしがない商人だ。ただ、個人で動くことが多いからある程度腕に覚えがある…で満足?」
イトはマルコムに尋ねた。
どうやらリーダーはマルコムと思われているようだ。
まあ、立場が一番上のミナミは世間知らずだから彼に進めてもらうのが一番いいと思っている。
シューラは人との接触に慣れていないようで、ミナミよりも幼く思えるところが多い。
適任だ。
「いいよ。じゃあ、この会話は終わりで…」
マルコムは腕を組んでイトからガイオに視線を移した。
ガイオははっとした顔をして、真剣な表情をした。
「この村に滞在するにしても…何も分からないんじゃね…」
シューラが足を組んでのけぞるような体勢になりながら言った。
少し態度がでかいのではないかと思ったが、彼の頭をマルコムが軽く叩いた。どうやら注意しているようだ。
これからこの村の話をするようだ。
確かに、盗賊が出るのは物騒だし滞在する身としては詳しい情報が欲しいと思う。
ミナミはガイオとマルコムの顔を交互に見た。
マルコムは後ろに立っているため、ミナミの視線はあからさまにわかる。
「イシュの言う通りで、盗賊は聞いていない。」
マルコムの言葉にガイオは困ったように眉尻を下げた。
ミナミはガイオのことを、厳つい顔をして少し怖いと思っていたが、その顔を見たら少し可哀そうに思えてきた。
どうやら盗賊には本当に困っているようだ。
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