上 下
31 / 61

31 アキメネス:あなたを救う

しおりを挟む
レギーナはパーヴェルに言った。

「実は…さっきレギーナに会ったんだけど…
服が土で汚れていて…お花の匂いもしたから…もしかしたらレギーナがやったんじゃないかなって…」

「なんだって!?」

パーヴェルが驚くと、村人もその話を聞いてざわつく。

「ガリーナの妹さんか?」

「いやぁ、あの仏頂面の子かぁ…確かに今日は見てないな…」

「悪戯っ子のパーヴェルと仲が良いくらいだし、やってもおかしくはないな。」

「よし!早速探すぞ!」

村人はレギーナの捜索に当たる。
花畑に人がいなくなると、パーヴェルは小声で言った。

「ったく…俺は金になるものを傷つけやしねえよ。」

そしてフロルはレギーナに聞く。

「何もされませんでしたか?昨日の様子だと、何かされてもおかしくないので。」

「え、ええ平気よ。
何かから逃げてる様子だったから…」

「逃げている…ですか。
家には居そうにないですね。」

フロルがそう言うと、パーヴェルは頷いた。

「じゃ、色んな場所を当たってみよう!」

「はい。」

こうして、パーヴェルとフロルはレギーナを探しに出かけてしまった。
そんな二人を見て、レギーナは笑みを浮かべる。

(いいわ、作戦通り…!)

 ====

ワレリーはパーヴェルの家に向かっていた。

(実家にレギーナはいなかった…。
…証拠もなしに疑うのはよくありませんが、聞いてみるのに越したことはありません。)

パーヴェルの家の近くまでワレリーはやってくると、女性の声が聞こえてくる。

「やめて!私はガリーナなの!お願い、信じて!」

その声はガリーナの声だった。
ワレリーは走って向かうと、家から少し離れた所で村人に連行されそうになっているガリーナがいた。

「何をしているのですか!」

ワレリーは村人に言うと、村人は言う。

「この女は村の畑や花を荒らしたんだ!」

「なんと…」

ワレリーは意外でもないのかそう呟くと、ガリーナは言う。

「お願い!違うの!私はガリーナなの!信じてパーヴェルくん!」

ワレリーはその言葉に驚いた。

(レギーナが嘘をついている…?それとも…)

ワレリーはガリーナが天使に、レギーナが悪魔に見えてしまう故に、
ガリーナの容姿に二人の要素が混ざって気分が悪くなる。

村人は言う。

「そうやって助けてもらおうと…!
言っとくがパーヴェル、この女を庇うってならお前も一緒に来てもらうぞ!」

ワレリーは眉を潜めると、ガリーナは泣き出した。

「酷い…!」

ワレリーはガリーナの涙を見ると、周囲を見渡す。

(ガリーナならば、涙を流せば不祝儀を呼び起こすはず…)

その時、遠くからカキーンと野球ボールを叩く音が聞こえた。
ワレリーは何事かと思っていると、真後ろから野球ボールが猛スピードで飛んできている。

(今の音は…)

