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ライラック王国~ダウスト村編~
夜空の下の青年2
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パチパチと火にくべた薪が燃えている。
その燃える炎が揺れる光を受け、マルコムの顔に作られた影も同じようゆらゆら揺れていた。ただ、マルコムは動かずにじっと炎を眺めていた。
「…悲しめた?」
マルコムは炎から顔も目も動かさずに言った。
ガサ…と音を立てて、闇の中からシューラが出てきた。
白い髪と白い肌は闇では浮かび上がるように目立つ。
「お姫様のお陰で…ね。」
シューラは少し気まずそうにマルコムを見ていた。
「別に悲しんだだけで君の価値観が変わるわけではないのはわかっているから、気にしなくていいよ。」
「知っているけど…君には頼れないから」
シューラはマルコムの向かいに腰かけた。
「姫様は…眠った?」
「疲れていたんだろうね。泣いていたら…直ぐ眠ったよ。」
シューラは穏やかに笑った。
マルコムは腕を組んで、考え込むように俯いた。
「…知らなかったのを…知らなかったよ。君が悲しいことを知らないというのをね…」
唸るように言うマルコムの口調は、少しだけ寂しさがにじみ出ていた。
「僕たちの間に、その会話は必要ないからね…持つ必要が無かったのもあるしね」
「…そうだったね…それより、君が他人の胸で泣くなんてね…、心を許したの?」
マルコムは片頬を吊り上げて皮肉そうに笑った。
「知らないよ。ただ、近くにいて縋りつくことができた…それだけだよ。」
シューラはマルコムの表情に何か反応するわけではなく、両手を上げて何でもないことを言うように言った。
「てっきり世間知らずは嫌いだと思っていたよ。だって、助けてもらって当然みたいな奴、嫌っていたでしょ?」
マルコムは顎に右手でさすりながら嫌味のように言った。
「姫様はそんな奴じゃないよ。」
シューラはマルコムの言葉に直ぐに反論した。
「…へえ…」
マルコムはシューラの様子を、目を細めて見た。
「…確かに、世間知らずだよ。けど、姫様は、誰かに助けてもらうことじゃなくて…自分で解決する力をつけたがっている。君が彼女に何て言ったか知らないけど、それは君だってわかっているんじゃないの?」
「そうかな?君は彼女に高評価すぎるよ。だって、これからのことを考える段階に入ったばかりなのは…遅いよ。」
マルコムは口元を歪めて笑った。
「君…何を基準に言っているの?」
シューラは目を細めてマルコムを鋭く見た。
「はい?」
「世間知らずの15歳の女の子にしては、僕は頼りになると思うし、君と僕が嫌う類の人間ではないと思うよ。」
シューラは両手を広げて、ジェスチャーをしながら大げさに言った。
「別に嫌いとは言っていないし、君の言う通りだと思うよ。」
「誰と比べているの?」
シューラの言葉にマルコムは頬がピクリとした。
「…似ているだけだって君は言っているけど…彼女と姫様を重ねているのがあからさますぎるよ。だから、そんなに辛らつに当たっているんでしょ?」
「…うるさいな…」
マルコムは苛立たし気に歯を食いしばった。
「まあ、僕には関係ないけど、突き放しすぎると可哀そうだよ。」
シューラはマルコムの様子を呆れたような目で見ていた。
「可哀そう…か。君が他人のために言うとは思えないセリフだね。」
「君だって、僕が悲しんでいるとか気にするタイプだった?」
二人はお互いを見て、皮肉気に笑った。
「そういえば、オリオン王子やあの兵士君が見たら倒れそうな事をしていたね…」
マルコムはミナミやシューラの行動を知っているようで、呆れたように笑った。
「うん。柔らかかった。人間ってそれぞれ体のつくりが違うからね」
シューラは特にいやらしい思いなど持っていないようで、感心したように言った
そしてマルコムをじっと見た。
「なんだい?」
マルコムはシューラの視線を受けて怪訝そうな顔をしている。
「君の堅いよね」
「泣かすぞ」
マルコムはシューラを睨みつけた。
マルコムの言葉を受けてシューラはどうして自分が睨まれているのかわからない様子で首を傾げた。
実際シューラはわかっていない。
「まあ、…姫様も君も勝手に思っているみたいだけど…俺だって、アロウさんが死んで悲しいよ。やっぱり、誰かを死なせるのには…慣れないからね。」
マルコムは燃え上がる焚火を見て、目を細めた。
「今回の状況はエミールさんも誰も恨めない。不思議な状況だったよ」
マルコムはシューラにも目を向けた。その目は焚火のせいなのか、ゆらゆらと揺れている。
「…久しぶりに後輩に会ったから、思い出したの?…君が死なせてしまった人たちのこと」
シューラは焚火を挟んで向かいにいるマルコムの前まで歩き、彼を下から覗き込むように見た。
マルコムはシューラの言葉に髪を掻き上げて笑った。
「…縋りつかせてくれるの?」
マルコムは見上げて来るシューラを見て、愉快そうに目を細めて笑った。
「泣いてくれるなら、考えてやってもいいよ。」
シューラは立ち上がり、腕を組んでマルコムを見下ろした。
