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08 ムスカリ:失望

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次の日の事。
ガリーナは目を覚ますと、パーヴェルが既に目を覚ましていた。
ガリーナの目の先で、パーヴェルは添い寝して見つめている。
二人は見つめ合うと、パーヴェルはガリーナにキスをした。
ガリーナは驚いた様子でいると、パーヴェルは口を離してクスリと笑った。

「おはようございます、ガリーナ。」

「お、おお、おはようワレリーさん…!」

顔を赤くして慌てるガリーナ。
パーヴェルは仰向けになって天井を見つめると言う。

「私、今日はとっても幸せな気分です。」

「え…?」

「ふふふ」

パーヴェルは笑ってしまうと、ガリーナにくっつくように寄り添った。

「少しだけ…少しだけこうさせてください…。」

「は、はい…!」

ガリーナはそう言うと、パーヴェルの顔を見る。
目を閉じているだけの様に見えるが、きっとパーヴェルは何か考えている。
ガリーナはそう感じた。

 =======

パーヴェルが教会に出かけた後、ガリーナは外出の支度をしていた。
ニコライはいつも通りに髪を結ばれ、眼帯を付けられる。

「今日は久々に保育園よ、ニコライ。
子供達と、ちゃーんと仲良くするのよ。」

「そとー!」

ニコライの言葉に、溜息が出てしまうガリーナ。

(周りと馴染めないからって通わせた保育園…。
いつも子供達に怪我させて、その度に一時休ませてるのよね…。
今日こそ問題を起こしませんように…!)

ガリーナはそう祈祷すると、ニコライを連れて外に出かけた。

 =======================

ガリーナは小さな小さな保育園にやってきた。
ガリーナは保育園の先生にニコライを出すと、保育園の先生は笑顔を向ける。

「ニコライくんは落ち着きましたか?」

それに対し、ガリーナは目を泳がせて言った。

「いやー…でも今日はお腹いっぱいご飯食べさせたので、子供達を虐める心配はないかなと…。」

「そ、そうですか…」

保育園の先生は苦笑すると、ニコライを連れて園内に向かう。
ガリーナは心配なのか、ニコライが園内に入っていくのを見つめている。
今日のニコライは満腹な為か、大人しく園内に入っていった。
それに安堵の溜息をついたガリーナ。
そこに、背後からワレリーが話しかけてくる。

「おや、保育園に連れていいのですか?」

ガリーナはギョッとして驚いてしまう。

「きゃ!って、いきなり背後から話しかけないでください!」

「悪魔でも出た様な顔をしないでください。」

「だって…!驚きますよ!」

「先日は申し訳ありません、邪魔が入りましたね。」

ワレリーの言葉に、ガリーナは無愛想な顔を見せる。

「邪魔 って…!レギーナの事をなんだと思っているの?」

「パーヴェルを愛している女です。あとあなたの妹、村人。それ以外にありますか?」

ガリーナは失望したのか眉を潜めると、軽く拳を握った。
それを見たワレリーは一歩離れる。

「おやおや、そんな顔をする事はないでしょう。」

「あなただって、パーヴェルくんの本当の気持ちわかっているでしょう!?
なんでレギーナにそれを伝えないの!?仮にもパーヴェルくんとして生きてるでしょう!?
レギーナとずっと一緒にいたら…真実を知った時にレギーナがどんな顔するか…!」

するとワレリーは、いつもの穏やかな笑みを少し崩すと言った。

「おや、では事実を知ったレギーナはあなたをどう思うでしょう?
ただでさえあなたを嫌っているレギーナ。
更に嫌悪するようになり、本物のパーヴェルを奪ったあなたを永遠に恨むでしょうね。
彼女は、パーヴェルしか頭にないのですから。」

