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5章 諧謔叙唱
第67音 四海兄弟
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【四海兄弟】しかいけいてい
人と接するときにまごころと礼儀を持てば、
人は兄弟のように親しくなれること。
===========
――ルカが六歳で、ツウが四歳の頃。
ルカとツウは一緒にいた。
ルカは近くで収穫してきた青りんごを食べ、ツウもそのりんごを食べていた。
ツウはまだ児童園に慣れていないのか、俯いてばかりだった。
ルカはツウを見て笑うと、ツウの髪をクシャクシャと触って言う。
「ツウタムって名前、【果実】って意味なんだな!
新入生も美味そうな見た目してるし、似合ってんじゃん!」
そう言われると、ツウは目を丸くした。
「ルカは人を食べる種族なの?」
「え?」
ルカは目を丸くする。
ツウはルカの姿を見ながら言った。
「その鋭い目つきに、立派に並んだ犬歯。
まるで肉食の動物みたい。」
「俺が?」
「故郷の肉食獣はみんな、僕を食べてもきっと美味しくないって言ってた。
だから僕の物は、誰も欲しがらない。
それでも美味しそうに見えるの?」
ツウはジッとルカを見つめてきた。
ツウの瞳に映る自分を、ルカは眺めていた。
するとルカは呟く。
「うん。だって新入生さ…」――
そこでルカは目が覚めた。
するとそこは、海底。
ルカは思わず息を止めてしまうが、苦しくない事に気づく。
どうやら水中に空気の層があるようで、寒いはずの水底も寒さが気にならないほどの気温だった。
(苦しくないし、寒くない。)
改めて、自分のいる場所を確認してみた。
暗い暗い海底らしく、上を見上げると遠い遠い光が朧に見えた。
海には何もいなかった。
普通は魚でもいる気がするが、魚一匹も見当たらない。
それだけではない、海に生える藻類も見当たらないのだ。
ただの岩だらけの海の中。
(なんだここ…生き物の気配が全くしない…。)
更にルカは、近くに光を放つ珠を発見した。
銀色に輝く、大きな真珠だった。
ルカは思わず感心した。
(綺麗…これは真珠?)
その輝く真珠に自分の姿が映ったルカ。
ルカの姿は人型ではあったが、耳がいつも以上に尖っており、歯も鋭くなっていた。
ルカはそれに驚いた。
「な!ここは魔法がかかってるのか!?」
そこに、一人の少女が歩いてきた。
「そうだよ。」
ルカはその声に気づき、少女の方を見た。
少女もルカの様な見た目をしている。
耳が尖がり、歯がギザギザしている。
「君は?」
ルカが訪ねると、少女は答えた。
「私はイルナ、お前を海に引きずり込んだ張本人だ。」
そう言われ、さっきの怪魚を思い出すルカ。
ルカは顔が真っ青になる。
「あの怪魚になるの!?怖すぎるしぃ!!」
するとイルナは首を傾げた。
「お前も怪魚の姿になれるはずだ。」
そう言われ、ルカは思い出した顔をした。
ルカは俯くと言う。
「そっか…。俺、プレティルナの血を引いてるんだな…。」
「そ。今はかなり減ったが。」
「減ったの!?」
ルカが言うと、イルナは頷いた。
イルナは近くの岩に座り込むと、不機嫌そうに溜息をついた。
「餌である海洋生物が死滅したり、人間に狩られたりでかなり減った。
…このままじゃ、絶滅の一歩を辿るだけさ。」
ルカはショックで黙り込むと、イルナは続ける。
「パシアの涙があれば、プレティルナも永遠に繁栄できたのに。」
それを聞き、ルカは首を傾げた。
「パシアの涙って何?
と言うかパシアって、この世界にいる人間の事…だよね?」
「知らんのか。」
イルナはそう言うと、ルカの近くにある真珠を見た。
「パシアは人間の形をしているが、元々は深海に住む大きな真珠貝だった。
天敵の私達から逃げる為に、わざわざ人間に進化して陸へ出て行ってしまった種族だ。」
ルカは目を丸くしていた。
そしてルカはツウを思い出す。
(確かにツウの髪は、真珠みたいに綺麗。)
イルナは続ける。
「パシアの涙はその名の通り、パシアが流す涙の事だ。
パシアの涙には魔力が備わっており、それが海に溶けると海が豊かになった。」
「パシア…パねぇ…!」
「だがパシアの涙は、空気に触れると個体になってしまう。海に溶けなくなってしまうんだ。
そこにある真珠も、パシアの涙みたいなものだ。
一丁前に魔力だけは秘めているから、私達の傍に置かせて貰っている。」
「へぇ…!じゃあツウが泣くと真珠ができるって事か?