「…ふざけんなよ…泣かせるよ。」
マルコムはシューラを見て顔を歪めて笑った。
その燃える炎が揺れる光を受け、マルコムの顔に作られた影も同じようゆらゆら揺れていた。ただ、マルコムは動かずにじっと炎を眺めていた。
「…悲しめた?」
マルコムは炎から顔も目も動かさずに言った。
ガサ…と音を立てて、闇の中からシューラが出てきた。
白い髪と白い肌は闇では浮かび上がるように目立つ。
「お姫様のお陰で…ね。」
シューラは少し気まずそうにマルコムを見ていた。
「別に悲しんだだけで君の価値観が変わるわけではないのはわかっているから、気にしなくていいよ。」
「知っているけど…君には頼れないから」
シューラはマルコムの向かいに腰かけた。
「姫様は…眠った?」
「疲れていたんだろうね。泣いていたら…直ぐ眠ったよ。」
シューラは穏やかに笑った。
マルコムは腕を組んで、考え込むように俯いた。
「…知らなかったのを…知らなかったよ。君が悲しいことを知らないというのをね…」
唸るように言うマルコムの口調は、少しだけ寂しさがにじみ出ていた。
「僕たちの間に、その会話は必要ないからね…持つ必要が無かったのもあるしね」
「…そうだったね…それより、君が他人の胸で泣くなんてね…、心を許したの?」
マルコムは片頬を吊り上げて皮肉そうに笑った。
「知らないよ。ただ、近くにいて縋りつくことができた…それだけだよ。」
シューラはマルコムの表情に何か反応するわけではなく、両手を上げて何でもないことを言うように言った。
「てっきり世間知らずは嫌いだと思っていたよ。だって、助けてもらって当然みたいな奴、嫌っていたでしょ?」
マルコムは顎に右手でさすりながら嫌味のように言った。
「姫様はそんな奴じゃないよ。」
シューラはマルコムの言葉に直ぐに反論した。
「…へえ…」
マルコムはシューラの様子を、目を細めて見た。
「…確かに、世間知らずだよ。けど、姫様は、誰かに助けてもらうことじゃなくて…自分で解決する力をつけたがっている。君が彼女に何て言ったか知らないけど、それは君だってわかっているんじゃないの?」
「そうかな?君は彼女に高評価すぎるよ。だって、これからのことを考える段階に入ったばかりなのは…遅いよ。」
マルコムは口元を歪めて笑った。
「君…何を基準に言っているの?」
シューラは目を細めてマルコムを鋭く見た。
「はい?」
「世間知らずの15歳の女の子にしては、僕は頼りになると思うし、君と僕が嫌う類の人間ではないと思うよ。」
シューラは両手を広げて、ジェスチャーをしながら大げさに言った。
「別に嫌いとは言っていないし、君の言う通りだと思うよ。」
「誰と比べているの?」
シューラの言葉にマルコムは頬がピクリとした。
「…似ているだけだって君は言っているけど…彼女と姫様を重ねているのがあからさますぎるよ。だから、そんなに辛らつに当たっているんでしょ?」
「…うるさいな…」
マルコムは苛立たし気に歯を食いしばった。
「まあ、僕には関係ないけど、突き放しすぎると可哀そうだよ。」
シューラはマルコムの様子を呆れたような目で見ていた。
「可哀そう…か。君が他人のために言うとは思えないセリフだね。」
「君だって、僕が悲しんでいるとか気にするタイプだった?」
二人はお互いを見て、皮肉気に笑った。
「そういえば、オリオン王子やあの兵士君が見たら倒れそうな事をしていたね…」
マルコムはミナミやシューラの行動を知っているようで、呆れたように笑った。
「うん。柔らかかった。人間ってそれぞれ体のつくりが違うからね」
シューラは特にいやらしい思いなど持っていないようで、感心したように言った
そしてマルコムをじっと見た。
「なんだい?」
マルコムはシューラの視線を受けて怪訝そうな顔をしている。
「君の堅いよね」
「泣かすぞ」
マルコムはシューラを睨みつけた。
マルコムの言葉を受けてシューラはどうして自分が睨まれているのかわからない様子で首を傾げた。
実際シューラはわかっていない。
「まあ、…姫様も君も勝手に思っているみたいだけど…俺だって、アロウさんが死んで悲しいよ。やっぱり、誰かを死なせるのには…慣れないからね。」
マルコムは燃え上がる焚火を見て、目を細めた。
「今回の状況はエミールさんも誰も恨めない。不思議な状況だったよ」
マルコムはシューラにも目を向けた。その目は焚火のせいなのか、ゆらゆらと揺れている。
「…久しぶりに後輩に会ったから、思い出したの?…君が死なせてしまった人たちのこと」
シューラは焚火を挟んで向かいにいるマルコムの前まで歩き、彼を下から覗き込むように見た。
マルコムはシューラの言葉に髪を掻き上げて笑った。
「…縋りつかせてくれるの?」
マルコムは見上げて来るシューラを見て、愉快そうに目を細めて笑った。
「泣いてくれるなら、考えてやってもいいよ。」
シューラは立ち上がり、腕を組んでマルコムを見下ろした。
「…ふざけんなよ…泣かせるよ。」
マルコムはシューラを見て顔を歪めて笑った。
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