六音一揮

うてな

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1章 序奏前奏

第9音  一殺多生

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【一殺多生】いっせつたしょう
多くの者を生かすため、
一人を殺すのも止むおえない事。

==============

ルカを部屋に運んだ後、ルネアはラムに呼ばれたので外に出た。
緩やかな草の坂を登っていくと、一本の木のある場所につく。

「座れよ。」

ラムは厳つい表情で言った。
ラムはバスのリーダーなので、声が低く厳つさが増す。

「はい」

ルネアは真面目な顔でラムを見つめると、二人は一斉に座るのだった。
ラムの威厳ある座り方、ルネアはふざけて両手をあげてストンと素早く座る。

「お前…」

ラムの厳つい顔がルネアの方を向くと、

「頼りないと思ったら案外そうでもないんだな。」

と普通の表情に戻っていた。
ルネアは真顔で思う。

(この人意味わからないなぁ。)

「僕だってやれば出来る子です!」

ルネアは内心思いつつも言うと、ラムは軽く笑う。

「うん、でも本当にありがとな。」

「いえいえ!これも未来のラムが頼んだ事ですからね!」

ラムはそれを聞くと、空を見上げた。

「未来の俺…か。」

ルネアも一緒に空を見上げると、一匹の生物が羽を広げて飛んできている。

小柄の生物で、羽をパタパタ。
角の生えたその生き物は、正しく竜。

「イーちゃん!」

ラムはその生物をそう呼んだ。

「え?知ってるの?」

ルネアは聞くと、ラムは頷く。
するとイーちゃんはラムを素通りし、ルネアに飛び込んできた。

「わ!可愛い~!」

イーちゃんは人懐っこく、ルネアに頬ずりする。
するとラムは溜息をついた。

「いいなぁ…この子、男にしか寄らなくて…俺は本当は女だって気づいてるのか来てくれなくて…」

ルネアは苦笑してしまうと、ラムはつぶらな瞳を持ったイーちゃんを見つめた。
ラムは可愛いものが好きなのか、イーちゃんを見て頬をピンクにしている。

「アールには近寄るのに俺には…っ」

ルネアは改めてイーちゃんを見ると、ある事に気づく。

青い体を持ち、角は深い青。
ルネアが一番気になったのは、首から通る赤いラインの模様。
自分の時代で現れた黒い竜も、同じラインがあったのだ。

(あの日の黒い竜と同じ…。まさか成長した姿?)

ルネアはそう考えると、次にラムに話す。

「ねぇラム。僕ね、ルカくんを止めた時に変なビジョンを見たんだ。
ルカくんがあのままノノさんを殺してしまう…そんなビジョンを。」

ラムはそれを聞くと言った。

「それはお前の能力なんじゃねぇのか?」

「でも、今までそんなの発動した事ないよ。」

するとラムは暫く考えると、一度深呼吸をして言う。

「今の時代、軍に属さない強い魔法使いは処刑されちまう。
…でも、お前を信じて言うぜ。」

ルネアはラムの顔を見ると、ラムは言った。

「俺はよ、相手の魔法を知る事が出来るんだ。
量、型、ある程度の距離なら居場所も把握できる。
だからわかるんだ、お前の中に俺の力が宿っている事が。
…多分、俺の魔法力のお陰で見えるようになったんだと思う。」

ルネアは驚いた。

「凄い…!未来のラムは凄い魔法力だったよ!
僕に力を与えたんだ!」

「自分で言うのもなんだけど、俺の魔法力は普通とは格が違うって言われる。
だから普段は男になるついでに魔法力も隠してるんだ。」

「ラムって何者ー?」

ルネアの質問に、ラムは困る。

「いや、わかんないんだ。零の頃からここにいるからさ、親の事もさっぱりで。」

「う~ん…。あ、そのくらい力が僕の中にあるんですか?」

「結構な量だ。帰り用にと与えたのかもしれないが、未来を見るのに使っちゃ次第に切れるな。」

ルネアはその言葉に震えると、ラムは言った。

「なんて顔してんだよ!未来の俺がいなくとも、ここに俺がいるだろ!」

それを聴いたルネアは、再び笑顔が戻る。

「ありがとうございます!ラム!」

ルネアはそう言って握手する。
イーちゃんはルネアの頭に乗ったりして遊んでいた。

「では!僕は調査の方に行ってきます!調べたい人がいるのでー」

ルネアはそう言って立ち去ると、ラムはルネアの後ろ姿を見守っていた。
ご機嫌なルネアを見て、ラムは思わず溜息。

(単純な奴…。本当にアイツ一人で大丈夫なのかな…運命を変えるだなんて。)

ラムはそう思うと、俯く。

(アイツ、全くわかってないな。
未来を変えるってどういう事だか、本当にわかってんのかな。
戦争で東軍と西軍が絡み合う時代、下手に動けば東軍の子孫であるお前は未来生まれないかもしれないのに。
いない人間になるかもしれないのに。)

それは、ルネアを心配しているような表情だった。
しかしラムは首を横に振り、その表情を隠した。

(…でもごめん…ルネア。
お前にこの事は言えない。
俺は、仲間に消えて欲しくないんだ。例えお前がいなくなるとしても…)

ラムは、悔しそうに目を閉じた。

 ~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+

ルネアは児童園の廊下を歩いてると、窓に目がつく。
窓の外には、遠くに塔のような高い建物が建っているのが見えるのだ。

未来で見た、合唱団が歌う場所にある白い塔とは全く別の真っ黒い建物。

(大きい建物…!一体なんだろう…!)

