六音一揮

うてな

文字の大きさ
上 下
69 / 95
5章 諧謔叙唱

第67音 四海兄弟

しおりを挟む
【四海兄弟】しかいけいてい
人と接するときにまごころと礼儀を持てば、
人は兄弟のように親しくなれること。

===========

――ルカが六歳で、ツウが四歳の頃。
ルカとツウは一緒にいた。
ルカは近くで収穫してきた青りんごを食べ、ツウもそのりんごを食べていた。
ツウはまだ児童園に慣れていないのか、俯いてばかりだった。
ルカはツウを見て笑うと、ツウの髪をクシャクシャと触って言う。

「ツウタムって名前、【果実】って意味なんだな!
新入生も美味そうな見た目してるし、似合ってんじゃん!」

そう言われると、ツウは目を丸くした。

「ルカは人を食べる種族なの?」

「え?」

ルカは目を丸くする。
ツウはルカの姿を見ながら言った。

「その鋭い目つきに、立派に並んだ犬歯。
まるで肉食の動物みたい。」

「俺が?」

「故郷の肉食獣はみんな、僕を食べてもきっと美味しくないって言ってた。
だから僕の物は、誰も欲しがらない。
それでも美味しそうに見えるの?」

ツウはジッとルカを見つめてきた。
ツウの瞳に映る自分を、ルカは眺めていた。
するとルカは呟く。

「うん。だって新入生さ…」――



そこでルカは目が覚めた。
するとそこは、海底。
ルカは思わず息を止めてしまうが、苦しくない事に気づく。
どうやら水中に空気の層があるようで、寒いはずの水底も寒さが気にならないほどの気温だった。

(苦しくないし、寒くない。)

改めて、自分のいる場所を確認してみた。
暗い暗い海底らしく、上を見上げると遠い遠い光が朧に見えた。

海には何もいなかった。
普通は魚でもいる気がするが、魚一匹も見当たらない。
それだけではない、海に生える藻類も見当たらないのだ。
ただの岩だらけの海の中。

(なんだここ…生き物の気配が全くしない…。)

更にルカは、近くに光を放つ珠を発見した。
銀色に輝く、大きな真珠だった。
ルカは思わず感心した。

(綺麗…これは真珠?)

その輝く真珠に自分の姿が映ったルカ。
ルカの姿は人型ではあったが、耳がいつも以上に尖っており、歯も鋭くなっていた。
ルカはそれに驚いた。

「な!ここは魔法がかかってるのか!?」

そこに、一人の少女が歩いてきた。

「そうだよ。」

ルカはその声に気づき、少女の方を見た。
少女もルカの様な見た目をしている。
耳が尖がり、歯がギザギザしている。

「君は?」

ルカが訪ねると、少女は答えた。

「私はイルナ、お前を海に引きずり込んだ張本人だ。」

そう言われ、さっきの怪魚を思い出すルカ。
ルカは顔が真っ青になる。

「あの怪魚になるの!?怖すぎるしぃ!!」

するとイルナは首を傾げた。

「お前も怪魚の姿になれるはずだ。」

そう言われ、ルカは思い出した顔をした。
ルカは俯くと言う。

「そっか…。俺、プレティルナの血を引いてるんだな…。」

「そ。今はかなり減ったが。」

「減ったの!?」

ルカが言うと、イルナは頷いた。
イルナは近くの岩に座り込むと、不機嫌そうに溜息をついた。

「餌である海洋生物が死滅したり、人間に狩られたりでかなり減った。
…このままじゃ、絶滅の一歩を辿るだけさ。」

ルカはショックで黙り込むと、イルナは続ける。

「パシアの涙があれば、プレティルナも永遠に繁栄できたのに。」

それを聞き、ルカは首を傾げた。

「パシアの涙って何?
と言うかパシアって、この世界にいる人間の事…だよね?」

「知らんのか。」

イルナはそう言うと、ルカの近くにある真珠を見た。

「パシアは人間の形をしているが、元々は深海に住む大きな真珠貝だった。
天敵の私達から逃げる為に、わざわざ人間に進化して陸へ出て行ってしまった種族だ。」

ルカは目を丸くしていた。
そしてルカはツウを思い出す。

(確かにツウの髪は、真珠みたいに綺麗。)

