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ライラック王国~ダウスト村編~

枝を拾うお姫様

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「…すごい…」



 轟音といえるほどの凄まじい音を立てて、高い位置から水が落ちる様子は、頭で分かっていても圧倒された。



 そもそも、ミナミの頭の中にある滝の知識は、王城内の粗相をしている子供の像か、口から水を吐き出している獣の像だ。

 噴水も優しいものであって、こんな周りの人間のことを考えないような壮大さも水しぶきもない。



 水が落ちる音もだが、離れていても飛んでくる水しぶきは涼しさ満点だ。

 夏ならいいが、冬は遠慮したい。



「じゃあ、あの辺で休むよ。」

 マルコムは砂利と土の間らへんの位置を選び、川から少し離れた位置に荷物を置いた。



「…日が高くなってきたから、僕は日陰に避難するね…」

 シューラはフードを深く被って、近くの木陰に走って行った。



 そんな彼の様子を見て、ミナミはどうしたんだろう…と考えていると

「シューラは日光に弱いんだ。」



 ミナミの様子を見て、マルコムが補足するように言った。



「え…そうなの?」



「うん。少しなら大丈夫だけど、長時間出るとすぐに赤くなったり腫れるんだ。だから、彼は顔を隠す以外にもフードは必要なんだ。」

 そう言うマルコムは荷物を置いて周りを見渡している。



「何か手伝えることある?」

 ミナミはマルコムが何か作業をするつもりだと察知し、彼に駆け寄った。



「じゃあ、枝拾ってくれる?シューラも休み終わったら、焚火を作って欲しい。」

 マルコムは木陰で休んでいるシューラの元に歩み寄り、軽く頭を小突いた。

 シューラはマルコムに頭を小突かれても、多少口を尖らせる程度だった。



 ミナミはマルコムに頷いて、川沿いの砂利より山側にある木の群れに入った。



 ガサガサと草をかき分け、落ちている枝を探した。

 あまりマルコムとシューラから離れないようにと心がけているため、二人が見える位置に留まろうと気を付けた。



 が、やはり、木が沢山ある場所じゃないと枝は落ちていない。

 ミナミは枝を探すために山の中に入って行った。



 チチチ…と何か聞き慣れない音が聞こえた。

 木の間から聞こえるその音は、どうやら動物が発している音のようだ。



 ミナミは辺りを見渡して音の元を探した。



 チュン…という鳥の声が聞こえて音の元を見ると、鳥が気に泊まっているのが見える。

 かなり高い位置に泊まっているので手が届くわけじゃないが、海鳥以外の鳥をあまり見たことのないミナミには新鮮だった。



「…綺麗…」

 ミナミは音の元を探すために辺りを見渡したが、日が高くなっていることから木々の隙間から光がところどころ差し込んでいる風景に見惚れた。



 見たことのない景色だった。



 細工のされたシャンデリアがぶら下がった王城で過ごしていたが、それよりもずっと綺麗な天井がミナミの頭上に広がっている気がした。



 いわゆる木漏れ日というものを感じ、空と木々の葉を見上げながらミナミは夢中で歩いた。

 感動して魔力を漂わせそうになった時



 グニ…と、地面の感覚が変わり、ミナミは驚いた。

 だが、変わったのは感覚だけではなかったようで、ミナミは何かに突っかかり、何かの段差でバランスを崩して転んだ。

 驚いて飛び上がらなかったのは、突っかかって転んだからだ。



「いた!!」

 ミナミはズシャ…と音を立てて転んだが、衝撃はそこまでなかった。

 幸い地面は柔らかな土がほとんどで、固い木の根は避けていたようだ。



「…え?」

 だが、それよりも自分が引っかかったものを見てミナミは呆然とした。



 やはり、ただ地面の感覚が変わったのではなかったのだ。

 地面に落ちていた何かがあったのだ。



 それは、いや、その存在はミナミの目の前にいた。



 引っかかったのは、長い黒髪の背の高い人間だった。



「…あの…?」

 ミナミは黒髪の者に声をかけた。

 ミナミの声を聞き、黒髪の者は手をピクリとさせた。どうやら生きているようだ。



「大丈夫ですか?」

 安心して、その者の肩をさすった。



「すみませんー。大丈夫で…」

 ガシ…と、肩をさすった手を掴まれた。



「ひ…!!」

 と叫ぶ間もなく、ミナミは黒髪の者にグイッと手を引かれた。



 起き上がった者は、どうやら男のようだ。

 切れ長の黒い目に、細いが色の濃い眉。



「…め…女神…」



「え?」

 男が発した言葉にミナミは呆然とした。



「女神だ…こんなところで…」

 男はミナミの腕を更に体に引き寄せようとした



「離れろ!!」

 と、マルコムがどこからか走ってきて見事に黒髪の男に飛び蹴りを食らわせた。



「ぶお!!」

 と黒髪の男はマルコムの攻撃をもろにわき腹に食らい、ミナミから剥がれるように飛ばされていった。



「大丈夫?」

 マルコムは意外なほど、心配そうにミナミに駆け寄った。



「う…うん。それより…」

 ミナミはマルコムの攻撃を受けて倒れている男を見た。

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