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二人の罪人~ライラック王国編~
力を振るう青年
しおりを挟む全く味気ない…
マルコムは槍に付いた血を振り払いながら溜息をついた。
宿にいた客は、とりあえず危険があるという名目の元全員意識を失うまで殴った。
槍のいいところは、ぶん回すことができるところだ。
マルコムはだいたいの武器を使えるし、剣に関しても普通以上の腕だ。
だが、自分の力を考えた時一番楽しいのは槍だ。
そもそも、斬らないことに多少の気を遣うのが面倒と感じる質なのだ。
マルコムは外見からは想像できないほどガサツで大雑把だ。
外に待機している王国の兵士には手を出すつもりはないが、オリオンが宿の中に連れてこなかったことや、単独でミナミを追いかけたことから信用に値しない立ち位置にいると判断している。
殴ってもいいだろうが、殺すことはダメだろう。
結局色んな力加減を考えた時、剣はマルコムに向いていないのだ。
アロウのこともあるため、ここで待って彼の逃亡を助けた方がいいだろう。
マルコムは無人のカウンターの中に入り、アロウが持っていた方がいい情報が書かれたものを探した。
そして、大事なのは、処分すべきものだ。
幸い宿帳にマルコムやシューラの情報はないだろうし、書くような真似をアロウがするとは思えなかった。
幾つかのノートを取り、いくつかのノートを燃やした。
「…何をやっているんだか…」
今の自分の行動や、状況は少しどころではなく理解不能なものだ。
自分のことなのによく分からない。
マルコムはミナミのことを考えた。
彼女はかつての自分の親友だった女性にそっくりだ。
そして、その彼女の死がきっかけで、今自分がここにいることもわかっている。
だが、マルコムは自分をリアリストだと思っているし、そう考えることが自分にとって都合がいいと分かっている。
「顔が似ている人間なんて…沢山いる。」
マルコムは自分に言い聞かせるように呟いた。
目の前で燃えて徐々に形を失くしていくノートは、分厚くても、火さえつけばじわりじわりと燃え広がり灰になっている。
家族想いのオリオンを理解することはマルコムにはできない。
家族の血の繋がりなど、マルコムにとっては煩わしいものだったからだ。
だが、友人のために身を削るアロウは理解できる。
「…友情…か」
マルコムは燃え尽きたノートだった黒い灰を見つめて呟いた。
思案にふける時でも、染みついた習性というのは抜けないものだ。
宿の外が騒がしくなってきた。
そりゃあそうだろう。
あのオリオンという王子は信用していないという理由はわかるが、長時間外に待機させることでどれだけ目立つか考えていない。
「…効率の悪い…」
舌打ちをして悪態をつくが、マルコムはオリオン王子に悪い印象は無かった。
マルコムは、外に待機している王国の兵士…だけでなくなった気配に槍を構えた。
バタン、ズシャ…と、扉が勢いよく開かれたと同時に一人の兵士が宿の中に飛び込んできた。
「…う…」
痛みに呻く彼の様子から、飛び込んできたというよりかは投げ込まれた様子だった。
「…君は…この前の」
彼の顔を見てマルコムは納得した。
「申し訳…ございません…」
マルコムの顔を見て呻く兵士は、ルーイに接触を計ったオリオンの使いだった兵士だ。
ザッザ…と、壊れたように開かれたまま扉の向こうから、足並みをそろえた兵士たちの足音が聞こえた。
マルコムは別にオリオンの使いだった兵を庇うわけではないが、彼の前に立って、足音を立てる者達を迎え撃つように槍を構えた。
「…いやはや…困ったものです。王子の単独行動には…」
歩いてきたのは、マルコムには見覚えが無いがライラック王国の年長の兵士のような外見をした者達と、先頭に立つ貴族のような男だった。
彼等は迎え撃つように立っているマルコムを値踏みするように見た。
「おいお前。王子はどこだ?姫様もここにいるのはわかっている。」
貴族のような男はマルコムを見て蔑むような目を向けた。
「外に待機させていたオリオン王子の兵士は…全部取り押さえたというわけか…」
マルコムは外にいる集団が変化していることを察した。
オリオンが待機させていた兵士たちは、この貴族の連れてきた兵士たちに取り押さえられているのだ。
「若い兵士の指導をするのは、年輩としての務めだ。紛らわしいことを言わないで欲しいな…」
貴族のような男はマルコムの言葉に呆れたように言った。
マルコムは男の言葉を聞いて、ちっとも興味を抱かなかった。
むしろ内心呆れた上に、それを隠すこともせず呆れた顔をした。
「何だ?その態度は?」
貴族の男も、彼に付き添っている年長の兵士たちもマルコムの態度に腹が立ったようだ。
「…俺、嫌いなんだよ。」
マルコムは槍を横に振り、威嚇するようにブウン…という風音を立てた。
マルコムの纏う空気や、槍の構え、ましては風音からただ者でないことを察した一部の兵士たちは慌てて剣を構えた。
兵士たちの一部が魔力を使い始めている。
どうやらただのバカの集団だけではないようだ。
「ははは。若造が。痛い目見るぞ?」
ただ、マルコムの行動を威嚇や虚勢としかとらなかった貴族の男は愉快そうに笑った。
「その言葉はお前が攻撃の意志を見せたと捉えてもいいね。
ありがとう…これで武器を振る理由が得られた…かな?」
マルコムは貴族の男の言葉に、ただ口を歪めて微笑んだ。
ギュ…と、マルコムの槍を握る手に力が入った。
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