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二人の罪人~ライラック王国編~
確認する青年2
しおりを挟む目の前の王子は、マルコムを見て、彼の持つ槍を見てから剣に手をかけた。
動き方からして、腕は立つかもしれないが、戦いきれないだろう。
とマルコムは判断した。
オリオンは、金髪とグレーの瞳をした美青年だ。
ただ、細い眉と薄い唇からは神経質そうな印象を受ける。
体躯も細く、マルコムなら簡単に腕を折ることができるだろう。
同じ細身でも赤い死神と言われているリランは別モノだが
「君は勝てない。」
マルコムはオリオンに剣から手を放すように促した。
「…彼女は?」
オリオンはミナミのことを聞くまでは剣から手を放さないようだ。
「俺の仲間と、ルーイ君と抜け道から逃げている…どうしたの?」
マルコムは槍を背負い、両手を上げて武器から手を放したとアピールをした。
とはいえ、素手でもオリオンに勝てる自信がある。
「…アロウさんに尾行が付いた。情報収集に動いているらしいが…ここに戻るところを見られる前に、彼女には移動してもらおうと思っていた…」
オリオンは剣から手を放して話し始めた。
どうやら、どこからかアロウと国王の接点に帝国側とライラック王国側の一部が気付いたらしい。
そして、アロウが情報収集に動いているのを掴み、尾行をつけたとのことだ。
王国側は別として、帝国側の尾行を撒くことは難しいだろうし、アロウに接触して伝えようにもオリオンが動くともっと危険だということで、直接来たらしい。
「…妹想い…だね。」
「え?」
顔を真っ青にして、息を切らして言っているオリオンを見てマルコムは呟いた。
「…妹だから…当然だ。」
オリオンがさも当然のように言った。
その口調には、天邪鬼さと愛情があった。
家族に対する愛情があった。
ルーイやアロウの言った通り、オリオンと言う青年は家族想いということに、マルコムは自分の目で見て納得した。
「…ただ、血が繋がっているだけなのにね…」
目の前の、ただ妹のために危険を冒す青年をマルコムは全く理解が出来なかった。
「え?」
「いや…それよりも、君が簡単に来ていいの?ここがどういうところだかわかっているの?」
マルコムは幸い廊下にいてまだロビーには来ていないが、この宿に泊まっている客層の話をした。
オリオンはわかっていたことのように頷いた。
わかっていて危険を冒しているのだ。
そのことが、ますますマルコムにはわからない。
ただ、わかるのは、自分から動くしかないほどオリオンの周りは信用できる人間が少ないということだ。
「…だが、逃げているのなら」
オリオンはミナミが逃げたと聞いて少し安心していた。
「いや、俺は安心できないよ。」
マルコムは全く逆だった。
オリオンの話を聞いて、ミナミたちが抜け道から逃げたことが良くないことだと思えてきた。
「アロウさんを…人物が分かっているのなら…抜け道を察知されている可能性が高い。そう言うのを見つけるのが得意な奴だからね…」
マルコムは帝国側で動いているであろう人物を思い浮かべた。
「なんだと?」
「おそらく、アロウさんの尾行は確認作業だよ。挟み撃ちのための…」
マルコムの言葉を聞いて、オリオンは再び顔を青くした。
「俺の連れをつけているから大丈夫だと思うけど、誰が動いているのかで状況が違う。」
マルコムは声を低くして、警戒を露わにした。
動いているのがライラック王国の人間なら、全然シューラは大丈夫だ。
勿論帝国でも大丈夫だ。
それは、例外を抜かしたら…だ。
シューラと渡り合える帝国の例外…
一人心当たりがある。
そして、そいつはマルコムが察知できないほど隠密活動が得意なのだ。
ガタン…と、廊下から異変を察知した客が出てきた。
オリオンは剣に手をかけた。マルコムも槍に手をかけた。
「…何でー王子様がここにいるんだ?」
出てきた客は、オリオンの外見を知っていたようだ。
彼は厭らしい笑みを浮かべてオリオンを見ていた。
その顔を見てオリオンは眉を顰めた。
マルコムは近くにあった椅子を持ち上げた。
ドゴシャ「があ!!」
…と椅子が客にぶつかる音と彼の悲鳴が響いた。
客は、椅子を頭に食らい倒れた。
意識が無いのか、命に関わるケガをしたのか分からないが、マルコムが投げた椅子で倒れたのは確かだった。
「…早く行きな。」
マルコムは何が起きたのか理解できず呆然としているオリオンを見て急かすように言った。
「今の…お前…」
「君はもっと強気でもいいと思うよ。」
マルコムは横眼だけでオリオンを見た。
「え?」
「家族想いの君の…弟も、妹も…リランは殺す気は無いと思う」
マルコムの言葉に険しい顔をしていたオリオンが一瞬呆けた顔になった。
「…お前、名は?」
オリオンは剣から一旦手を外してマルコムを見た。
マルコムも槍から手を外した。
「…マルコム・トリ・デ・ブロックだよ。」
マルコムは隠すことなく、本名を名乗った。
マルコムが名乗ったのを聞くと、オリオンは驚かずただ頷いた。
「…大罪人だよ。」
マルコムは自嘲的に笑った。
「知っている。」
オリオンはマルコムに対してではなく、廊下にいるであろう他の客に備え、剣に手をかけた。
「ありがとう。マルコム。」
オリオンはマルコムに目を向けると、走り出した。
どうやら彼は抜け道に向かったミナミたちの元に行くようだ。
マルコムは毒気が抜かれたように、走り去ったオリオンの方を呆然と見ていた。
「…やっぱり、理解できない…」
マルコムは諦めたように呟いた。
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