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ライラック王国の姿~ライラック王国編~
血を流した青年
しおりを挟む敵味方関係なく遺体が転がる、とある城の中。
遠い昔のように感じる、過去のことだ。
マルコムは一人の青年と対峙していた。
マルコムは右手に槍を持って、左手は血まみれだった。
手のひらには大きな切り傷があり、血がダラダラと流れじわじわと痛みがある。
対峙する青年は、真っ赤な長い髪をなびかせ、薄茶色の瞳をマルコムに向け、赤い血を滴らせた剣を握っていた。
その剣は、つい先ほどマルコムの左手を切り裂いたものだ。
彼の表情は悲痛だった。
「…もう、戻ってくることは…無いんだな…」
彼はマルコムの顔を見て、確かめるように訊いた。
その言葉を聞いてマルコムは嗤った。
当然のことを聞いている。
「戻ると思っているの?…今よくわかったんじゃないの?俺と君は…」
マルコムは途中言葉を止めて彼を見た。
彼や、彼の仲間、または自分の元仲間との日々を思い出していた。
ガラにもなく、涙ぐみそうになった。
だが、それを誤魔化すように息を沢山吸い込んだ。
「理解し合えない存在だって!!」
マルコムは思い浮かべたこと、全て振り払うように叫んだ。
そして柄にもなく、自身の魔力を滾らせた。
その言葉を聞いて、対峙する青年は諦めたように笑った。
笑っているが、彼はやはり悲痛な顔をしていた。
マルコムは、別に彼の顔を見て悲しくは思わない。
ただ、昔に戻れないことは悲しいだけだ。
ただ、戻りたいと思うかと言われたら、マルコムは意地でも否定する。
「感傷的になっているね。」
シューラの声でマルコムは現実に思案を戻した。
シューラは少しマルコムを責める様子があった。
「…成長を喜んでいた…というべきかな?」
マルコムは口元を歪めて自嘲的に笑って言った。
それを聞いてシューラはマルコムに責めるような視線を向けるのを止めた。
「なんだ。死神くんか…ならいいや。」
シューラは安心したように呟いた。
どうやら別の人間への感傷を考えていたようだ。
「…俺は生きている人間にしか目を向けないから…」
マルコムは首を傾げて笑った。
「…なら、姫様に対してフォローを入れたのは、彼女のためなんだね。」
シューラは少し嫌味らしい口調で言った。
マルコムは眉をピクリとさせた。
「…笑いそうになったよ。だって、姫様さ…死神くんに恋しているよね。」
「恩人と感じているんだと思う。」
「「…君の評価一つで事態は変わらない。」…か。確かに彼女は今自分の力量を知るべきだよね。お優しい君は、優しく教えてくれるんだもんね。」
シューラはやはり嫌味のように言っている。
「姫様に対しては…リランは本心の優しさで接したと思う。否定されてもそれを姫様はわかっているはずだ。」
マルコムはシューラを呆れたような顔で見ていた。
「だから、彼女の感じた優しさは他人に否定されても彼女は納得できないと思った。俺は時間を無駄にしたくないから、ああ言っただけだ。」
マルコムは両手を広げて言った。
「そっか…死神くんも、彼女の仲間だったもんね。」
シューラは何かを思い出したように言った。
シューラの言葉にマルコムは目を細め、不快感を示すように顔を顰めた。
「まあ、姫様とは今だけの関りだから…ね。」
シューラはマルコムの顔を見て、納得したように頷いていた。
「それに、彼女に似ているからって、心に変化が起きることは…無いよね。」
シューラは少しだけ縋るような目をマルコムに向けながら言った。
「…当然だよ。」
マルコムは断言した。
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