六音一揮

うてな

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2章 接続独唱

第12音 曖昧模糊

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【曖昧模糊】あいまいもこ
物事の実態や本質がわからず、
ぼんやりはっきりしない事。

============

児童園から少し離れた坂道を登った先の一本の木。
アールはその木の横に座り、新聞を開いていた。

「おじさんみたいですね。」

ルネアは声をかけようとしたが、あまりいい言葉を言えなかったようだ。
しかも笑顔で。
アールは何も答えず、新聞を一枚抜き取って折り始めた。
ルネアはアールの隣に座り、何が完成するのか見ている。
新聞の折り方は少々不器用、出来上がったのは飛行機だった。

「飛行機!」

ルネアはそう言って喜ぶと、アールは黙ってルネアに飛行機をあげる。
ルネアは子供の様に笑い、アールはもう一つ何かを作り始めていた。
それを見ていたルネアはふと質問。

「新聞読まないんですか?」

「…遊ぶ為に新聞を貰ってきたからな。」

目を一切合わせずにボソッと呟くアール。
ルネアはその様子と理由に微笑すると、アールは言った。

「さっき見ていたろう?」

その言葉にルネアは肩を驚かせる。
ルネアは慌てた様子になったが、すぐに呼吸を整えてから言った。

「M…なんですか?」

それを聴いたアールは新聞で完成させた紙鉄砲を手に持つ。

「なろうと思えば誰にでもなれるけど…なってみるか?」

アールはそう聞いてきたので、ルネアは恐ろしくて首を横に振った。
アールはルネアの様子を気にも留めず、紙鉄砲で遊んでいる。

そんなアールをいつ見ても裏切りを犯すような人には見えないルネア。

「あの、アールさん。」

アールはそれでも無反応なので、ルネアは言った。

「未来のラムが言ってたんです。アールさんは裏切り者だって…。
えっと…裏切る予定なんてないですよね!アールさん!」

ルネアは言ってしまう。
アールは一瞬だけ反応を見せると、紙鉄砲を元に戻しつつも言った。

「私は仲間を裏切らない…」

その言葉を聞いてルネアは安心して笑ってしまうと、アールは黙り込む。

(仲間…。)

その言葉が、アールの頭に響いた。

ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+ー+

ルネアは気分が良くてスキップしていると、ある事に気づく。

(これから裏切りをする人が「裏切ります」って言わないよね普通…!
アールさん嘘ついて「裏切らない」って言った可能性がある…。)

ルネアは再び表情が強張ると、近くでツウとシナを発見。
シナはご機嫌に歌っており、ツウはその歌を聞いていた。

「シナさん!」

ルネアは走って二人の元に向かうと、シナはルネアを見る。

「どうしたの?」

「アールさんに虐めを強要されてるんですか!?」

それを聴いたシナは驚くと、一度ツウの顔を見た。
ツウは「あはっ」と言って笑顔になると、シナは怒った顔を見せる。

(ツウが言ったな…!)

「答えてください!シナさん!」

ルネアが言うと、シナは弱ってしまう。
それから少し黙ると答えた。

「私、小さい頃に児童園の奴等と一緒にアールを虐めてたの。」

シナは二人から顔を逸らし、続きを言う。

「児童園が最初にできた時、児童園の孤児は私と、アールと、ルカの三人だけだった。
私は一番年上だからって、二人のお姉ちゃん代わりしてた。
あの時は別に良かったの。遊び相手がいるだけで楽しかったから。

でも、次第に人が増えていって、団体にまとまりがつかなくなってきた頃…孤児達は「アールは不気味」って言い出したの。
あの目よ…私も怖かったの。みんな泣いて嫌がってた。
アールは元から問題児で、色んな子達に迷惑もかけてきた。
だから孤児達からの目が冷たくなって…アールを虐める奴も出てきて…
今のよりもっともっと酷い事…してきたんだ…。」

ルネアは悲しそうな顔を見せると、シナは続ける。

「私、まめきちさんに嫌われてるっぽくてさ。
あんまり相手してくれなくて困ってたの。
憂さ晴らしに、一緒になって虐めたの。」

するとルネアは怒った様子で言う。

「お姉ちゃんならなんで守らなかったんですか!」

その言葉に、シナは頭を抱えた。

「そうよ、私はアールを守らなかった…。毒抜きにアイツを虐めてた!
アイツを庇って変な目で見られるのも嫌だった!
アイツを虐める事で、みんなが一つになれたの…
…その時はね、毒抜きも出来て一石二鳥だって思ってたんだけどね。」

