世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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出会い~ライラック王国編~

目撃する兵士

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 ミナミを地下水路に一人で置いておくのは気が引けたが、この時間は人が通ることはそうそうない。



 それよりも、地上に出てからの安全の確保が第一だ。



 地上に出て周りを見ると、幸い予想した通り近くに目的地の宿はある。



 宿に入った瞬間、ミナミの立場がバレるのは避けたい。

 宿にいる客には金さえ入ればいいと考える者がいて、簡単にミナミを売るだろう。

 ミナミの髪と瞳の色は国王と同じだ。わかるものが見れば血縁だと思うはずだ。



 それに、ミナミは美人である。なので、邪な目で見る者も絶対にいる。

 どちらかというとルーイは後者を避けたい。



 宿までの道を危険が無いか観察していると、いくつかの人影がある。

 やはり誰もいないということはなく、城の騒動を聞きつけた者達が騒がしくしている声も聞こえる。

 ルーイは闇に紛れるように自身の闇の魔力を使った。



 辺りを見渡しながら宿に向かうと、その宿の前にも二人ほどの人影が見える。



 なにやら言い争いをしているのだろうか、片方が壁に押し込められている…



「!?」

 近付くとその様子がよくわかった。

 ルーイは思わず息をのんだ。



 ルーイに気付いたのか、二人の人影はルーイを見た。



 二人の人影は、二人の青年だった。



 ルーイよりも年上で、青年と言っても年齢不詳な外見をしている。



 壁に押しつけられている青年は、月明かりの下で不気味なほど浮かび上がる色の白さと、髪も白く月明かりに反射してキラキラしている。そして、一番の特徴と言えるのは、真っ赤な瞳と目つきの悪い三白眼。顔立ちはどことなく幼さを残している。



 壁に押しつけた方の青年は、身長は高くないが後ろから見てもしっかりとした体躯をしており、戦闘訓練を受けているのは一目でわかる。

 セミロングの茶色の髪をオールバックにして流し、首筋付近でまとめて留めている。

 顔立ちは、おそらくオリオン並みに整っており、たれ目がちな目は穏やかそうで、整った口元は上品だ。

 ただ、右耳から右頬にかけて深い切り傷があり、それが彼の狂暴性を暗に示している。



 ただ、二人の距離が異様に近い気がする。この二人の青年についてルーイは何も知らないが、なぜかそう思ってしまった。



「…」

 二人は無言でルーイを見てきた。



 思わずルーイは目を逸らした。



 何やらイケナイものを見てしまった気がして仕方なかったからだ。



 通り過ぎると、後ろで二人のうちのどちらかが溜息をついたのがわかる。



 いやいやいや!!



 ルーイは内心叫んだ。



 気まずさに自然と足も早まる。



 いつもは表の武器屋を利用するが、今日は裏の宿に入る。

 本来なら緊張する場面だが、ミナミの危機と今の気まずさもあってルーイは勢いよく宿の扉を開いた。



「…!?」

 丁度カウンターにいたのは、店主一人だった。

 その彼は、いつもは武器屋で会うことの多い男だ。



 彼はルーイを確認するとすぐに表情を厳しくした。



「…君は…兵士の…」

 彼はルーイを警戒している。



 ルーイは扉を閉めて、建物の中を見渡した。



 丁度、客も部屋に入っている時間なのだろう。



 店主以外の人物がいないことを確認すると、ルーイは足早にカウンターに向かった。



「…国王陛下から聞いています。…アロウさん」

 ルーイは一番彼を安心させる言葉を言った。





「彼が…」





「…ミナミ姫を…匿ってください」

 ルーイはカウンターにオリオンから渡された金貨の入った小袋を出した。



 店主、アロウは慌てて小袋をルーイに返した。



「こんなにいらない…それよりも、姫様は?」

 アロウは声を潜めていた。



「地下で待たせている…味方が誰だかわからない状態だ。」



「…わかった。事情は落ち着いてから聞く。」

 アロウは周りを見渡した。



「外には誰もいなかったか?」

 アロウは、軽く武器成りそうな短剣を腰に差して歩き出した。



 どうやら一緒に迎えに行くつもりのようだ。



「…外には…」

 ルーイは先ほど会った二人の青年を思い出した。





「外で男二人がいちゃついていた。」

 ルーイの口からは自然にそんな言葉が出た。



「…え?」

 アロウはルーイの言葉に呆然としていた。



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