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1章 嫌われ者は学園を去る

第1話

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  「お前には心底愛想が尽きた。」




     ____あぁ。とうとうこの日が来たか。

 
 校舎裏にある人気ひとけのないベンチで座って弁当を片付けてた僕は声のする方に視線を上げる。
 隣で俯く義弟に寄り添い、こちらを蔑むように見る恋人…もうか。彼の目を見つめ返した。
   
 目が合った瞬間紅く染まった頬は普段2人でいると時折見せる照れたようなものと同じに感じるが、それは違うといつもとは違って鋭くつり上がった彼の目が僕に告げる。

 たった今僕は、こんな僕のことを受け入れ、共に笑いあってくれる恋人と義弟を同時に失ったのか。

   ただ、何故なのだろう。

           悲しくはないな

 彼らにそう言われて少し寂しい気がするものの「あぁ、そうなのか。」と思うだけで悲しみや怒りなどの感情は不思議と湧いて来なかった。

 あまりにも淡白なのだろうか。

    別にいい。

 疎まれ、蔑まれることにはとうの昔に慣れた。7歳の頃から10年以上言われ続ければさすがに慣れる。 
 どこかでこうなることを予想していたのかもしれない。

 笑えるな。信頼してるように見せかけて本心では信じていなかったのだ。
    まあ、あちらも同じようなものだと思うがな。
 こんな関係でもそこそこ楽しくやっていたと思っていたが…。それも一方的なものだったみたいだな。

 たとえ僕の勘違いだったとしても彼らのおかげで他人から向けられる心無い言葉や負の感情に耐えられていたのは事実だ。
 しかし、もう…


 「……疲れたな」


 思わず口に出して呟く。

 なんと言ったのか聞こえなかったのだろう。急に項垂れた僕をふたりして怪訝そうな顔で覗き込んできた。

 僕はそんな彼らを押しのけるようにして立ち上がり、背を向けて歩き出す。
     このまま行ってしまおうかとも思ったが、今まで散々世話になってきてさすがにそれはないかと思い直し、歩みを止めて振り返った。

 すると、僕の行動が予想外だったのか揃いも揃って呆けた顔で突っ立っているのが視界に入る。
 もう顔を合わせることもないだろう彼らの気の抜けた表情がおかしくって思わず吹き出しそうになる。

 こんな状況でも彼らの珍しい1面を見れたことに楽しさを覚える自分に呆れながらも別れを告げるために口を開いた。

「今までごめん。………ありがとう。」

 ほとんど使うことの無い表情筋を使って自分に出来る最大限の笑みを作って告げる。

 愛想が尽きたと言われたし、僕が思っているよりも迷惑をかけていて彼らにとっては僕といることがとても苦痛だったかもしれない。
 それでも彼らが共に居てくれたおかげで今日まで過ごしてこれたのだ。
 彼らへの感謝の言葉は心の底から出たものだった。

 彼らの反応を待たずに振り返って1歩踏み出す。
 僕はこれから窮屈な家や学園から去って新しい人生を歩む。

 彼らの存在が尾を引いていたのだがその存在もなくなった今、自分を苦しめる場所にわざわざ留まる必要は無い。

 無意識に胸元のペンダントに手をやり服越しにギュッと握りしめた。

 ここを出たら隣国へでも行ってみようか。
 これからどこへ行っても生きて幸せに過ごせる保証は何も無い。あまりの無計画さに心の中で苦笑する。
 このままどこかへ行って死んでしまうのも悪くないのかもな、という考えがよぎったが、縁起でもないので直ぐにかき消す。

 その時やっと放心状態から戻った元恋人がはっとして未だ放心状態の義弟の肩を激しく揺らしながらなにか叫んでいたが、これからの生活に思いを馳せる僕の耳には届かなかった。
    






          

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