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二人の罪人~ライラック王国編~

追及される青年

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 合流地点は、郊外の農地の中にある牛舎の内の一つだ。

 数ある中から探すのは、場所をわかっていないと難しい。



 ただ、その中でも一番川の近くにあるのは、万一の時に船で逃げることができるようにするためだ。



 そもそも町をどう出るのかも問題だ。



 裏路地から表通りに出る前に、一旦地下水路の方に潜った。



 表に長時間出ると人目に付くからだ。



「…少し待ってもらおう…」



 地下に入り、目が慣れると直ぐにルーイがミナミを抱き寄せ、イシュに剣を向けた。



 蝋燭の頼りない明かりだけだが、イシュの顔はよく見える。

 色白の彼の姿は暗闇の中浮かび上がっている。そして彼の宝石のように綺麗な赤い瞳も輝いている。



 イシュはルーイの行動に驚くこともせず、ただ溜息をついていた。



「ルーイ?」

 ミナミは今、イシュに剣を向けている状況ではないと咎めるようにルーイを見た。



「ミナミも聞いたはずだ。さっきの帝国騎士の言葉…」

 ルーイはエミールのことを言っているようだ。



「えっと…エミールさんだっけ?あの人の言葉…って」



「やっぱり、イシュ…お前の言った通りあの人が帝国騎士団副団長か…」

 ルーイはイシュを睨みつけている。



「そうだよ。僕が副団長さんって呼んだから分かって当然だよね」



「お前と面識があるんだな。」

 ルーイはイシュとエミールの面識があることに対して警戒をしているらしい。



「直接的なものは無いけど…」

 イシュは曖昧な言い方をした。だが、おそらくそれは本当のことだろう。

 エミールの様子からイシュも知っているが、エミールの方が意識してイシュを知っているようだった。

 そして、向こうに敵意を持たれている。



「お前…シューラ・エカって呼ばれていたな。」



 ルーイの言葉にイシュは、表情は変えなかったが、腰に差した刀に手をかけた。



 ミナミも確かにそれは気になった。

 だが、別に偽名くらいあっても不思議ではないとアロウの宿にいる客を見ると思う。



「ルーイ。別に偽名くらい…」

 ミナミは思ったことを言い、イシュを咎めている場合じゃないと言った。



 だが、それでもルーイは引かなかった。



「ただの偽名と発覚したならいいさ。百歩譲って副団長と知り合いだったのもいいと思うけど…」

 ルーイは剣に手をかけながら言った。その手は微かに震えていた。



「僕の正体…わかっているんだね。」

 イシュはルーイの手を見て、腰の刀から手を外した。



「シューラ…っていうのが本名なだけでしょ?」



「お前、その名前がどんなものか知っているのか?」



「え?」



 ポカンとするミナミにルーイは呆れた顔をした。



「お前だって言っていただろ?帝国の死神が追っている“マルコム”ってお尋ね者のこと…」



「うん。フロレンスさんとエミールさんがたぶん執着している様子だったから…」

 ミナミは城の中で見た二人の表情を思い出した。

 オリオンもフロレンスが執着しているようなことを言っていたし、確実なことだろう。



「シューラ・エカは、そのマルコムと行動を共にしているお尋ね者だ。」



「え?」



「しかも、大量殺戮を繰り広げて残虐な悪魔と呼ばれ、向こうの大陸では恐れられていたような極悪人だ。」

 ルーイは刀から手を外したイシュを見て眉を吊り上げた。



「それは言いすぎだよ。向こうからやってこない限り手を出さないし…」

 イシュは初めてルーイの言ったことを否定したが、それはお尋ね者であることを肯定するものだった。



 ミナミはルーイの言ったことから一つの真実にたどり着いた。



「ねえ、ルーイ…二人組って言ったよね…」



「ああ。」



 イシュがそのシューラ・エカと言うなら…



「モニエルさんって…」

 ミナミの呟きにルーイは過剰に反応した。



 それを見てイシュは呆れたようにため息をついた。



「兵士君さ…僕の正体怪しんだんなら…モニエルのことは考えなかったの?」



「…だから、帝国に詳しかったのか…」

 ルーイは納得していた。



 モニエルが帝国に詳しかったのは…元々帝国の人間だったから…

 シューラと一緒に行動している帝国の人間…



「モニエルさんは…帝国に追われている“マルコム・トリ・デ・ブロック”…」

 ミナミの言葉にイシュ…シューラは頷いた。





「といっても、アロウさんは知っているよ。そのうえで僕らを用心棒に付けている。」



「確かに…腕だけは確実だ。」

 ルーイはやはりシューラに警戒を示したままだ。



「だから、今はそんなことをしている場合じゃないよ。」

 シューラは両手を広げてルーイに戦意が無いことを主張している。



 先ほどまでのミナミならルーイを宥めていたが、今は呆然としてルーイとシューラを見比べることしかできなかった。





 モニエル…マルコムと、フロレンス、エミールの繋がりが見えた。

 しかし、モニエルがマルコムと知る前に、三人には共通点があった。



 繋がりが見えたことでその共通点が、偶然ではない気がしたのだ。



 “ミヤビ”という名と…

 三人とも、ミナミを見て何かの反応をして居る。





「その青年の言う通りだ。」

 思案に暮れていたミナミを現実に戻す声が響いた。



 その声にミナミとルーイは慌てて振り返った。



 地下水路の奥から歩いてくる影。

 カツカツ…と、洗練されたような足音。



 声で誰かは分かったが、その人物がここにいるはずが無いとミナミは姿が見えるまでルーイの手をぎゅっと握った。





「今は逃げることが先決だ…」

 蝋燭の頼りない光が照らしたのは、見覚えのある金髪。

 ミナミと同じ色の髪と目…



「オリオンお兄様…?」



「オリオン王子…」



 奥から現れたのは、オリオンだった。



 声を聞いて分かったとはいえ、ミナミとルーイは予想しなかった人物の姿に呆然とした。



「君が…」

 シューラはオリオンを観察するように見ていた。



「とにかく、町を出て逃げる準備をしろ。」

 オリオンはシューラを警戒する様子を見せず、三人に対して手招きをした。



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