世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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ライラック王国~ダウスト村編~

手を繋いだ青年

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 ミナミは驚いた。

 マルコムが持ってきた見たことのある白い塊は、確かにミナミの知っている魚だった。

 だが、彼がそれと一緒に持ってきたなにやらグロテスクな赤い塊と、二つの目がある生き物の頭のようなもの…



「それ何?…え?」

 ミナミは鍋に投入される白い塊とは別に鉄板に残った赤い塊と生き物の頭を指して訊いた。



 それを受けて、マルコムとシューラは溜息をついた。ついでに言うならイトもだ。



「お嬢さん…これが魚だって…知らないのかよ…」

 イトはマルコムの方を見た。



「今度泳いでいるのを見せるよ…この先色々と不便だからね…」

 マルコムはイトに答えず、ミナミに少し憐れむように言った。



 しばらくすると、野草と魚の鍋が完成し、4人で食することになった。

 もちろん、食べている間は無言だ。



 何か話したかったが、起きてから水分しかとっていないミナミは空腹だった。

 魚が思ったよりもグロテスクな面を持っていると知って食べられなくなることは無い程度にミナミは図太い。



 何よりも温かいご飯はおいしい。



 よって、おいしく鍋を完食したのだ。



 マルコムとシューラは、イトに対して警戒心があるため、下手に会話をしようとはしておらず、イトもそれを察しているのか自ら話し出すことはしていない。

 ただ、興味深そうにマルコムとシューラ、そしてミナミの食事の様子を観察するように見ていたが…



 食事を終えると、手早く鍋類を洗い、出発の準備を整えてしまった。

 そう、ミナミが口をゆすいでいる間にマルコム、シューラ、イトは全て終わらせたのだ。



 ミナミは、ルーイが片付け等が手早かったのを思い出した。

 それについて聞いたら兵士としての集団生活をしていれば自然に速くなると言っていた



 きっと三人は集団生活をしていたのだろう。



「お嬢さん、行こうか。」

 イトが戻ってきたミナミの元に駆け寄ってきて、腰に手をかけてエスコートするような体勢を取った。



「君は俺と一緒に先頭だよ。イト。」

 だが、そのイトの肩をマルコムががっしりと掴んで止めた。

 イトは舌打ちをした。



「お嬢さんは僕とだよ。」

 シューラはミナミが持っていた荷物を持ち上げた。



 シューラが持っていた荷物はイトが持っていた。一番大きな荷物はマルコムが持っていたが、どうやらイトは荷物持ちとして有効活用されるようだ。



「私のは…」



「お嬢さんはいいよ。人手はあるからね。」

 シューラはミナミに荷物は持たなくていいと言うと、イトとは違い、ミナミの手を取って歩き出した。

「行くよ。」



 白いシューラの手は、見た目とは違いカチカチと硬かった。

 見た目は少し柔らかそうだが、やはり武器を使う手だ。



 マルコムとイトを先頭に、ミナミとシューラが並んでまた歩き始めた。



 歩きはじめると、マルコムとイトはお互い無言だった。

 あからさまにマルコムが沈黙を貫いている。だが、何か指示があれば話すのであるので行動に支障があることはない。



 イトを警戒していると言っていたが、そこまであからさまになおかつ険悪にする必要があるのかミナミにはわからなかった。



 前の様子を見て溜息をついていると、シューラがミナミの腕を少し引いた。

 考えてみるとミナミは今、シューラと手を繋いでいる状態だ。



「どうしたの?」



「いや、モニエルに言われたことを思い出して…これから行く村のことを説明するね。」

 シューラはミナミの手を繋いだまま話し始めた。



「これから向かうのは“ダウスト村”って呼ばれている村なんだ。そこは、元荒くれ者達で構成されている村だよ。」



「荒くれ者…」



「でも、今は皆落ち着いて、ただの隠れ村みたいなものらしい。…アロウさんからの情報だから確かだよ。」

 シューラの声が萎んでいったが、“確か”というのを強調していて、アロウへの信頼が見える。



「アロウさん…そうだよね。」

 ミナミはシューラの口調から、アロウへの信頼と寂しさを感じたが、嘆いていられない。



 それはシューラもそうであり、彼が残した情報や逃げ道はかけがえのないものであるのだ。

 それを無駄にすることはできない。



 まあ、ミナミもシューラも泣いて嘆いたことから気持ちがだいぶ落ち着いているのが大きい。



「外に出るにしても準備が必要なんだ。そして、その準備のツテも含めて村に滞在するのが一番なんだ。だから、国に認知されていない村が必要なんだ。」



「何か…敢えて逃げ道を作っているみたい…」

 ミナミはシューラの口調から、あえて逃げ道の作られている環境に思えた。



「それについては僕も同意見だけど、村人の中にはアロウさんに恩がある人も多くいるみたいだから心配はあまりないと思う。それに、あちら側が察知するにしても時間のかかる村だし、限られた移動手段で下手に国境越えをするよりかはずっと安全だと思うよ。」

 シューラは自分の足を指差して言った。

 確かに、馬も無い旅では国境に向かうにしても先回りされる。というよりも、もうされているだろう。



 そもそも島国であるライラック王国から出国するとしたら船しかないのだ。

 空を飛べれば別だが、そんなことはできない。



 ならば、確実とは言えないが準備を万端にしてから行った方がいいというものだ。



「ミナミ…お嬢さん。」

 シューラがかしこまった口調で言った。



 シューラにお嬢さんと呼ばれるのは慣れないが、ミナミにはそれよりも気になることがあった。



「…“ミナミ”でいいよ。私も呼び捨てだし…」

 ミナミはシューラもマルコムも“ミナミ”と名を呼ばないことに対して寂しさを感じていた。

 前まではルーイやオリオンが呼んでくれていた名が、全く呼ばれないのだ。



「君と僕は対等ではないよ。」

 シューラは首を振った。



「だって、私シュ…イシュたちがいないと野垂れ死んじゃうし、身を護る術もないよ。」



「僕たちは、もう報酬をもらっている。なら、用心棒として役目を果たすのは…」



「私のために、お願い。」

 ミナミはシューラの手を握った。



「名前が呼ばれないと…、呼ぶ人がいないと寂しくて仕方ないの…」



「…」

 シューラはミナミの言葉を聞き、目を見開いて驚いた。だが、心当たりがあるのか考え込むように黙った。





「…ミ…ミナミ…」

 シューラが照れくさそうにぽそり呟いた。



 ミナミは久しぶりに名前を呼ばれた気がして嬉しく思った。

 実際には、イトに呼ばれているのだが、彼はそれを偽名と思っている。



 自分を知っていて呼んでくれるのとは違う。



「ありがとう。」

 隠し切れない笑みを浮かべ、ミナミはシューラを見た。





「微笑ましいね。モニエル君。



 そして、君もそんな優しい顔ができるんだね」

 ミナミたちの話を聞いていたイトが、隣のマルコムの様子を見て言った。



「…黙れ」

 マルコムはイトを睨んだ。





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