シナはそう言うと、深い溜息を吐いた。
ルネアは衝撃で黙り込んでしまう。
ルネアのわかりえない気持ちがそこにはあった。

「数年前にね、アイツは耐え切れなくて虐めっ子達を逆襲した日があってさ。
みんなボロボロで帰ってきちゃうんだもん…恐ろしいわ。」

シナは鼻で笑っていたが、ルネアはその話に恐怖を覚える。

「あの日からアイツを虐める奴はいなくなった。
私はね、虐められて苦しい思いをしたアイツをどうにかしたくて、何かできないか聞いたのよ。
せめて、罪滅ぼししたくて…。
でもそしたら…


――「今までの事は謝るわ。」

シナの言葉に、アールはシナを見る。
アールの体は不自然にも僅かに震えていた。
何かに怯えたような、恐ろしいものに出会ったかのような表情。
するとアールは言うのだ。

「駄目…虐めがないのは嬉しい…でも…!
痛みがないのは耐えられない…!」

気味が悪く、顔を引きつってしまうシナ。
そんなシナに、アールは手を伸ばす。

「教えて…姉さん…」――


アイツは完全に狂ってたわ。
それも私達の責任だと思って、拒めなかったのよ…!」

そして暫く無言の時間が続くと、シナは恥ずかしく思えてきたのか言った。

「暗い話してごめん。」

そう言うと、さっさとシナは立ち去ってしまう。
ルネアは挨拶をし損ねると、再び考えた。

「アールさん…なんでそんな事を…」

するとツウも言う。

「なんで痛みを欲しがるんだろう、残るのは傷だけなのにね。」



アールは自室にいた。
自室には同室のテナーとラムの姿はなく、一人きり。
アールはふと机の引き出しから鏡を取り出すと、服のファスナーを下げて首を見た。

首には、魔物ペルドに付けられた吸血痕がある。
するとアールは、ペルドの言葉を思い出すのだ。


――「お前の児童園の中に、私の求める力がある。そいつを探し出せ、私に児童園の子供を捧げろ。
…嫌か?抵抗する気か?お前は私には逆らえんのだぞ?」――


するとアールは拳を強く握る。

更に児童園の虐めっ子の声が聞こえてくる。


――「不気味な目しやがって!お前なんか出て行け!」――


アールは苦しそうな表情になると、ラムの陣地を見つめた。

(私は…裏切り者…。
みんなを陥れようとしている…魔物の下僕…ここに居てはいけないのに…!)

アールは写真立ての【右往左往】の文字を見ると、気が遠くなった顔をして思う。

(今…私はどこにいるのだろう。
児童園?それとも…魔物の味方…?)

アールはそう思うと、ふとシナにつけられた傷跡を見る。
そして自ら傷口を指で押し抉った。

(姉さんにつけられた傷…児童園の人につけられた傷…。
…私が……児童園で生きている…唯一の証拠…。)



一方シナの方では。
シナはそこらの草の上で座っていると、近くをルカが通りかかる。

「姉さん!」

ルカはこの上なく嬉しそうな顔で話しかけると、シナは驚く。

「げっ!」

ルカは笑顔でシナに近づいて言った。

「どーしたんー?」

「なんでも。」

するとルカはニコニコで言う。

「ちょ!姉さんの事なら何でもわかるしぃ。なんか隠してっちょ?」

ルカのふざけた様子に、シナは思わず溜息が出てしまった。

「ふざけないで。」

すると、ルカはいきなり真面目な顔をシナの目の前まで近づける。

「本気です。」

シナはルカに負けたのか、どうでもよくなる。

「わかった話すからー!」



数分後、話の一連を聴いたルカは言った。

「アールの事ねぇ…。
俺は関わってないから助言も何もしてられんねぇ…。
あ、そう言えば、ルネアがアールを探ってるって言ってたよ。」

シナはすぐにその話に食いついた。

「探る?なんで?」

「未来、アールが悪い事するかもだってさ~。
俺は詳しい事聞けてないけど、アールの身に何か起こるんじゃないかな。
ルネアと一緒にいたら、アールの事何か進展あるかもよ?」

それを聴いたシナは立ち上がる。

「どしたん?」

ルカが聞くと、シナは歩き出した。

「私もルネアの手伝いをするの。あの子頼りないし。
…アールの事も心配だし…」

それを聴いたルカは笑顔を見せる。

「流石俺達の姉貴!ガンバッバ~!」

シナはルカの剽軽な姿に、つい笑ってしまう。
シナはルカに振り返って手を振った。

「ありがとルカ!お姉ちゃん、弟の為に頑張るよ!」

そう言ってシナは立ち去り、ルカはその後ろ姿を暫く見守っていた。
ルカの表情は和やか。

(頑張って、姉さん。)



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