ガリーナは反論ができないのか言葉を詰まらせると、ワレリーは再び微笑む。

「今はそんな話はどうでもいいのです。
ガリーナ、今から秘密の場所へ行きませんか?」

それを聞いたガリーナは顔を引き攣った。

「それって…あなたが私を襲った…!」

「ええ。」

「嫌です。」

それを聞くと、ワレリーは眉を困らせる。

「おや、残念です。
見せたい物があったのですが…。」

「嫌な予感しかしません!」

ガリーナは断固拒否したが、ワレリーはガリーナの顔に自分の顔を近づけて言った。

「私、あなたに興味があるのです。」

「えっ!」

ガリーナは顔を赤くすると、ワレリーは顔を離す。

「だから…見て欲しい絵があるのです。」

「絵…?」

ガリーナが首を傾げると、ワレリーは頷いた。

 =================

結局、ガリーナは目隠しされてやってきてしまった。
今度は室内に入るとすぐにワレリーは目隠しを取ってくれる。
ガリーナは館内を見ると言った。

「本当にここはどこ…?」

「秘密です。さ、こちらへ。」

ワレリーは先に歩くので、ガリーナはワレリーを追いかけた。
とある一室にワレリーは入るので、ガリーナは警戒しつつも室内を覗く。
そこは家具など置いていない小部屋で、絵を描く為のキャンバスや絵の具などの道具が部屋の中央に置いてあった。
部屋の壁にはいくつか絵が貼られている。
どれも上手いと言える絵だが、何を伝えたいのかイマイチ伝わらない絵ばかりだった。
題名も『野心』『決意』『望み』など、絵を知る上では曖昧な名前のものが多い。

「これ…ワレリーさんが?」

「ええ、暇な日はこうして描いています。」

ガリーナは感嘆の声を上げると、ワレリーは一枚の絵を取り出す。
それを持ってガリーナの前まで来ると、ワレリーはじっと絵を見つめていた。
ガリーナは気になってワレリーの隣に来て、絵を一緒に見た。

その絵は、大勢の悪魔が教会に並んでいるもの。
色んな形をした悪魔が、教会の前で他の悪魔と楽しく会話をしている。
更に教会の中の絵もあるのだが、教会の中では一人の悪魔が教会の神に祈っていた。
題名は『現実』。

「…これは?」

ガリーナが聞くと、ワレリーは絵を見つめて言う。

「この村を描いたものです。」

「え…?悪魔しかいないじゃないですか。」

ガリーナが言うと、ワレリーは黙って頷いた。

「私には悪魔に見えます。村の者が、全員。
…あなたを除いて…」

そう言ってワレリーはガリーナを見つめる。
ガリーナは驚いた様子でワレリーを見つめ返すと、再び絵に視線を落とした。

「こんな感じに、角が、尻尾が、翼が生えて見えるんですか?」

「…そうです。」

ワレリーはそう言ってキャンバスを近くの椅子に立て掛けると、その部屋を出る。
ガリーナも後を追いかけると、ワレリーは歩きながら話した。

「外ではどうって事もないのですが、この村の者だけが悪魔か天使に見えるのです。」

「昔からですか?」

「昔は、一部の人間がそう見えるだけでした。
ですが、今は私以外の村人が悪魔か天使に見えてしまう…。」

その言葉にガリーナは引っかかったのか聞く。

「ワレリーさん自身は…?」

ワレリーは近くにあった鏡を見つけると言った。

「私だけ…私だけが人間なのです。」

廊下に飾られた一枚の鏡、ワレリーはすれ違い様に鏡を横目で見つめる。
ワレリーの目には、自分が一人、天使が一人見えた。
するとワレリーは足を止めて言う。

「あなたは…この村の人間がどう見えますか…?」

ワレリーは穏やかな表情ではなく、真摯な表情で聞く。
しかしガリーナは回答に困った。

「え…どう見ても人間だし…悪魔みたいに怖いとも思わないけど…」

「そう…ですか…」

ワレリーはそう呟くと、ガリーナに優しい笑みを向ける。

「ありがとうございます。
えっと…暫く一人にさせてください、部屋は自由に見ていいですから。」

珍しくワレリーは言葉を詰まらせた様子でいた。
そしてワレリーは、別の部屋にこもってしまった。
ガリーナは煮え切らない気分になりながらも、一つ一つ部屋を見る事に。

するとガリーナは一発目から開かない扉を発見。

(錆びてるのかな…)

ガリーナは思い切って捻ると、何かが壊れた音と、扉が開く。
そして部屋の中を見ると、感嘆の声を上げた。

天井が高く、こちらも家具が一つもない広い部屋。
その部屋の一番奥には、村の教会の様に色とりどりの窓があるのだ。
ガリーナは教会の雰囲気に少し似た部屋に入ると、窓の先を見つめる。
すると、窓の先がハッキリ見えた。

窓の先は、村の人々が、自分もよく通う教会の中。
まるで、教会の窓の裏側から覗いているようだった。
ちなみに自分達が教会から窓を見ても、窓には何も映らない。
そして、その教会には今、パーヴェルがいた。

ガリーナは衝撃で立ち止まっていると、パーヴェルは冷たい表情を浮かべながら神に語った。


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