18 / 22
2章 嫌われ者は家を出る
第16話
しおりを挟むシアに促されて戻った先には部屋から持ってきてくれたであろう荷物が置いてあった。僕が用意していたのは誰も使っていない物が詰め込まれている倉庫から勝手に拝借した大きめの鞄1つだった。…はずなのだが、何故かそれは僕の鞄の倍以上の大きさの鞄の上に鎮座していた。
普通に考えてシアの荷物でしかないのだが、それにしても大きすぎる。今からどれくらい移動するかも分からないのにこんな大荷物を持っていこうとするとは、一体何が入っているのだろうか。
だいぶ気になるがシアに心配をかけないためにも着替えるのが先決だと思い、自分の鞄に手を伸ばす。服を取り出すために、と鞄の留め具を外そうとするが中々上手くいかない。そこで初めて自分の手が震えていることに気づいた。
(何故……?)
僕に暴力を振るう奴は死ぬほどいた。物理的には攻撃してこなくても目線で、行動で、言葉で僕のことを傷つけてきた奴なんて数え切れないくらいだ。
慣れたと思っていた。
しかし、違った。
僕を脅かすのは暴力や暴言だけじゃなかったのだ。あの男が普段とは違ったのか。はたまた私が普段と違ったのか。明確には分からないがいつもと違う何かがあの男に僕を性的な目で見させた。それだけがただの事実だ。
思い出してしまって体をぶるぶるっと震わせた。
僕がああいう行為をされそうになって何に恐怖を感じたのかは分からない。ひとつ言えることは僕を見る目に対する不快感。嫌悪の混じらない悪意になんとも形容しがたい恐怖を感じたのだ。
ともかく、震えは止まらない上に精神状態も常時が良いとは言わないがそれより更に良くないのが現状だ。落ち着こう。落ち着いて、シアを待つんだ。
目を閉じて深く息を吸いゆっくりと吐き出す。俯いたまま目を開けると雑草という括りにまとめられてしまいそうな小さな花々の中に違う種類の花が咲いているのが目に入った。気になってしまってかがみ込んで近くで見てみる。馴染むには少し背が高くて色の薄いその花は少し枯れてしまっていた。それでも他の花より近くで空に向かって咲く花が僕にはほかのどの花より強く魅力的に映った。
「君は強いんだな。………僕も君みたいになれるだろうか。」
つい自分に重ねてしまって半ば自分に問いかけるように話しかけた。
分かっている。この花と違って魔法が使えないことや醜いことが僕の強さや魅力になることはないのだと。僕はこの花のように枯れてなお、強く、上を向いて生き抜くことは出来ないのだと。
現にいつもと違う種の悪意に触れただけでこんなざまだ。悪意には強くなったと思っていた。耐えられると。ただ、それは慣れただけで少し違う方からつつけば一瞬で崩れてしまうようなものだったのだと今日自覚した。
それでも、それでもこの小さな花に幻想を重ねることくらいは許されるはずだ。
僕は指でそっと花を撫でてから立ち上がり、鞄の留め具を外した。
293
お気に入りに追加
765
あなたにおすすめの小説

嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

勘違いの婚約破棄ってあるんだな・・・
相沢京
BL
男性しかいない異世界で、伯爵令息のロイドは婚約者がいながら真実の愛を見つける。そして間もなく婚約破棄を宣言するが・・・
「婚約破棄…ですか?というか、あなた誰ですか?」
「…は?」
ありがちな話ですが、興味があればよろしくお願いします。


【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる