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32話「文化祭一週間前」 前編
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「ほらちょっと男子、少しは手伝いなさいよ」
クラスの学級委員である、沢村奈津子が大声でそんなことを言う。
それに対して男子はやる気なさそうな返事をする。
大きな学校行事の前ではよくある光景だ。
タイムスリップ前にもよく見たし昔の俺も当然やる気がなかった。
だが今は違う。 普通なら一度しかない高2の文化祭。
俺は幸せなことに二回目のチャンスをもらった。
俄然やる気だ。 当たり前だ。 一瞬、一瞬を大切にしていかねば。
「こら淳一。 あんたも手伝いなさい」
「うっす!」
「えらく素直じゃない淳一」
「ハハハ、俺は生まれ変わったのだ」
「何それ気持ち悪い」
「うるせ」
「何かいいことがあったのか知らないけど、どうせ唯に関することでしょ」
「……勘のいい女は嫌いだな」
「何年あんたたちのこと見てると思ってんのよ。 大抵のことはわかるわよ」
「え、怖いなそれ」
「はあ? こっちは心配してやってんのよ。 あんたたち似た者同士っていうかお互い素直じゃないから見てるこっちがモヤモヤするのよ」
「悪い悪い。 まあ、見ててくれよ」
「……全然説得力ないし期待できないんですけど」
「大丈夫、俺も自信はない」
「だめじゃない」
「自信はない。 でも少しはある」
「何それ……ま、その適当さは淳一らしいかもね。 しっかり見ててあげるから頑張りなさいよ」
奈津子はそう言うと俺の肩を軽くたたいた。
「おうよ」
「でもその前に文化祭の準備、たっぷり手伝ってもらうからね」
「……おうよ」
*
待ちに待った文化祭まであと一週間に迫り各々準備に盛り上がりを見せていた。
毎日遅くまで学校に残って準備をしたり、劇をやるクラスは日々練習に精を出していた。
俺はというと放課後クラスの出し物であるお化け屋敷の準備を手伝い、その後は真柴楽器へ行ってバンド練習に精を出していた。
日中は学校へ行って夜遅くまでバンドの練習、と忙しい日々を過ごしていた。
でも不思議と全く苦には感じなかった。
会社員時代、毎日残業して朝から夜遅くまで働いていたがそれに比べたら遥かにマシだった。
いや、マシなんて言い方は間違っているかもしれない。
俺はこの忙しく充実な日々に満足していた。
昔は文化祭なんてめんどくさいと思って真面目に参加してなかった。
体育祭だってそうだ。 皆が頑張って取り組んでいる姿をどこか冷めた目で見ていた。
でも今は違う。 後悔は残さない。
それはそうとわかったことがある。
皆でこうして夜遅くまで何かをするっていうのはとてつもなくワクワクする。
そして今、真柴楽器でのバンド練習が終わったところだ。
「じゃあまた明日な」
「おうお疲れ石田」
「お疲れ様石田くーん」
石田は部活の朝練もあり俺と真柴よりも早く帰る。
だから最後は二人になる。
「ねえ淳一君」
「ん、どうした真柴」
「ちょっといいかな」
「ん、どうしたんだ」
「大事な話があるんだ」
真柴の方を見ると彼女はいつもよりか真剣な顔で俺を見つめていた。
クラスの学級委員である、沢村奈津子が大声でそんなことを言う。
それに対して男子はやる気なさそうな返事をする。
大きな学校行事の前ではよくある光景だ。
タイムスリップ前にもよく見たし昔の俺も当然やる気がなかった。
だが今は違う。 普通なら一度しかない高2の文化祭。
俺は幸せなことに二回目のチャンスをもらった。
俄然やる気だ。 当たり前だ。 一瞬、一瞬を大切にしていかねば。
「こら淳一。 あんたも手伝いなさい」
「うっす!」
「えらく素直じゃない淳一」
「ハハハ、俺は生まれ変わったのだ」
「何それ気持ち悪い」
「うるせ」
「何かいいことがあったのか知らないけど、どうせ唯に関することでしょ」
「……勘のいい女は嫌いだな」
「何年あんたたちのこと見てると思ってんのよ。 大抵のことはわかるわよ」
「え、怖いなそれ」
「はあ? こっちは心配してやってんのよ。 あんたたち似た者同士っていうかお互い素直じゃないから見てるこっちがモヤモヤするのよ」
「悪い悪い。 まあ、見ててくれよ」
「……全然説得力ないし期待できないんですけど」
「大丈夫、俺も自信はない」
「だめじゃない」
「自信はない。 でも少しはある」
「何それ……ま、その適当さは淳一らしいかもね。 しっかり見ててあげるから頑張りなさいよ」
奈津子はそう言うと俺の肩を軽くたたいた。
「おうよ」
「でもその前に文化祭の準備、たっぷり手伝ってもらうからね」
「……おうよ」
*
待ちに待った文化祭まであと一週間に迫り各々準備に盛り上がりを見せていた。
毎日遅くまで学校に残って準備をしたり、劇をやるクラスは日々練習に精を出していた。
俺はというと放課後クラスの出し物であるお化け屋敷の準備を手伝い、その後は真柴楽器へ行ってバンド練習に精を出していた。
日中は学校へ行って夜遅くまでバンドの練習、と忙しい日々を過ごしていた。
でも不思議と全く苦には感じなかった。
会社員時代、毎日残業して朝から夜遅くまで働いていたがそれに比べたら遥かにマシだった。
いや、マシなんて言い方は間違っているかもしれない。
俺はこの忙しく充実な日々に満足していた。
昔は文化祭なんてめんどくさいと思って真面目に参加してなかった。
体育祭だってそうだ。 皆が頑張って取り組んでいる姿をどこか冷めた目で見ていた。
でも今は違う。 後悔は残さない。
それはそうとわかったことがある。
皆でこうして夜遅くまで何かをするっていうのはとてつもなくワクワクする。
そして今、真柴楽器でのバンド練習が終わったところだ。
「じゃあまた明日な」
「おうお疲れ石田」
「お疲れ様石田くーん」
石田は部活の朝練もあり俺と真柴よりも早く帰る。
だから最後は二人になる。
「ねえ淳一君」
「ん、どうした真柴」
「ちょっといいかな」
「ん、どうしたんだ」
「大事な話があるんだ」
真柴の方を見ると彼女はいつもよりか真剣な顔で俺を見つめていた。
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