世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

文字の大きさ
上 下
111 / 326
ライラック王国~ダウスト村編~

洞窟のお姫様

しおりを挟む

 目指す村は、川の近くと言えど目につくところではなく、切り立った崖の一部の岩が動き、その先に洞窟があった。

 どうやらその先にあるようだ。



 隠れ里のような村、まさにその通りだ。



 厳つい容貌の男に先導され、ミナミたちは洞窟を歩いていた。



 洞窟の中は勿論暗いが、明かりを灯されており、人が使っているのがよくわかる。それだけでなく、洞窟自体人の手にかかったもののようだ。



「すまないな。近頃物騒だから警戒しているんだ。連絡を受けていたとはいえ、あのような対応をさせてもらった。」

 先頭の厳つい男はミナミとシューラに笑いかけた。

 不思議とマルコムには笑いかけない。



「滞在していた俺もいたのに、ひどいな…」

 イトは先頭の厳つい男を睨みながら言った。



「お前、三日前に行方不明になってそのままだったからてっきり死んだと思っていた。」



「死んでない!!荷物だって村に置きっぱなしだし」



 厳つい男の言葉にイトは過剰に反応した。



「お前、三日前って…何やっていたんだ?」

 マルコムはイトを横目で怪しむように見た。



「いや、この辺を散歩していたら道に迷って…」

 イトは恥じらうように頬を染めて、ヘコヘコと笑った。



 それを聞いてマルコムは目を見開き悪態をついた。



「モニエル、最後だけだったとしても、こいつに道案内任せたのは間違いだったかもしれない。」

 シューラは前を歩くイトを少し憐れむような目で見た。



「冷たいなイシュちゃん。無事着いたからいいじゃない!!ねえ。ミナミちゃん。」

 イトは大げさに笑うとミナミの方を急に見た。



「え!!…」

 ミナミは急に話を振られて驚いた。そして、何を言っていいのか分からないので、少し考え込んだ。



「結果論だよ。それは。知っていたら君を使わない。」

 マルコムはイトの頭を軽く殴った。



「いて!!」

 イトは大げさに騒いだ。



「あまり騒がしくするなよ。洞窟内といえどもこの隠れ村を狙っている輩はどこにいるか分からないんだからな。」

 厳つい男はあまりにイトがうるさいのか、イトを見て言った。



「ごめんなさいな。」

 イトは両手を合わせて頭を下げた。



「…お前は村でもうるさかったからな…まあ、仕方ないが…」

 その様子を見て厳つい男は呆れたようにため息をついてからゆっくりとマルコムやシューラ、ミナミたちの方を順に見た。



「その様子だと、俺の話は聞いていないようだな。」



「ええ。俺達はここに来るようにと…アロウさんに」

 マルコムはシューラに同意を求めるように見ながら言った。シューラはマルコムを見て頷いた。

 その様子を見て、ミナミは少し疎外感を覚えて寂しくなった。



「そうか。俺は“ダウスト村”で村長という立場を取っている“ガイオ”という。アロウの予要望通りの準備までは少し時間がかかる。」



「いや、助かります。準備をしてもらうだけでも…」

 マルコムは素直に頭を下げた。





「ありがとうございます。」

 ミナミもそれに倣って頭を下げた。

 シューラはマルコムとミナミを見て少し考え込んだ。

 ミナミはシューラの頭を掴み、一緒に頭を下げさせた。



「ははは。お嬢さんよりもそっちの白いのが子供みたいだな。」

 ガイオはミナミとシューラの様子を見て笑った。

 中々豪快に笑うが、印象よりも優しい表情をしているとミナミは思った。



「俺の声よりもガイオさんの笑い声の方が響いている気がする。」

 イトがガイオを見て、口を尖らせていた。



「お…もうすぐ着くから、お前らには積もる話もある。」

 ガイオはイトを無視して、洞窟の先を指した。



 彼の言った通り、洞窟の先に明るい空間が見える。それは、洞窟内にある灯火とは違う解放感のあるものだ。



「この洞窟を出た先が、ダウスト村だ。」

 ガイオは人懐こい笑みを浮かべて言った。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...