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ライラック王国の王子様~ライラック王国編~

家族想いの王子

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 ルーイがいなくなって暫く待ってからオリオンは移動した。



 一旦事件現場を見たが、もうすでにホクトが仕切っていた。

 ミナミと同じように魔力で体をピカピカと光らせ、動揺していることを示し現場に入ろうとした。



 しかし、オリオンは締め出され、追い出された。

 とにかく、兵士たちに心配しているということを示し、駆けつけたという事実を作った。



 感情的になると魔力で発光してしまうのはライラック王国の王族あるあるなので印象に残っただろう。

 オリオンは最早プライドは無かった。





 目的を終えると、直ぐに自室に向かった。



 オリオンは行動が一段落したため、変わらず周りを警戒しているが、さっきよりも足取りは軽いし、落ち着いている。



「…あんなことを話した日に…まさか俺が頭を下げるなんてな…」

 オリオンは今日のミナミとの会話を思い出し、さきほどルーイに頭を下げたことに対して自嘲的に笑った。



 その自嘲は、頭を下げたことに対してではないのは勿論だった。



 部屋の前には丁度先ほど情報収集を任せた兵士がいた。



「オリオン王子!!」

 兵士はオリオンを見つけると安心したような顔をした。



「どうした?」



「今城全体が警戒態勢なんですよ。なにせ…姫様が見つからない上に“死神”が部屋からいなくなったんですよ!!」



「…」

 兵士の話を聞いてオリオンは困惑した顔を作った。

 ついでにもう一度魔力でピカピカと光っておいた。

 兵士は急にオリオンが光ったことに驚いていた。



 だが、その実彼の話を聞いて安心していた。



 ミナミが捕まっていないことを確認できたからだ。



 ただ、客間に入られたということは思ったよりも捜索の手が伸びるのが早い。



「捜索はホクトに引き続き任せろ。」



「は…はい!!オリオン王子は…?」



「今俺にできることは無い。だが、明日以降の対策を考える。大臣たちにも伝えろ。」

 オリオンは暗に、もう下がれと訴えた。



 兵士はオリオンの意図を汲んだのか、頷いて廊下を走って去って行った。



 オリオンの行動は疑われてはいないはずだ。

 少なくとも、ルーイに接触していることがバレていなければだ。



 オリオンがミナミのために何かするとは誰も考えない。



 今回は日ごろの行いがいい面で出た。

 オリオンは少しだけ自分を褒めた。



「…う」

 兵士もいなくなり、廊下で一人になったオリオンは押し寄せる何かに立ち眩みをした。



 ふらつきながらも、急いで部屋に入った。



 部屋に入ると扉に寄りかかり、オリオンはゆっくりと息を吐いた。



 自分の部屋の天井を見ると緊張の糸が切れたようにしゃがみこんだ。



 ミナミやホクトもそうだが、国王はオリオンの父親でもある。



 兄が父を殺したところを見たミナミほどではないが、オリオンもダメージは大きい。



「…父上…」



 オリオンは嗚咽を漏らしながら呟いた。



 あえて魔力を光らせて印象に残していたのとは違い、今度は自分の身体が抑えきれないもので光るのがわかった。



 幼いころは何度もあったことだ。

 感情で魔力が制御できずに光ってしまうことだ。



 一人になると自分を抑制するものはない。

 と思っていた。



 ふわりと、目の前に白いハンカチが差し出された。



 オリオンはゆっくり顔を上げた。



 そうだった。

 オリオンは忘れていた。



 自分が部屋に待たせている人物がいることを…



 こんなうかつなことは普段は絶対にしない。

 こんなうかつに光ることなど、絶対にしない。



「…どうぞ…」

 オリオンを見下ろすフロレンスは、心配そうな顔をしていた。



「…どうも…」

 オリオンは慌ててハンカチを受け取ると、急いで立ち上がった。



 そして意地でも体の発光を抑えつけた。



「無理はしない方がいいですよ。身内が亡くなったのですから…」



「いや…大丈夫だ。」

 オリオンは気を取り直し、自室の部屋に内側から鍵をかけた。

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