ツウが泣いた所見た事ないん…!」
ルカがそう言っていると、イルナは考えてから言う。
「お前、まさかあのパシアの少年と知り合いなのか?」
「知り合いも何も!家族みたいに一緒に育ってきた!」
ルカが言うと、イルナは驚いた顔。
イルナは思わず感心して言う。
「不思議だ。プレティルナにとってパシアは食事みたいなものだ。
よく今まで共存できたな。」
それを聞き、ルカは目を丸くした。
それから難しい顔をするので、イルナは少し考えてから言った。
「お前はプレティルナの本能があまり出てないんだな。
きっとパシアの血を引いているお陰だ。」
するとルカは急にいい声で話す。
「俺の涙も真珠になりますか?」
するとイルナはルカの前に来て、廻し蹴りをしながら言った。
「試してみろよッ!」
「ぐはぁ!!」
そう言ってルカは涙目に。
しかしルカの涙は真珠にならない。
「なりませんでした…!」
ルカが言うと、イルナは溜息。
ルカは腹を擦りながらも言う。
「で、なんで俺をここに?」
「はぁ!?なんでって、助けてやったんだろうが!」
そう言われ、ルカは首を傾げた。
イルナは続ける。
「あのロボットだよ!パシアが作ってる護衛ロボだ!
あのロボットは、プレティルナを殺す為に作られたロボットなんだよ!」
「はぁ!?ユネイはそんな事しない!
ユネイもツウと俺とずっと一緒に過ごしてきた仲間だ!」
ルカは驚きつつも反論。
それにイルナも驚いた様子だったが、やがて落ち着いた。
「そ…そうか、それは失礼した。
私はてっきりパシアに捕まってしまったのかと…」
「わかってくれたのならよろしい!俺をすぐに元の場所へ戻してくれ。」
ルカが言うと、イルナは頷いた。
「道案内しよう、海を通る事になる。
そうだ、これをやるよ。」
そう言って、イルナはルカに何かを渡した。
それを見ると、くすんだ色をした真珠だった。
「真珠?」
「パシアの涙だ、これを食べれば一時的に魔力を得られる。
魔力を得れば、怪魚の姿になれるんだ。
私もパシアとプレティルナのハーフだから、これがないと怪魚の姿になれない。
怪魚の姿になれば、海でも呼吸ができるようになる。」
「なるへそ。」
そう言ってルカは躊躇わずに真珠を口に入れた。
イルナも口に真珠を入れると、海へ飛び込んだ。
すると怪魚へ姿を変えるので、ルカは思わず感心した。
「んじゃ俺も!」
ルカは少し楽しむ気持ちで、海へ飛び込んだ。
が。
(冷たい…!!)
ルカは寒いのが苦手だ。
ルカの姿は怪魚になるも、それでも寒いのは苦手のまま。
「先行くぞ。」
イルナが言って泳ぎ始めると、ルカは寒さを堪えてイルナを追いかけた。
「待って…!怪魚に…ホンマになってるぅ!?」
ルカは自分の姿に驚きつつも、海を進んだ。
少し進むと、ルカは気づいた。
「ここ、生き物も何もいないよね?プレティルナしかいないの?」
その問いに、イルナは泳ぐのをやめた。
ルカも同じく止まると、冷たさで身震い。
イルナは海岸辺りを眺めており、ルカも同じ方を見てみた。
すると、海岸付近には沢山の白い貝殻が沈んでいた。
貝殻はどれも半開きになっており、中にはツウに似た見た目の人がいた。
どの人も虚ろな目をしており、既に息がない様にも見える。
ルカはそれに恐怖すると、イルナは言った。
「この海に生き物がいないのは…アレのせいだ。」
その言葉に、ルカは震えた。
「アレって…!アレ何ィ!?」
人と接するときにまごころと礼儀を持てば、
人は兄弟のように親しくなれること。
===========
――ルカが六歳で、ツウが四歳の頃。
ルカとツウは一緒にいた。
ルカは近くで収穫してきた青りんごを食べ、ツウもそのりんごを食べていた。
ツウはまだ児童園に慣れていないのか、俯いてばかりだった。
ルカはツウを見て笑うと、ツウの髪をクシャクシャと触って言う。
「ツウタムって名前、【果実】って意味なんだな!
新入生も美味そうな見た目してるし、似合ってんじゃん!」
そう言われると、ツウは目を丸くした。
「ルカは人を食べる種族なの?」
「え?」
ルカは目を丸くする。
ツウはルカの姿を見ながら言った。
「その鋭い目つきに、立派に並んだ犬歯。
まるで肉食の動物みたい。」
「俺が?」
「故郷の肉食獣はみんな、僕を食べてもきっと美味しくないって言ってた。
だから僕の物は、誰も欲しがらない。
それでも美味しそうに見えるの?」
ツウはジッとルカを見つめてきた。
ツウの瞳に映る自分を、ルカは眺めていた。
するとルカは呟く。
「うん。だって新入生さ…」――
そこでルカは目が覚めた。
するとそこは、海底。
ルカは思わず息を止めてしまうが、苦しくない事に気づく。
どうやら水中に空気の層があるようで、寒いはずの水底も寒さが気にならないほどの気温だった。
(苦しくないし、寒くない。)
改めて、自分のいる場所を確認してみた。
暗い暗い海底らしく、上を見上げると遠い遠い光が朧に見えた。
海には何もいなかった。
普通は魚でもいる気がするが、魚一匹も見当たらない。
それだけではない、海に生える藻類も見当たらないのだ。
ただの岩だらけの海の中。
(なんだここ…生き物の気配が全くしない…。)
更にルカは、近くに光を放つ珠を発見した。
銀色に輝く、大きな真珠だった。
ルカは思わず感心した。
(綺麗…これは真珠?)
その輝く真珠に自分の姿が映ったルカ。
ルカの姿は人型ではあったが、耳がいつも以上に尖っており、歯も鋭くなっていた。
ルカはそれに驚いた。
「な!ここは魔法がかかってるのか!?」
そこに、一人の少女が歩いてきた。
「そうだよ。」
ルカはその声に気づき、少女の方を見た。
少女もルカの様な見た目をしている。
耳が尖がり、歯がギザギザしている。
「君は?」
ルカが訪ねると、少女は答えた。
「私はイルナ、お前を海に引きずり込んだ張本人だ。」
そう言われ、さっきの怪魚を思い出すルカ。
ルカは顔が真っ青になる。
「あの怪魚になるの!?怖すぎるしぃ!!」
するとイルナは首を傾げた。
「お前も怪魚の姿になれるはずだ。」
そう言われ、ルカは思い出した顔をした。
ルカは俯くと言う。
「そっか…。俺、プレティルナの血を引いてるんだな…。」
「そ。今はかなり減ったが。」
「減ったの!?」
ルカが言うと、イルナは頷いた。
イルナは近くの岩に座り込むと、不機嫌そうに溜息をついた。
「餌である海洋生物が死滅したり、人間に狩られたりでかなり減った。
…このままじゃ、絶滅の一歩を辿るだけさ。」
ルカはショックで黙り込むと、イルナは続ける。
「パシアの涙があれば、プレティルナも永遠に繁栄できたのに。」
それを聞き、ルカは首を傾げた。
「パシアの涙って何?
と言うかパシアって、この世界にいる人間の事…だよね?」
「知らんのか。」
イルナはそう言うと、ルカの近くにある真珠を見た。
「パシアは人間の形をしているが、元々は深海に住む大きな真珠貝だった。
天敵の私達から逃げる為に、わざわざ人間に進化して陸へ出て行ってしまった種族だ。」
ルカは目を丸くしていた。
そしてルカはツウを思い出す。
(確かにツウの髪は、真珠みたいに綺麗。)
イルナは続ける。
「パシアの涙はその名の通り、パシアが流す涙の事だ。
パシアの涙には魔力が備わっており、それが海に溶けると海が豊かになった。」
「パシア…パねぇ…!」
「だがパシアの涙は、空気に触れると個体になってしまう。海に溶けなくなってしまうんだ。
そこにある真珠も、パシアの涙みたいなものだ。
一丁前に魔力だけは秘めているから、私達の傍に置かせて貰っている。」
「へぇ…!じゃあツウが泣くと真珠ができるって事か?
