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帝国の赤い死神~ライラック王国編~
遊ばれる王子様2
しおりを挟む港の様子を見たホクトは愕然していた。
急いで城から出て、警護の兵士を連れ、オリオン、ホクト、リランは港に来た。
勿論後ろには数人の貴族や大量の兵士もいる。
帝国側はリランともう一人、黄土色の髪の男だけだった。
その男は帝国騎士団のリランの警護に付いているものだと言っていた。
予想した通り帝国騎士団の者だった。
港の沖に見える帝国の軍船は、いつでもこの町に攻め込めるということを主張するように大砲を構えていた。
キラキラと魔導機関の光が漏れている。
軍事力とともに高い技術力を示す軍船だ。
逆立ちしてもライラック王国に勝機は無い。
「ホクト王子…」
リランは愕然とするホクトに、初めて話しかけた。
ホクトはリランのほうをゆっくりと振り向いた。
彼の青い目は不安で揺れている。
「自分は真実を知っています。」
「!?」
ホクトはリランの言葉に顔色を変えた。
まさか自分がやったとバレていないと思っていたのか分からないが、ホクトにとって今のリランは恐怖の対象でしかない。
強大な軍事力を見せつけ、いつでも国を滅ぼせると示されているのだ。
もはや対等など無い。
リランは横目で、後ろに付いている貴族や兵士たちを見た。
聞かれたくないようだ。
オリオンはリランとホクトを誘導し、貴族たちから風下に位置する場所まで二人と警護の兵士たちをつれて歩いた。
リランは満足そうにオリオンを見た。
彼の部下ならその視線で喜ぶのだろうが、オリオンは全く嬉しくない。むしろ腹が立っている。
ホクトは何か話されると察したのか、身構えるように体を強張らせていた。
もう彼は穏やかな王子と呼ばれている面影はなかった。
リランは王城の方角を見た。
「手を下したのは…大臣だった。」
リランはホクトを見た。
「…え?」
ホクトはリランを凝視していた。
これでもかというほど彼の目は見開かれている。
これはお前がやったのは知っていると言っているようなものだ。
だが、何も知らない警護の兵士たちは彼の言葉をそのまま受け取ったようだ。
「何を…」
ホクトは慌てて何か言おうとした。
「姫様が悲しそうに言っていました。王子は、お世話になっている大臣に言いくるめられただけですよね。被害者です。」
リランは眉尻を下げ、気の毒そうにホクトを見ていた。
「それは…」
何か言い返そうとしているが、ホクトは何も言えなかった。
リランはゆっくりとホクトに近付いた。
大臣が国王を殺害したという言葉に兵士たちはどよめき、リランが近づくことに警戒を怠っていた。
「国を滅ぼしたくないなら…そう言った方がいい。」
リランはホクトの耳元で囁いた。
「戦力差は歴然だ。死体のことだって不審に思っている奴はいる。お前は、目撃者だろう?」
リランはわざとらしく最後を強調した。
「私は追及を続けるぞ。その時にこの国があるかは分からないが…真実が明らかになった時、誰が主導権を握っているのだろうか?それによって犯人への対応は変わるかもしれないな…」
彼の暗い目が冷徹に光った。
その目をホクトは脅えた表情で見ることしか出来なかった。
リランは言いたいことを言い終えたのか、ホクトに友好的に笑いかけ、気を遣うような素振りを見せながら離れて行った。
大臣を売れば、お前は助けると言っているのだ。
その場合ホクトは、大臣サイドの貴族や有力者を敵に回すことになる。
それに加え、当初の主張は大臣にそそのかされて合わせたということや、自分の父親が殺された際に取った行動が隠蔽だということで確実に王位継承はなくなる。
信用も後ろ盾も全てなくさせるつもりだ。
別にそれをしなくてもホクトを犯人と証明してしまえばいいのだが…徹底してホクトの再起の可能性も潰すようだ。
彼を犯人と証明しても、国王の殺害で王位を奪って王座に君臨したケースもあるため、ホクトの周りから潰していくようだ。
「…ここまでしなくても…」
オリオンはリランの傍に寄って小声で抗議した。
リランは自分のマントを掴んだ。
「勝手に俺の服を持って行くからだ。」
リランはオリオンがミナミの逃亡に、彼の服を勝手に使ったことを言っているのだ。
それに対する仕返しのつもりのようだが、全然釣り合わない仕返しだ。
オリオンがリランを睨んでいると、リランはふっと笑った。
「姫様が無事逃げられてよかった…」
その言葉は、確実に本心だったからだろう。
それはわかった。
それでもオリオンはリランを睨み続けた。
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