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またか。
しおりを挟む「おいっ!お前なに会計様に近づいてるんだよ!」
「ほんとだよっ!そろそろいいかげんにしろよっ!」
「……っと、えーっと……。そ、そうだっそうだー。」
キャンキャン吠えるチワワたちの言葉を右から左へ聞き流す。もはや恒例となりつつある校舎裏でのイベントに「またか…。」とため息を着く。
俺はここ数ヶ月毎日のようにこの茶番に付き合わされていた。チワワ達も毎日毎日ご苦労な事だ。交代制で何人かで回しているようで、だんだん演技がうまくなってきた奴もいれば言うことが尽きて口篭る奴もいてまあまあ面白い。
個性豊かなチワワたちを観察して楽しんでいるとドタドタと走る音が聞こえてきた。
そろそろか、と思って音の方を向いた瞬間大きな塊が勢いをつけて飛びついてきた。分かってはいるものの全く慣れずよろついてそのまま尻もちを着く。
毎度自滅してその度に俺より驚いているそいつの頭を撫でてやるとそいつははっとして俺の肩に埋めていた顔を上げた。
「ゆっ、ゆきちゃん!だ、だいじょうぶ?」
「ああ、何ともないよ。いつもありがとう。」
そう言って大型犬のような幼なじみの頭を撫でてやった。頬を染めて嬉しそうにする幼なじみを見て本当はこいつの中身は犬なのではないかと疑いたくなる。
(皆の憧れの会計様がこんなわんこでいいのだろうか…)
わんこもとい幼なじみの柊 司はこの学園を牛耳る生徒会の会計様だ。この学園の生徒会は美形揃い(おまけに成績もいい)でかく言う司もすれ違えばつい振り向いてしまうようなイケメンだ。その甘いルックスと誰にでも平等に優しく接する態度から王子様などと呼ばれていて親衛隊までいるらしい。(※残念ながら某王道BL学園のようなチャラ男会計ではない)
俺は未だにこの大型犬が王子様などと信じられずにいる。思わずまじまじと顔を見つめていると司は真っ赤になって視線を逸らした。
「「「「……あっ。」」」」
司とチワワたちの視線が交わる。俺たちの空気感に置いてけぼりになっていたチワワたちは気まずそうに3人寄り添って立ちすくんでいた。司は慌てて立ち上がると
「こっ、こんなことしたら、だめだよっ」
と何度聞いたか分からないテンプレゼリフをチワワたちに言った。毎度毎度全く同じセリフなのになかなか上達しないらしく安定の棒読みだ。
するとチワワたちはやっと解放されたとばかりにこれまたテンプレとなっている「ごめんなさ~い!」と間延びしたセリフを吐いて司が来た方へ走って行った。
そんな彼らに心の中で「おつかれさまー」と言いながら手を振っているとチワワ達を見送ってた司がくるりと振り返った。両手をぎゅっと握られ詰め寄られる。
「ね、ねえ。僕、かっこよかった?」
「ああ。かっこよかったよ。」
俺より背が高いのにわざわざ屈んで上目遣いをして聞いてくるのでこくりと頷く。それを見て司はぱあっと表情を明るくした。
「じ、じゃあさ!僕のこと、すっ、、す、
すき?」
「ああ。好きだよ。」
「大好き?」
「大好きだよ。」
「────そっ、それは幼馴染として、、、?」
それまで嬉しそうに聞いてきていたのに突然表情が暗くなる。しゅんとする司に垂れ下がった耳と尻尾の幻覚が見えてきそうだ。
(もうここまで来たら分かってもいいのに。)
やっと1歩踏み込んできたもののどこまでも鈍感な幼馴染の首に手を回してそのまま顔を引き寄せる。
──────チュッ。
「俺の好きはこういう好きなんだけど司は違う?」
唇に手を当ててぽかんとしている司に尋ねる。こてんっ、と首を傾げて覗き込んでみるとやっと理解したのか顔が沸騰したように真っ赤になった。俺の方を向くと勢いよく抱き寄せる。
「─んむっ!?~~~~っ!ぷはぁっ!」
「~~~っ!僕もっ!僕もゆきちゃんが好きっ!ゆきちゃん、僕の恋人になってくれる?」
司にキスされた上に告白までされてしまうと今度はこっちがたじたじになってしまって赤くなった顔を隠しながらこくん、と静かに頷いた。感極まって泣きそうになりながらも俺の事をぎゅっと抱き締めて笑う司につられてにこにこしながら抱き返しているとドドドドドッという効果音がつきそうな勢いで突撃された。
「う"うぅっ…。よ"か"っ゛た"あ"!よ"か"っ"た"て"すうううう!!!」
そう言いながら司の親衛隊のチワワ達が抱きついてきた。その顔はもう涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃだ。
何ヶ月も司のわがままに付き合ってくれていた優しい子たちだ。1番の功労者と言っても過言じゃない彼らを労いの意味を込めて抱きしめようとすると、ベリベリと引き剥がされる。
気づいたらもう司の腕の中だった。どうやら俺の恋人は嫉妬深いらしい。
少しムッとしている司にクスッと笑いながらも引き寄せる。
その赤く照った頬にそっとキスを落とした。
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