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ライラック王国の王子様~ライラック王国編~
招きたくない客人
しおりを挟む不本意ながらも、自分の部屋に招くしかなかった青年をオリオンは観察していた。
テーブルを挟んで互いにソファに腰を掛ける。
彼は長い赤い髪を一つに束ね、片方だけ垂らした前髪が何とも言えない幼さを出している。
年齢こそ自分と変わらないと思うが、表情が動き、たまに見せる目の暗さには年輪を感じる。
目の形や眉の造りは柔らかく人懐こそうで甘さのある雰囲気があるが、薄茶色の瞳は鋭く冷たい。薄い唇は形式的な笑みを浮かべているが、どことなく馴染んでいない。
この外見とにじみ出る内面とのギャップが、オリオンが彼を不気味に思い、気に入らない理由の一つだと思っている。
もちろん他にも理由ある。
「フロレンス殿…ミナミが来たと仰っていましたね。」
「ええ。兄が父を殺したと言っていましたが…あなたではない兄だと睨んで接触を試みました。」
正面に座るフロレンスは指を組み、オリオンを見据えていた。
「…違うかもしれませんよ。」
「あなたは馬鹿ではない。国王陛下も仰っていた。」
フロレンスは確信を持っているようだった。
「…そうですか…まあ、そうですよ。」
オリオンは真面目な顔をして確信を持って言うフロレンスに少しだけいい気分を覚えた。
父親の自分に対する評価を第三者から聞いて嬉しく思ったのだ。
その父親が殺されたのだが
「おそらく、私が殺したことになるでしょうね…」
フロレンスは思った以上に落ち着いている。そして今置かれている状況がわかっているようだ。
まあ、慌てることはないだろうと思っていたが、オリオンは少し癪だった。
「それは間違いない。…ミナミは今どこです?」
オリオンは一番大事なことを聞いた。
そうだ。
ミナミの安否が大事なのだ。
「客間にいましたが、タイミングを見て逃げるように言いました。」
「それはよくない。兵士を送ります。」
オリオンは立ち上がって、呼びに行こうと思った。
「そう気軽に呼べるのですか?」
フロレンスの言葉と同時にオリオンは動きを止めた。
別に彼の言葉で止まったわけではない。
ただ、彼の言葉と同じことを考えて止まったのだ。
「信用できる兵士…私には見極めるのが難しく思えますね。」
フロレンスは表情を変えずに言った。
彼の言う通りだった。
ある程度は。
「いや、一人確実な兵士がいる。」
オリオンは口を歪めて言った。
「それは羨ましい。」
「この部屋で隠れていてください。まだ話したいことがあります。」
オリオンはフロレンスを部屋の奥に押し込めた。
フロレンスは抵抗することなく部屋の奥に向かった。
「また戻ってきます。」
オリオンは大人しくしているフロレンスを確認すると、部屋のテーブルに書置きの手紙を置いてから護身用の剣を腰にかけて部屋から出た。
書置きは、情報収集を任せた兵士が来た時のための物だ。
これを見たらすぐに詰め所に来るようにというもので、部屋の奥にいれないためのものだ。
思った通り、廊下には兵士はいなかった。
オリオンは息を吐いた。
思った以上に緊張していたのだ。
緊急事態に加え、先ほどのフロレンスとの会話は気を遣う。
「…ッチ」
だが、今はそれよりも信用できる兵士の元に行かないといけない。
オリオンは舌打ちをしたが、直ぐに真面目な顔になって廊下を走り出した。
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