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二人の罪人~ライラック王国編~

国王陛下の親友

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 オリオンは目の前の光景に愕然とした。



 協力者であり、世話になった人間が目の前で死にかけているのだ。

 血まみれで息も絶え絶えのアロウと、その傍でオリオンを待っていた様子のルーイ。



 そして、痛みに未だ呻くエミール。

 彼は構えようと起き上がろうとしているが、猫背でわき腹を庇うように屈んでいる。



「アロウ…さん。」



「姫様もだが…その目と髪…本当にタレスと同じ色だ…」

 アロウはオリオンの顔を見て嬉しそうに笑った。



 オリオンは思わず自身の魔力を使おうとした。

 だが、アロウはオリオンの手を掴んで

「いけません…これは死ぬケガなのですから」

 と止めた。



 それを聞いてオリオンは顔をゆがめた。





「ミナミは…無事あの二人と…逃げました。」

 ルーイはアロウを直視しないようにしているのか、わざと目を逸らしている。



「帝国騎士が来るのも時間の問題だ。我々は、決して逃がさない。」

 エミールは顔を歪めながらも、淀むことなくはっきりと威圧的に言った。



 彼もかなり出血しているが、死ぬケガではないようだ。

 ただ、傷は深くシューラに殴打されたわき腹の骨が痛んでいるようだ。



「わかっている…」

 オリオンはゆっくりとアロウの近くに膝をついた。



「…ミナミのこと…ありがとうございました。」

 オリオンはアロウに頭を下げた。



 アロウは首を振った。

「あなたは…昔の父親にそっくりです。不器用で…でも、優しくて…」



「もう話さないでください。」



「いえ…最期ですから…」

 アロウは眩しそうにオリオンを見て笑った。

 だが、オリオンの方に首を傾けるのが辛いのか、もどかしそうに視線を泳がせていた。



 オリオンは血まみれのアロウの背に手を回し、彼の身体を支え上げ、彼と視線を合わせた。



「オリオン王子…私は警告しないといけません…」

 アロウはオリオンを心配そうに見た。



 オリオンはその視線を受けて、眉を顰めた。

 警告されることは沢山ある状況のオリオンだが、何を言われるのか不安なのか、肩に力が入ったようにわずかにいかり肩になった。



「あの人には…私がいました。どんなことがあっても、一人にならないような…」



 アロウの言葉を聞いて、オリオンの傍に付いていたルーイが顔を上げた。

 彼はミナミに言われたことを思い出したようだ。



 ルーイの視線を受けてアロウはわずかに微笑んだ。



「…今更…」

 対してオリオンは自嘲的に笑った。



「あなたにも、必要です。オリオン王子…あなた…にも、影を知る…存在が…」

 アロウは痛みに呻きながら懸命に話していた。



「影を…」



「誰か…あなたにもたった一人の存在が必要です。あなたを理解する…そん…な…」



「アロウさん。もう無理をしないでください。お願いです。」

 息が途切れ途切れになっているアロウを見て、ルーイは首を何度も振った。



 アロウはルーイの方に目を向けて、かすかに首を傾げた。

 彼の目はどんどんぼうっとしているようにぼやけ始めている。



 おそらくルーイの声が聞こえなくなってきているのだろう。



「妻を取るように…ということですか?それが俺たちにとってどれだけ難しいことか…あなたはわかっているはずです。」

 オリオンはアロウに何かを求めるように、縋るように訊いた。



 だが、アロウはルーイにしたように、かすかに首を傾げるだけだった。



 もう、オリオンの声も聞こえないのだろう。



「…ああ、私は幸せだ。…タレス…お前と同じ…色を見て…私を助けてくれたお前と…」

 アロウはオリオンを見て、眩しそうに目を細めて、そして、嬉しそうに笑っていた。



「アロウさん…」



「…ありが…とう。」

 オリオンに目を向けたままアロウは言い、動かなくなった。



 オリオンは呆然と動かなくなったアロウを見ていた。

 そして何かに気付いたように、自分の手を見た。



 アロウの身体を支えたオリオンの手は血で真っ赤になっていた。

 地面も、そして地面に付いたオリオンの膝も真っ赤だった。



 オリオンはアロウをゆっくり床に降ろした。

 そして、労わるように彼の身体に自分が身に着けていた服の上着をかけた。



「…勿体ない言葉です…」

 オリオンはアロウに礼をした。



「ルーイ…悪いが…」

 オリオンはルーイに何か頼もうと彼の方を振り返った。



「!?」

 オリオンはルーイを見て思わず言葉を止めた。



 アロウの死にオリオン以上に呆然としていたのはルーイだった。



 ルーイは青白い顔をして、瞬きを忘れたように固まって、ただ目はアロウを見下ろしていた。

 平和なライラック王国の、その中でも安全だと言われている王城の警備しかしたことのなかったルーイは、このような人の死を見るのが初めてだった。



 分かっていても、行動を共にした者が目の前で死んだことに対して直ぐに動くことができないのだ。



 オリオンはルーイの肩を軽く叩いた。

 そして、後ろを振り向いた。



 ザッザッザ…と足並みをそろえてやってきたのは帝国騎士団だった。

 その先頭には落馬したリランがいた。



 意地でも立ち上がって先頭を走ってきたのだろう。



「丁寧に扱えよ。…前国王陛下の友人だ…」

 オリオンは責めるようにリランを見た。



 リランはオリオンを見た後に息絶えたアロウに目を向け、最後にエミールに目を向けた。



「…エミールは動くな。自分の治癒に専念しろ。他は追跡を続けろ。」

 リランは自分の後ろにいる騎士たちに命令すると、オリオンを睨んだ。

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