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二人の罪人~ライラック王国編~
逃亡するお姫様2
しおりを挟むぼーっと周りの風景を見ていたが、どうやら疲れて寝てしまっていたようだ。
ガタン…と揺れる床の振動でミナミは目を覚ました。
「…ここは…」
ミナミは目をこすって周りを見渡した。
馬の上でもなく、マルコムの腕の中でもなかった。
不安定に揺れる床板がミナミの下にある。
ふわふわと体を揺らす感覚と、あやふやになる水平感覚…
「船の上だよ。」
近くにいたマルコムが言った。
ミナミはマルコムの方を慌てて見た。
それと同時に今いる空間を見渡した。
アロウの宿の浴室ほどの広さの部屋に荷物とマルコム、ミナミといる。
天井は高くなく、ミナミでもジャンプすればかるく手が付く。
出入口の扉はもっと低く、おそらくあまり身長の高くないマルコムでも屈むくらいの高さだろう。
マルコムはその扉の近くに座っているから高さの比較が予想しやすい。
部屋に窓が付いていないため外の様子は分からないが、船の中というマルコムの言葉は間違いないだろう。
この浮遊感は、ミナミの覚えがある。
だが、いつ船に乗ったのか…
「大海と面した港持ちの町で育った君には馴染みは無いだろうけど…川も船を使うよね。」
マルコムは今いる場所が川の上だと話した。
馬での逃亡は掴まれる予想はしていた。そのうえ、国境越えは手を回される。
当初は王都の港に潜むというのも考えたが、帝国軍が仕切り始めていたのもありすぐに却下となった。
川での船の移動は、一般の者もよく使うが、なによりも後ろ暗い立場の者がよく使うのだ。
海と違って直ぐに陸に付けるのもあるうえに、入り組んだ渓谷に入ってしまえばリスクはあれど敵を撒くこともできる。
ましてマルコムは土の魔力を持っている。町中を中心として逃げるよりかは入り組んだ地形で逃げる方が有利なのだ。
「まあ、この船の関係で馬は川辺に置いて行ったけど…」
マルコムは興味なさそうに言った。
「この船は…」
「アロウさんが用意したものだよ。ここまで馬で逃げるまでが本当の合流だった。」
「…なら…どうして馬は…」
「アロウさんは最初から自分を頭数にいれていなかったからだよ。君だってわかっているんでしょ?」
マルコムはミナミの疑問に辛らつに答えた。
「!?」
「本当はわかっているくせに確認することは面倒くさい性分だね…きっと頭の中でも同じようなことで思考は進んでいないんでしょ?」
マルコムは呆れたようにミナミを見ていた。
「…そんなこと…」
ミナミは口答えをしようとした。
だが、マルコムの言っていることは真実だ。
「まあいいんじゃない?悩む時間は沢山あるんだから…」
マルコムはミナミが何も言い返せないのを見て、更に挑発するように笑った。
「悩むって…」
「だってそうだよね。君は今自分の無知さと無力さを嘆いているし、それをどうにかしたいと思っている。」
マルコムは鋭い目でミナミを見た。
「…それは…」
ミナミは言葉に詰まった。
何故なら、ミナミは状況に付いていけなくて、まだどうにかしたいと思うところまでいっていなかった。
ミナミは嘆いている段階だった。
確かに、いずれはどうにかしたいと考えるだろう…
ミナミは自分の考えがマルコムの予想よりも後ろにいることに考え込んだ。
そもそも、何故彼がミナミの心情や考えを予想しているのかは知らないが、今、彼の言っていることはミナミにとって予言のように感じられた。
マルコムはミナミの表情を見て眉間に皺を寄せた。
「…まさか、まだそこまで考えていなかった…とか?」
ミナミはマルコムから目を逸らした。それは肯定の意を表す。
「…君のお兄さん…オリオン王子が可哀そうだ。」
マルコムは憐れむような口調で言い、立ち上がった。
その憐みはミナミに向けられたものではなかった。
ミナミは立ち上がったマルコムを見上げてわかった。
マルコムは憐れむような目ではなく、落胆したような目を向けていた。
「俺は、君のお兄さんとアロウさんによって君を守るんだよ。」
マルコムはミナミを見下ろして言った。
その彼の視線は冷たく、決してお前のために守るのではないと宣言していた。
マルコムの視線を受けて、ミナミは初めて彼とのこれからの逃亡生活に不安を覚えた。
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