ツウが泣いた所見た事ないん…!」
ルカがそう言っていると、イルナは考えてから言う。
「お前、まさかあのパシアの少年と知り合いなのか?」
「知り合いも何も!家族みたいに一緒に育ってきた!」
ルカが言うと、イルナは驚いた顔。
イルナは思わず感心して言う。
「不思議だ。プレティルナにとってパシアは食事みたいなものだ。
よく今まで共存できたな。」
それを聞き、ルカは目を丸くした。
それから難しい顔をするので、イルナは少し考えてから言った。
「お前はプレティルナの本能があまり出てないんだな。
きっとパシアの血を引いているお陰だ。」
するとルカは急にいい声で話す。
「俺の涙も真珠になりますか?」
するとイルナはルカの前に来て、廻し蹴りをしながら言った。
「試してみろよッ!」
「ぐはぁ!!」
そう言ってルカは涙目に。
しかしルカの涙は真珠にならない。
「なりませんでした…!」
ルカが言うと、イルナは溜息。
ルカは腹を擦りながらも言う。
「で、なんで俺をここに?」
「はぁ!?なんでって、助けてやったんだろうが!」
そう言われ、ルカは首を傾げた。
イルナは続ける。
「あのロボットだよ!パシアが作ってる護衛ロボだ!
あのロボットは、プレティルナを殺す為に作られたロボットなんだよ!」
「はぁ!?ユネイはそんな事しない!
ユネイもツウと俺とずっと一緒に過ごしてきた仲間だ!」
ルカは驚きつつも反論。
それにイルナも驚いた様子だったが、やがて落ち着いた。
「そ…そうか、それは失礼した。
私はてっきりパシアに捕まってしまったのかと…」
「わかってくれたのならよろしい!俺をすぐに元の場所へ戻してくれ。」
ルカが言うと、イルナは頷いた。
「道案内しよう、海を通る事になる。
そうだ、これをやるよ。」
そう言って、イルナはルカに何かを渡した。
それを見ると、くすんだ色をした真珠だった。
「真珠?」
「パシアの涙だ、これを食べれば一時的に魔力を得られる。
魔力を得れば、怪魚の姿になれるんだ。
私もパシアとプレティルナのハーフだから、これがないと怪魚の姿になれない。
怪魚の姿になれば、海でも呼吸ができるようになる。」
「なるへそ。」
そう言ってルカは躊躇わずに真珠を口に入れた。
イルナも口に真珠を入れると、海へ飛び込んだ。
すると怪魚へ姿を変えるので、ルカは思わず感心した。
「んじゃ俺も!」
ルカは少し楽しむ気持ちで、海へ飛び込んだ。
が。
(冷たい…!!)
ルカは寒いのが苦手だ。
ルカの姿は怪魚になるも、それでも寒いのは苦手のまま。
「先行くぞ。」
イルナが言って泳ぎ始めると、ルカは寒さを堪えてイルナを追いかけた。
「待って…!怪魚に…ホンマになってるぅ!?」
ルカは自分の姿に驚きつつも、海を進んだ。
少し進むと、ルカは気づいた。
「ここ、生き物も何もいないよね?プレティルナしかいないの?」
その問いに、イルナは泳ぐのをやめた。
ルカも同じく止まると、冷たさで身震い。
イルナは海岸辺りを眺めており、ルカも同じ方を見てみた。
すると、海岸付近には沢山の白い貝殻が沈んでいた。
貝殻はどれも半開きになっており、中にはツウに似た見た目の人がいた。
どの人も虚ろな目をしており、既に息がない様にも見える。
ルカはそれに恐怖すると、イルナは言った。
「この海に生き物がいないのは…アレのせいだ。」
その言葉に、ルカは震えた。
「アレって…!アレ何ィ!?」
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