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ライラック王国の王子様~ライラック王国編~

頼れる兵士

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 オリオンは迷うことなく兵舎ではなく、別棟にある資料室に向かった。



 騒がしい本棟とは違い、情報がまだ行っていないのか資料室含め別棟は静かだった。

 誰も見張りもいない。



 隠密活動に向いた魔力を持っていないオリオンにとっては好都合だった。

 オリオンは持っている魔力の種類がミナミと似ており、また、感情で魔力が光ってしまうこともあるのが似ているのだ。

 日々の鍛錬でどうにかそれは抑えられるようになったが、油断するとミナミと同じように光ってしまう。

 ちなみにこの性質は殺された父親も同じだ。



 オリオンは解放されている別棟の出入り口の鍵を閉めた。



 もちろん周りの警戒は欠かさない。

 ミナミと違い次期国王のオリオンは、ピカっと光ることができるだけでなく身を護る術を身に着けている。



 警戒心も違う。



 オリオンは資料室に灯る小さな明かりを確認すると安心した。



 響き過ぎない程度の足音を立て、資料室に入る。



 この時間、この部屋には人がいない。



 なので、夜遅くに勉学に励むにはもってこいの場所なのだ。



「…オリオン王子…」

 資料室にただ一人いて、勉強をしていた兵士、ルーイはオリオンを見て慌てて立ち上がった。



 オリオンは部屋を見渡し、警戒しながら入った。



 オリオンの様子を怪しんだのか、ルーイは警戒するように周りを見渡した。



「他に誰かいるのか?」



「いえ、自分だけです。」

 ルーイは断言した。

 彼はオリオンにつまらない嘘をつくことは無いだろう。

 皮肉だが、ミナミの友ということで彼の事は調べ尽くしている。

 持っている魔力の種類も知っている。そして、彼こそ自分が今求める人材である。



 オリオンはルーイが歩き出すのを手で制して自分から彼に向かった。

 ルーイは少し驚いた顔をしたが、オリオンの表情を見てすぐに鋭い目をした。



「ルーイとやら…お前に頼みがある。」

 オリオンは思ったよりも沈んだ声で言ったことに驚いたが、いちいち気にしていられない状況だ。



「何でしょうか…」

 ルーイはオリオンの声色と表情から心身ともに構えている。



「父上が…国王陛下が殺された。」



「!?」



「犯人はホクトだ。そして、それをミナミが目撃してしまった。」

 オリオンはルーイの様子をじっと観察していた。

 フロレンスから聞いた話だが、オリオンは確信している。



 ルーイは国王が殺害され、犯人がホクトと聞いた時は純粋に驚いていた。

 だが、ミナミが目撃したと言われてから目の色を変えた。



 それを確認してオリオンは安心し、少し笑みを浮かべた。





「オリオン王子…姫様は…」

 ルーイは国王の死や、犯人のことよりもミナミが気になっていた。



 それはオリオンの思った通りであり、彼がルーイを信用できると思った理由である。





「ミナミは…客間を通って逃げようとしたらしい。今は客間にいる。」

 オリオンは客間でフロレンスが匿ったことや、信用できる人間がいないことを伝えた。



 オリオンの話を聞いて、ルーイは頷きながらも途中で何度か首を傾げた。



「あの…しばらくミナミをそれこそ、城の隠し部屋みたいなところに匿うことは」



「城は危険だ。とにかく安全な場所にミナミを連れて行って欲しい。」



「そこまで…深刻なんですね。」



「警戒しすぎで丁度いい程度だ。父上が亡くなったことで下手したら俺が王につくことを阻まれる可能性もある。いや、その可能性が高い。」



「じゃあ、オリオン王子も危険なんじゃ…」



「自分の身は自分で守れる。今はミナミの話だ。」

 オリオンはルーイを睨んだ。



 オリオンは最悪の事態でも殺されることは無い。

 ライラック王国の王族の特徴を受け継いだ自分は、非常に使い勝手がいいからだ。

 癒しに特化した魔力。



 オリオンは致命傷でなければ自身の魔力で治癒することができる。

 それは非常に稀有である。

 ホクトにはそれが出来ない。



 ルーイはオリオンの顔を見て、彼を見る目が明らかに変わった。



 オリオンは懐から小袋を取り出した。

 ジャランと音を立ててテーブルに乗ったそれは、中に硬貨が入っていることを主張していた。



「お前への報酬も含めて、ミナミの逃亡資金だ。金貨がこれだけあれば…いけるだろう。」



「オリオン王子…」



「足りないなら後で言え…」

 オリオンは言い終えると歯を食いしばった。



 ルーイはオリオンの様子を不思議そうに見ていた。



 オリオンは今、葛藤の中にいた。



 能天気な妹。

 何も考えずにただ他人に甘える世間知らず。

 苦々しい思いを持って彼女の姿を見てきた。

 ただ、彼女は家族だ。

 そして、彼女の成長の片鱗を今日目の当たりにしたばかりだった。

 相変わらずの能天気さだったが、彼女の未来が、彼女の成長が閉ざされていいものではない。

 そして、その先が明るくあることを願っている自分こそが一番能天気なのかもしれない。



 彼は、今自分のプライドが許せないことをしようとしている。



 これは衝動的なものであり、彼の予定にはなかった。



 だが、ルーイの顔を見て話し、彼の様子を見ていると自然にしないといけないと思ったのだ。



 オリオンはゆっくりと床に膝をつけた。



 本来なら考えられないことだ。





「オリオン王子…あの…」

 ルーイは困惑している。



 オリオンだって困惑している。



「…ルーイとやら…いや、ルーイ殿…」

 オリオンは顔を上げてルーイを見た。



「ミナミを…安全な場所まで守って…逃がしてくれ」



「…頼む。」

 オリオンは言い終えると自然に頭が下がった。



 ルーイの様子は分からない。オリオンの視界にあるのは今は床だけだった。



「…頭を上げてください。」



 ルーイは優しい声で言っていた。



「…返事を聞くまで頭を上げない。」

 オリオンは首を振って、床を見つめていた。



「…頼まれなくても…そうします。」

 ルーイは断言すると立ち上がった。



 オリオンは顔を上げた。



 ルーイはオリオンの目を見て頷いた。

 それを見てオリオンは安心した。



「では…ミナミを探してくれ。客間にいれば適当に服を拝借していい。」

 オリオンは立ち上がり、膝に着いた埃を払いながら言った。



「わかりました。」



 ルーイは返事をすると小袋を持って動き出した。



 オリオンはルーイの後姿を縋るように見ていた。

 普段だったら考えられないことだ。



 だが、オリオンは頭を下げたことも、ただの平民の兵士である彼を頼ったことも後悔はしていなかった。



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