そして、そのままワレリーに直撃した。

「がはァッ!」

とワレリーは声を上げつつそのままダウン。
それを見ていたガリーナは更に涙を流してしまう。

「パーヴェルくんー!」

 =======

ワレリーは目覚めると、そこはパーヴェルの家。
村では珍しい猛暑でワレリーは目が覚めた様子。

「暑…」

ワレリーはそう呟くと、近くにフロルがいる事に気づく。

「目覚めましたかワレリーお兄様。近くで倒れていたんですよ?」

「ああ…」

ワレリーはボーッとしていると、ふとガリーナを思い出した。

「大変です!こうしてはいられません!レギーナは捕まってしまったのですか!?」

「ええ、近くの役場に連れて行かれたみたいです。
どうやら証拠も上がってきているようで、彼女がやった事は間違いないみたいですね。」

「こうしてはいられない…!」

ワレリーはベッドから出ると、フロルは止める。

「いけません、頭を強く打ってましたよお兄様。」

ふと、自分の頭に包帯が巻かれている事に気づいたワレリー。

「聞きなさい、あれはレギーナではなくガリーナである可能性が高いです。」

「え?」

フロルは首を傾げると、ワレリーは険しい表情を見せる。

「私は彼女を助け、安全な場所に避難させます。
パーヴェルやあっちのガリーナにはくれぐれもこの事を言わないようお願いします。」

「なぜですか?
もしレギーナさんとガリーナさんが入れ替わっているとしたら、尚更言わなければ。」

それを聞いたワレリーは首を横に振った。

「もし本物のレギーナが村の者に捕まったらどうなるでしょうか。」

「…わかりません。」

フロルがそう言うと、ワレリーは頭を抱える。

「そう、わからない…つまり何をされてもおかしくないという事です。」

「だとしても惨い刑にはならないでしょう。それとも、そういう前例があるんですか?」

ワレリーは難しい顔をすると言った。

「村の記録によると二十年前、故意で村人一人に重症を負わせた女村人が、火炙りで処刑されています。」

「火炙り…!?」

フロルは驚くと、ワレリーは頷いた。

「この村では、信仰されている宗教があります。
その教えで、村人はお互いに傷つけ合うのを否定し、穏やかな関係を築くよう言われています。」

「ほう、それって処刑の話と関係があるのですか?」

「ええ。特別無知な子供を除き、故意に村人に損害、傷等を与えた人間は悪魔に取り憑かれていると言われます。
悪魔を取り除く簡単な方法こそが、火炙りなのです。だから実質処刑と同じなのですよ。」

「無茶苦茶ですね。」

フロルは流石に顔を引き攣ると、ワレリーは険しい表情を見せる。

「レギーナは高確率で火炙りの刑になるでしょう。
この村の者は、悪魔に容赦がないのですから。

この程度と言ってはなんですが、この程度で人を殺めるなど間違っています。
誰にも被害が及ばぬよう、私が彼女を誘拐します。」

「そうなれば、パーヴェルお兄様となったワレリーお兄様が処罰されますよ?
パーヴェルお兄様の評判も悪くなります。」

「私はもうワレリーではなく、パーヴェルだからいいのです。」

それを聞いたフロルは目を丸くすると、それから頷く。

「お兄様の考えはわかりました。
しかし、それはいくらなんでも勝手に決め過ぎかと。」

するとワレリーは目を開き、恐ろしい四白眼を見せた。

「…フロル、私は誰も傷つけたくないのですよ。」

「なぜ他人の為にそこまで…ワレリーお兄様が傷ついても実行するのですか?」

フロルに言われると、ワレリーは目を閉じた。

「勿論です。物を所有するとは、責任を持つ事なのですから。」

「物?」

フロルは言葉の意味が理解できなかったのか首を傾げると、ワレリーはフロルを見た。

「村の事です。
村の全ては、私が支配しているのですよ。
…守るのは当たり前です。」

それを聞いたフロルは目を見開いて、声も出さずに驚く。
ワレリーは言った。

「村を仕切る私に指図は許しません。
行ってきます。」

ワレリーはガリーナを救いに、走って外に出た。
フロルはそんなワレリーを見ると、上の空で思う。

(ワレリーお兄様…顔がお母様によく似ていれば、性格までもよく似てらっしゃる…。)

が、ワレリーはすぐに帰ってくる。
ベッドの横にあった自分のダガーを手に取ると、再び外に出ようとするのでフロルは言った。

「お兄様、やっぱりパーヴェルお兄様に誘拐させるのはやめましょう。」

「はい?」

ワレリーが眉を潜めると、フロルは自分が付けているハチマキを取る。

「どうせ俺は遠くに引っ越すんですし、俺を使ってください。」

それを聞いたワレリーは、口を結んで驚いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...