世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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ライラック王国の姿~ライラック王国編~

無邪気な青年たち

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 宿に来た兵士たちとルーイは今後の話を打ち合わせて、彼等を城に返した。



 警戒する必要はあるが、兵士たちには何事も無かったように城で過ごしてもらわないといけない。



 ルーイはミナミとまた部屋に閉じこもっている。



 見張りの仕事を終え、アロウからも休憩の許可を得たマルコムとシューラは、宿のロビーで向かい合って座っていた。



「あの兵士君…頑張っているよね。微笑ましいよ。」

 シューラは冷やかすような口調で笑いながら言った。



「あの雑魚?どこが?不快じゃないの?」

 シューラの言葉にマルコムは露骨に顔を歪めた。



 シューラはマルコムの顔を見て驚いたように目を見開いた。



「そんなに驚くこと?だって、あいつ絶対に弱いよ。」

 マルコムはシューラの顔を見て、残念そうに眉尻を下げた。



「僕と君に比較したらだめだよ。彼は…自分の程度をわかっているから、僕はそこまで嫌いじゃないよ。」



「程度をわきまえている?どこが?あいつ俺に絶対に敵わないくせに敵意をむき出しにしているんだよ。…ありえないよ」



「姫様に対して意識し過ぎだからだよ。君の言質を取ったとはいえ、僕も不安になるほど君は彼女を意識している…」



 シューラの言葉にマルコムは眉をピクリとさせた。



「君が彼女たちへの協力を了承するとは思っていなかったし…意外だよ。」

 シューラは腕を組んでマルコムを責めるように見た。



「…アロウさんには、お世話になっている。」



「王様の「お友達」だった人…か。」

 シューラは「お友達」という言葉をわざとらしく強調してマルコムを煽るように笑った。



「宿と食事のお世話になっている、それに、彼は嫌いじゃない。」

 マルコムは両手を上げて困ったような顔をした。

 そして、鋭い視線をシューラに向けた。



 どうやらこの話題はここまでということらしい。



 これ以上マルコムは「お友達」に触れるような話題には答えないと示したのだ。



 シューラは溜息をついた。



「じゃあ…僕たちは、あの死神を出し抜けると思う?」

 シューラは挑むような目をマルコムに向けた。

 その口調は、楽しそうで、何かを期待しているものだった。



「さあ…?あの、お姫様や雑魚君には無理だよ。」



「それはわかっているよ。更に言うなら…噂の王子様も無理だろうね。」

 マルコムの反応が普段通りなのか、シューラ安心したような顔をした後、ずっと楽しそうにしている。



「そうだよ。でも…俺がいれば…違うよ。…もちろん君もね」

 マルコムは口元を歪めて笑った。



 マルコムのその顔を見て、シューラも同じように笑った。



「大事な位置とはいえ、こんな小国にあいつが来るなんて、俺と君の噂を聞いたからに決まっているよ。」

 マルコムは左手を眺めながら笑った。



「…久しぶりに帝国の相手しようか?」

 シューラは笑顔でマルコムに聞いた。

 その笑顔は、無邪気でどこまでも楽しむことしか考えていない顔だった。



「…あのさ、君のほうが姫様に協力的だよね…」

 マルコムはシューラの顔を見て呆れた顔をした。



 シューラは変わらず笑顔だ。



「まあ、善意じゃなくて、君は暴れたいだけの癖にね…」

 マルコムはため息交じりに呟いた。



「当然だよ。」



「君のその清々しさは、やっぱり好ましいよ。」



「僕も…君の、実は割り切れない人間らしい所とか…大好きだよ。」

 ガタン…と、シューラが言い終えると同時にマルコムは彼の胸倉を掴んだ。



「君さ…俺が姫様になびかないか不安になっていなかった?」

 マルコムはシューラを睨んでいた。



「楽しもうよ…モニエル。」

 シューラは口を歪めて笑った。



「ゴミの相手ばかりで溜まっているでしょ?僕も…君も」

 シューラはマルコムの右頬の傷に手をそっと伸ばした。

 そして傷にゆっくりと指を添わせる。それは、なにか危ない香りのする触り方だった。



「…」



「興奮すること、血が滾ること…久しぶりなのに、楽しまないと損だよ。」

 シューラは目を細めて笑い



「力を振るっている限り、君は姫様になびくことは無いよ。」

 と断言し、シューラはマルコムの頬の傷に爪を立てた。



 マルコムはシューラを見て驚いたように目を見開いたが、すぐに眉を寄せて呆れたように笑い始めた。

「…それを聞いて安心したよ。」

 マルコムは顔に触れるシューラの手を乱暴に掴んだ。



「見られているよ?」

 シューラは愉快そうに目を細めながら、マルコムの死角にあたる客室に続く廊下への入り口を目で指した。



「知っている。けど、違う意味で姫様を大切に思う兵士様に警戒されすぎるのは…嫌だからね。」

 マルコムは横目で背後に視線をすっと向けてから笑った。



「…楽しもうよ…イシュ…」

 マルコムは口を歪めて笑い、シューラの耳に口を寄せて囁いた。



 二人は目を見合わせて笑った。

 不思議とその顔を無邪気だった。







 そして、シューラの言った通り、客室に続く廊下への入り口にルーイがいた。

 彼は目を見開いてシューラとマルコムの様子を見ていた。



「…まじかよ…」

 意図せずにルーイは呟いていた。



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