イルナは続ける。

「パシアの涙はその名の通り、パシアが流す涙の事だ。
パシアの涙には魔力が備わっており、それが海に溶けると海が豊かになった。」

「パシア…パねぇ…!」

「だがパシアの涙は、空気に触れると個体になってしまう。海に溶けなくなってしまうんだ。
そこにある真珠も、パシアの涙みたいなものだ。
一丁前に魔力だけは秘めているから、私達の傍に置かせて貰っている。」

「へぇ…!じゃあツウが泣くと真珠ができるって事か?
ツウが泣いた所見た事ないん…!」

ルカがそう言っていると、イルナは考えてから言う。

「お前、まさかあのパシアの少年と知り合いなのか?」

「知り合いも何も!家族みたいに一緒に育ってきた!」

ルカが言うと、イルナは驚いた顔。
イルナは思わず感心して言う。

「不思議だ。プレティルナにとってパシアは食事みたいなものだ。
よく今まで共存できたな。」

それを聞き、ルカは目を丸くした。
それから難しい顔をするので、イルナは少し考えてから言った。

「お前はプレティルナの本能があまり出てないんだな。
きっとパシアの血を引いているお陰だ。」

するとルカは急にいい声で話す。

「俺の涙も真珠になりますか?」

するとイルナはルカの前に来て、廻し蹴りをしながら言った。

「試してみろよッ!」

「ぐはぁ!!」

そう言ってルカは涙目に。
しかしルカの涙は真珠にならない。

「なりませんでした…!」

ルカが言うと、イルナは溜息。
ルカは腹を擦りながらも言う。

「で、なんで俺をここに?」

「はぁ!?なんでって、助けてやったんだろうが!」

そう言われ、ルカは首を傾げた。
イルナは続ける。

「あのロボットだよ!パシアが作ってる護衛ロボだ!
あのロボットは、プレティルナを殺す為に作られたロボットなんだよ!」

「はぁ!?ユネイはそんな事しない!
ユネイもツウと俺とずっと一緒に過ごしてきた仲間だ!」

ルカは驚きつつも反論。
それにイルナも驚いた様子だったが、やがて落ち着いた。

「そ…そうか、それは失礼した。
私はてっきりパシアに捕まってしまったのかと…」

「わかってくれたのならよろしい!俺をすぐに元の場所へ戻してくれ。」

ルカが言うと、イルナは頷いた。

「道案内しよう、海を通る事になる。
そうだ、これをやるよ。」

そう言って、イルナはルカに何かを渡した。
それを見ると、くすんだ色をした真珠だった。

「真珠?」

「パシアの涙だ、これを食べれば一時的に魔力を得られる。
魔力を得れば、怪魚の姿になれるんだ。
私もパシアとプレティルナのハーフだから、これがないと怪魚の姿になれない。
怪魚の姿になれば、海でも呼吸ができるようになる。」

「なるへそ。」

そう言ってルカは躊躇わずに真珠を口に入れた。
イルナも口に真珠を入れると、海へ飛び込んだ。
すると怪魚へ姿を変えるので、ルカは思わず感心した。

「んじゃ俺も!」

ルカは少し楽しむ気持ちで、海へ飛び込んだ。
が。

(冷たい…!!)

ルカは寒いのが苦手だ。
ルカの姿は怪魚になるも、それでも寒いのは苦手のまま。

「先行くぞ。」

イルナが言って泳ぎ始めると、ルカは寒さを堪えてイルナを追いかけた。

「待って…!怪魚に…ホンマになってるぅ!?」

ルカは自分の姿に驚きつつも、海を進んだ。



少し進むと、ルカは気づいた。

「ここ、生き物も何もいないよね?プレティルナしかいないの?」

その問いに、イルナは泳ぐのをやめた。
ルカも同じく止まると、冷たさで身震い。
イルナは海岸辺りを眺めており、ルカも同じ方を見てみた。

すると、海岸付近には沢山の白い貝殻が沈んでいた。
貝殻はどれも半開きになっており、中にはツウに似た見た目の人がいた。
どの人も虚ろな目をしており、既に息がない様にも見える。

ルカはそれに恐怖すると、イルナは言った。

「この海に生き物がいないのは…アレのせいだ。」

その言葉に、ルカは震えた。

「アレって…!アレ何ィ!?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...