59 / 326
ライラック王国の姿~ライラック王国編~
影に生きる男
しおりを挟むミナミとルーイはやることが無いので、ただ二人でとりとめのない会話をしていた。
ミナミは正直勉強をしたかったし、本も読みたかった。
自分が未熟であって、何も知らないことや無力なことが分かるとできることや自分を高めることをやりたかった。
そして、何よりミナミは魔力を抑える術を身に着ける必要があるのだ。
不意にピカピカ光らせてしまうのは拙い。
隠れて葬儀を見に行っても、うっかり光ってしまったらすぐにミナミだとバレてしまう。
自分を高めることをしたいのは、ルーイもそうだろう。
会話をしながらも体を動かし、軽いトレーニングをしている。
アロウが来たら何か本とかでも持ってきてもらおうとミナミは考えていた。
また、魔力の抑え方がわかる者がいればなおさらいい。
その考えが通じたのか、お昼過ぎにアロウが部屋に入ってきた。
ただ、その顔は真っ青だった。
「どうしたんです?」
少し彼に気を遣い、優しく窺うようにミナミは聞いた。
「…モニエル君たちの言う通りになりました。…帝国が主導し始めています。」
アロウはミナミとルーイを順に見た。
「主導…って、事は濡れ衣は晴れたってことですから…ミナミは…」
ミナミをチラリと見たあと、ルーイは少し考え込んだ。
フロレンスに友好的な感情を抱いているミナミは別として、彼はやはりイシュとモニエルとの会話の中であった、ミナミがオリオンの弱みと見られているというものが引っかかっていた。
果たして彼女を城の戻していいのか…
一時的な避難であるが、確かに二人の言うことは合っている。
オリオンからの連絡を待つべきだというのは明確だ。
「…やっぱり、お兄様からの連絡を待たないといけないんだね…」
ミナミはルーイが考えていることを察したのか、少し諦めたように言った。
「正直、それは正しいですよ。姫様…」
アロウは顔を青くしたまま話し始めた。
国王の殺害については、当事者同時の打ち合わせ不足もあったのかもしれないが、おざなりな作戦であっため、兵士たちからの不信、そしてミナミがいないこともあり、ホクトに対して完全に疑惑を持たれた展開になったようだ。
それに加え、帝国からの武力での脅しがあり、ホクトは完全にフロレンスに折れたようだ。
自分の命もだが、自分のせいで国と町が滅ぶ可能性を見たのだろう、国王殺害の実行犯は大臣と供述し、共謀罪でホクトと大臣は捕らえられたようだ。その時に二人に加担した兵士たちも捕まったらしい。
ミナミの存在が無くてもフロレンスは濡れ衣を晴らせた…だが、実行犯は真実ではない。
「…あくまでも一部の兵士の噂ですが…」
アロウは前置きを言ってから話始めた。
ホクトが実行犯じゃないという展開を認めたのは、彼を死罪にしない理由を持たせるためと、オリオンに対しての考慮だということだ。
「オリオンお兄様への…?」
「はい。オリオン王子の家族に対する考え方を上手く使って彼を操ろうと思っているようです。」
アロウは、ホクトがオリオンにとっての人質になりうる話をした。
どうやら彼の顔が青かったのは、帝国が主導し始めたからではなく、オリオンが帝国に操られている形になっていることが理由だった。
「オリオンお兄様…そんな人だなんて知らなかった…だって…」
ミナミはオリオンと過ごした日々を思い出した。
嫌味で皮肉を言い、いつもミナミに対して冷たい…
「母親が違う兄妹同士ですから、距離の取り方が上手くなかったのでしょう。それに、オリオン王子は母親を早くに亡くしています。それ故に、家族に対して見えなくても繋がりを求めているんだと…国王陛下も言っていました。」
アロウは少し懐かしそうに目を細めた。
アロウはミナミの父、国王とこんな家族の話をするような関係だったようだ。
それを知らなかったミナミはアロウに対して、多少警戒する目を向けた。
「国王陛下とは、子供のころ…よく遊んでいました。きっと、お二人の様な感じです。」
アロウは羨むようにミナミとルーイを見た。
「でも、彼が妃を貰ってからは…私から距離をおいて、町の情報を彼のために集める影に徹しました。」
アロウは少し寂しそうだが、幸せそうに笑った。
「アロウさん…」
ミナミは彼のその表情を見て、嘘を言っていないことがわかった。
「…昨日のミナミの勉強のあと、俺が国王陛下に呼ばれただろ…」
ルーイはどうしてアロウの宿を逃げる場所として選んだのかを話し始めた。
国王との話で、兵士が通っている武器屋で情報のやり取りがあることや、そこの店主であるアロウが裏で宿をやっていることを聞き、何かあったときは彼を頼るといいということを聞いたのだ。
ルーイがミナミをどう思っているかを分かった上で話したということは言わなかったが、アロウはわかっているのだろう。
「…あの、アロウさん…その…本とか、勉強できるものってありますか?…あと魔力の抑え方を知らないと葬儀に行くのも大変だと思うので…」
ミナミは時間がただ過ぎるのを待つのは苦しいことや、できることをやりたいと思ったことをアロウに話した。
そして一番大事なのは魔力の抑え方だ。
「確かに…そうですね。いくつか本を持って来ましょう。…魔力の抑え方については少し考えがあります。」
アロウはミナミの話を聞いて、納得したように言った。
アロウはルーイにも必要なものは無いかを聞いてから、部屋の廊下側の扉に向かった。
「とりあえず、姫様たちには情報が入り次第知らせに来る予定ですが、外から見つからないように行動をお願いします。」
アロウは念を押すように言うと、部屋から出て行った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる