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ライラック王国~ダウスト村編~
山を下るお姫様
しおりを挟む寝床に戻ると、シューラは薪に火をつけて暖を取っていた。
「…寒くないの?」
シューラはミナミとマルコムの様子を見て顔を顰めていた。
「動けば暖かくなるよ。…狼煙になってしまうから、早く消して。」
マルコムはシューラのつけた火を見て、目を細めた。
「うー…暖かいところで寝たいよ…ってああ!!!」
シューラは口を尖らせてマルコムを見上げた。
マルコムは掘り起こした際に避けられた土を火の上に被せ、消火してしまったのだ。
「早く行くよ。明るい内に目的地に着きたいからね。」
マルコムは肩を抱いてうずくまっているシューラの腕を掴み、無理やり立たせた。
「はい。姫様。」
マルコムは荷物の中から水筒を取り出し、ミナミに投げた。
「うわ!!」
ミナミは慌ててそれをキャッチした。
「とりあえず、水分だけ摂って。日が高くなる前に休憩地点でご飯を取れる予定だから。」
マルコムは逃亡用の荷物の一番大きいものを持ち、その次に大きいものをシューラが持った。
ミナミも最低限の荷物は持つ。
武器を背負いながら、マルコムは周りを見渡し、火を焚いた後など、人がいた痕跡は掘り起こした土を被せて目立たなくしている。
シューラは刀を手に取り、何度か振っている。どうやら準備運動のようだ。
「日が上りきる前に出発したいから、詳しい話は歩きながらと、休憩の時にするよ。」
マルコムはミナミの方に視線を一瞬向けると、シューラの肩を叩いて歩き出した。
シューラはミナミの元に駆け寄ってきて、横に並んだ。
どうやら昨日と同じようにミナミとシューラが並び、先頭はマルコムが歩くようだ。
暫く岩場のような道を歩いたが、直ぐに地面は柔らかくなり、草木が生い茂っているところに入った。
日が上ってきているせいか、鳥の声があちこちから聞こえる。
ミナミは暫く歩くと、地面の感覚にも慣れてきて周りの景色を見る余裕が出てきた。
「これからのことを歩きながら話すね。」
ミナミの様子を察したのか、先頭を歩いているマルコムは話し始めた。
「まず、大事なことだけど…俺とシューラは本名で呼ばないで。この前の偽名で呼んで。」
マルコムはまず自分たちを偽名で呼ぶように言った。
確かに二人は追われている身であり、かなりの有名人だ。
「姫様には言ったけど、今日はまず滝の下を目指す。そこでいったん休憩をする。ついでに川辺だから魔力の鍛錬でもかるくしてもいいね。
あと、ご飯は川だし適当に魚でも捕まえて食べる。保存食は取っておきたいからね。」
マルコムはそれから進む道の大体の方角と、懸念事項をいくつか挙げた。
どうやら二人が魔力を使わないようにしているのは、魔力に対しての追跡が可能な何かがあるという情報を持っているからだ。
しかし、耳に挟んだだけのことのため真偽はわからない。
ただ、慎重になるのに越したことはないのだ。
川辺で鍛錬ができると言った理由も、魔力の痕跡は川で流せるらしいからだ。
普段お勉強をサボっていたミナミは知らないことが多いと実感した。
色々な事はとりあえず置いておき、マルコムかシューラとはぐれるなという話になった。
「今日は滝の下から下流に向かって、しばらく行くと村があるから、そこに滞在するのが目標だ。」
マルコムは淡々と説明した。
シューラは知っていたようなので、驚くこともしなかったが、ミナミは驚いた。
「え…私、この辺に村があるの知らないよ…」
ミナミは今いる位置の地図をだいたいマルコムに見せてもらったが、地図にもミナミの知識にも村のことは無い。
「あえて認知されていない村だってさ。詳しくは着いてからだけど、逃げるために準備をするには最適な村らしいよ。」
シューラはミナミに安心させるような口調で少し優しく言った。
マルコムがその様子を一瞬だけ見たが、直ぐに前を見た。
暫く歩くと、柔らかい地面がまた徐々に固くなってきた。
草が生い茂っている様子から、岩肌の見える固い地面になってきた。
「もうすぐ川が見えてくるから、それに沿って下っていくよ。」
マルコムは注意を呼び掛けるように言った。
彼の言う通り、直ぐに川が見えた。そして、彼が注意を促した理由が分かった。
川に沿っているが、基本的に崖で、水面まで高さがある。
「…シューラ。」
マルコムがシューラを睨んでいた。
ミナミはそれの意味がわからなかったが、シューラは直ぐに慌ててミナミと場所を入れ替わった。
それを見てマルコムは安心したようにまた前を見て歩き出した。
「…あ。」
ミナミは、シューラが川側、崖側を歩いてくれていることに気付いた。
マルコムはミナミが崖側を歩いているのに気付いてシューラに注意したのだ。
…意外と紳士…いや、護衛対象だからだけど…
ミナミはマルコムのことを紳士かもしれないと思った。
まあ、確かに彼の名前は『マルコム・トリ・デ・ブロック』と、貴族のような名前だ。
それに所作を見ても彼はそういう教育を受けているのはわかる。
「姫様…さ。魚って触ったことある?」
シューラが雑談のつもりだろうか、話しかけてきた。
「魚…は、白くて透明なやつだよね。うん。食べていたから大丈夫。」
ミナミは食卓に出たことのある魚を思い浮かべた。
たまにピンク色のものも出てきた可愛い食べ物だ。
「うん。大丈夫じゃないね。」
シューラはミナミの顔を見て頷いた。
先頭でマルコムが溜息をついていた。
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