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2章 嫌われ者は家を出る
第13話
しおりを挟む(シアが戻ってきたのだろうか?)
音がこの大きさで聞こえるのならここからも見える使用人用の裏口だろうと予測して、出てきた人物がシアか確認しようとする。しかし、木々が生い茂っていてなかなか見えない。
仕方なく立ち上がって少し近くの木の後ろに隠れながら覗いてみる。
(…シアじゃないな。)
そこにシアは居らず、短く切った茶髪をわしゃわしゃと掻き乱しながらどこから取り出したのかタバコをふかす使用人がいた。サボりだろうか、と思い特にこちらに気づく様子もない彼をじっと観察してみる。
(どこかで見たような気がするのだが…)
自分に悪感情しか抱かない使用人達の顔など正直覚えてもいないのだが頻繁に目にしていたのだろうか。思い出せそうで思い出せない使用人の存在にもやもやが募る。
どこの担当の使用人だっただろうかと記憶を振り返っているとタバコを休憩を終えた使用人が吸殻を庭にポイッと捨てた。
「かったり~。どうもヴィエルジュ様がいない時間帯ってやる気でねえんだよな~。」
そう言ってポリポリと頭を搔く。そうか。思い出した。エルの後ろで隙を見てはよく僕を睨んでいた使用人だ。基本的にエルが見てる前では人の良さそうな顔をしていたのでなかなか思い出せなかった。
誰だったか思い出せてすっきりした上にシアがもどってくるまでの軽い暇つぶしになって満足した僕は足早に立ち去ろうと踵をかえした。
が、僕は失念していた。木々が生い茂っているこの場所には太く立派な根がいくつも張っていて筋力も体力もない故に怪我をしやすい僕は人一倍注意しなければならないことを。
案の定木の根に引っかかった僕は何とか前に出た手では体重を支えきれずスライディングをするようにどしゃっと顔面から勢いよく飛び込んだ。
「誰だっ!!!」
僕が転んだ音に反応した使用人が叫ぶ。非常にまずいことになった。見つかれば先程のように暴力をふるわれてしまうのが明白だ。しかし隠れようにも好奇心の赴くまま近寄って行った僕と彼の間には後ろを見れば所狭しと並んでいる木々も数本しかない。
逃げようにも転んだことによる傷は大したことがないのだが、御者に暴力を振るわれた傷が転んだ衝撃でズキズキと痛んでうつ伏せの状態から体が動かせない。
それでも必死に体を動かそうとする僕をよそに使用人がじわじわとこちらに近寄ってくる。
「おい。」
頭上から高圧的な声が降ってくる。顔を上げようにも上げた方が色々と難癖をつけられて酷い目に合いそうなので額を地面に押しつけながら無視する。すると髪の毛がガシッと掴まれてひょろがりの僕はそのまま持ち上げられる。
(あ、目が合った。)
眉間に皺を寄せた使用人がこちらをじっと睨みつける。気づかれた。終わった。そう思った時だった。
「…お前、誰だ?そんな弱そうな見た目してんのにどっから入ってきたんだ?」
………………………………………………は?
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