世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

文字の大きさ
上 下
115 / 326
ライラック王国~ダウスト村編~

勘繰り合う青年たち

しおりを挟む
 

 取り押さえられた盗賊たちを見て、村人たちは飛び上がり喜んでいた。

 ただ、まだ警戒は怠れないことから、数人の村人が武器を持って村の周辺に向かった。



 マルコムとイトは取り押さえられた盗賊を確認し、ついでに馬も捕まえ武器も没収し村に寄付するように渡した。



「イト殿は知っていますが、あなたは…いったい。」

 村人はマルコムを見て訊いた。



 イトも腕が立つような動きであったが、マルコムのほうが印象が強いのだろう。

 魔力も使わず、槍を一本で馬に乗った複数の男とやり合ったのだ。

 しかも打ち負かせている。



「ガイオさんの、村長の客ですよ…」

 マルコムは深く言わずに突き放すような口調で言った。



 その様子に村人は深く聞かずに礼だけ言った。

 訳ありの客が多い村にとって、マルコムの様子は追及しないのに十分だった。



「…お前、本当に何者だ?」

 イトは村人たちとは違って、マルコムを追求するように見ていた。



「お互い下手な勘繰りは無し…じゃないの?」

 マルコムはイトを睨むように見て言った。



 イトはマルコムの言葉に困ったように頭を掻いて溜息をついた。



「とにかく、俺達は家に戻ろう。ガイオさんに聞く話も沢山あるしね。」



「…だな。」

 イトは未だにマルコムを探る様に見ている。



 マルコムはイトの視線に溜息をついた。





「…その刃物…」



「あ?」



「不思議な戦い方だ。俺は初めて見たよ。それに魔力の扱いもなかなか上手い。」

 マルコムはイトを見て言った。



 その言葉を聞いてイトは少し満足げに笑った。

 マルコムは眉を顰めて舌打ちをした。



「おお。そうかそうか。俺の戦い方が気になるのか。」



「俺は最低限しか答えないし、お前が下手なことをするやつだってわかったらそれ相応の措置を取る。」

 マルコムは冷たい声色で言った。



「外見は本当に優男なのに、その顔の傷と目つきや口調のせいで損しているな。モニエル君は」



「下手なことを言うなら何も言わないよ。」



「悪い悪い。えっと、これは…」



「話は、ガイオさんやイシュ、お嬢さんがいる前で頼むよ。」

 マルコムはイトを睨むと、ガイオの家の方に向かった。



 イトは困ったように笑うとすぐにマルコムの後を追いかけた。



 ガイオの家の前には、待ち構えていたようにガイオが立っていた。

 警戒するような目をマルコムに向けている。



「君のことは知っているんだね。」

 マルコムは後ろを歩くイトを横目で見て言った。



「まあな。…とにかく中に入ってからだろ。」

 イトは早くマルコムに聞きたいことがあるようで、急かした。



 それはガイオも同じようだ。



「アロウから連絡を受けて腕が立つとは聞いていた…だが…」

 ガイオは言い淀み、言葉を止めた。



 マルコムとイト、ガイオはまた、客間にまで上がった。



 客間には、未だ警戒をしたままのシューラが刀に手をかけてミナミを守るように立っていた。

 その様子を見てマルコムは思わず笑った。



 マルコムとシューラはとりあえず付き合いは長いが、心を開くというべきか、感情的な心が絡むような関係ではない。

 というよりもそんな話をすることはなく、ダラダラと気が合うから共にいたのだ。

 そして感情的になることなど少なく、お互いいい年なのだから自己完結できる。



 そんなマルコムから見ても、シューラは短時間でミナミにかなり懐いているようだ。

 彼が自己完結できないことだったのだろうが、ミナミが思った以上に面倒見がいいのだ。

 あと絶対に認めないだろうが、二人の精神年齢が同じくらいなのも大きい。



 何よりも決定的なのは、喪失感の共有というべきだろう



 マルコムは自分で結論づけて納得していた。



 そんなことを思われているとは思っていないシューラはマルコムの表情を見て眉を顰めた。



「なんだよ…」



「別に…もう大丈夫だから警戒を解きな。」



 シューラはマルコムに不審そうな目を向けながらも刀から手を放し、ミナミの横に腰を掛けた。



「俺達の勇姿見てた?」

 イトがミナミを流し目で見ながら訊いた。



「私…座っていたからあまり向こうまで見えなかった…」

 ミナミが残念そうに申し訳なさそうに言った。

 何故かイトではなくマルコムを見てだが。



 イトは少しがっかりしたように項垂れた。



「僕は見ていた。…独特な戦い方をするね…」

 シューラはミナミとは違いイトを見て言った。

 イトがやっていたように右手で何かを投げる素振りをした。



「見えていたのか。俺からすると、モニエル君の戦い方の方が独特だ。というよりも無謀だ。」

 イトは肩を抱いて怯えるような素振りをして言った。



「俺は自信があるし、見ただけであいつらには有効な戦術だと思って戦った。」

 マルコムは呆れたようにイトを見て言った。



 4人が話していると、廊下からガイオがお盆に乗ったお茶を持ってやってきた。

 ガイオは足で扉を閉め、ミナミとシューラが座るソファの前にあるテーブルの上にお盆を置いた。



「二人も座ってくれ。」

 ガイオはミナミたちと向かい合う位置にあるソファをマルコムとイトに勧めた。



 特に断る理由も無いためマルコムはソファに腰かけようとした。



 が、イトが座ったのを見て座るのを止めた。



 何となく隣に座りたくない気がしたからだ。

 イトが少し悲しそうにマルコムを見ていた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...