ルネアはそう思っていると、後ろからアールが歩いてくる。

「あれは図書館だ、サグズィの宝。」

「え!」

とルネアは自分から話しかけてきたアールに驚いた。
そして、ルネアはアールの手元にある本を見ると言う。

「それはあの図書館で借りたんですか?」

「うん…。」

アールは本を見つめながら返事をすると、ルネアは目を輝かせた。

「図書館って、あの大きさだと広いですよね!何階まであるのかなぁー!」

ルネアがそう言っていると、急にアールのお腹が鳴る。
ルネアは時が止まったように黙り込み、アールは自分のお腹を見つめた。

「…ご飯…」

アールは切なそうに言うと、ルネアをそのままにして食堂へ向かった。

「あ!待ってくださいよアールさん!無視ですか!?」

ルネアは食堂に向かうと、アールは料理室の窓に顔を出す。
料理室には、お昼ご飯を作っているダニエルがいた。

「あら、またご飯をつまみ食いに来たのね。可愛い~」

(『また』って…いつもなのか…)

ルネアは苦笑すると、アールは大人しくなって言う。

「ご飯…ください…」

なんだかいつもと性格が別の様な…気がしたルネアの背後からツウが現れた。

「アールったらまたダニエルにご飯もらってんだー」

更にルカも現れて言う。

「アールは年下には偉そうになる時があるけど、年上相手になるとすぐ犬になっちゃからな~」

ルネアはルカを見ると驚いた。

「ルカくん!もう起きて平気なの!?」

「もち!ノノ様を手にかけようとしたなんて…信じられんけど!」

ルカはいつもの元気がある様で、ルネアはとっても安心する。
ダニエルはアールにトリュフを渡すと言った。

「も~あなたが来ると思って作っちゃった~食べていいわよ。」

アールはそれを聞くとトリュフを貰い、一つ口にする。
するといつも無表情なアールの表情が変わった。
トリュフが美味しいのか、頬をピンクにして目を丸くするのだ。

「ダニエルの料理は絶品だよ、僕もトリュフ貰おー」

とツウがアールの元に言ってトリュフを一つ取る。

「貰うね!あ~美味し~!ルカ兄と王子も来なよ~」

ルネアは駆け寄って一つ貰って食べると、美味しさで驚いた。

「なにこれ~!王宮のコックさんのより美味しい!とろけちゃう~!」

ダニエルは微笑むと言う。

「どんどん食べなさい。ほら、ルカも来なさいよ。」

しかし、ルカは苦笑しつつも近づこうとしない。

「ルカくん?」

ルネアが言うと、ツウは言った。

「そうだ、ルカ兄はアールが苦手なんだよ。近づけないらしくてさ。」

ルネアは驚くと、ルカは小さく頷いた。
すると、アールはルカに近づく。
ルカは汗だくになって後すざりすると、アールは目の前までやってきた。
ルカは目を閉じてしまうと、アールはルカにトリュフのある皿を差し出す。

「…食べて…いいよ…。」

ルカはそれを聞くと、恐る恐るトリュフを一つ貰う。
それから一口食べると、喜んだ。

「美味てぃん!!流石ダニエルぅ!あ、アールもありがと!!」

「うん…。」

アールは返事をすると、もう一つトリュフを口にする。
ルカは若干アールを怖がってはいたが、温かい光景にルネアは笑顔になっていた。

 ~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

その日の夜中、アールはまた児童園の裏に来ていた。
そこには白髪の女声、吸血鬼ペルドがいた。

「くっ…邪魔が入った。あのハゲめ!」

どうやら、ダニエルの事を言っている。

「あまり露骨な行動を見せますと、相手側に感付かれます。」

アールは落ち着いた様子で言うと、ペルドはむしゃくしゃしているのか言った。

「くっそ!そんなのわかってる!お前、ちょっとこっち来い。」

アールはペルドの前まで来ると、ペルドはアールの両肩を掴んだ。

「お前、いつも首元が隠れた服で邪魔。」

「申し訳ございません。しかし、傷がバレては元も子もございません。」

アールはそう言ったが、

(単純に寒い…毎日外に呼ぶしこの魔物…)

と心の中で小さな怒りの炎を燃やしていた。

「ふぅん…」

とペルドは言うと、アールは大人しく制服のファスナーを下げて首を見せた。
アールの首元には、ペルドに噛み付かれ吸血された痕が残っている。

するとペルドはアールの首に食いつき、吸血を始めた。

血の抜かれる感覚、吸われる音が僅かに聞こえる。
こそばゆい様な音は、アールを不思議な気分にさせた。

暫くすると、ペルドは血を吸うのをやめる。

「お前の血はいつ飲んでも美味いな。」

(…牙で吸ってるのに味なんてわかるのだろうか…。)

アールはふとした疑問を頭で考えるも、答えが出るはずもない。
ペルドは機嫌が良くなってそこらを歩き始めると、アールは噛み付かれた傷を手で軽く押さえる。

(痛い…。)

アールは先程の余韻に浸りながらも、吸われた後のジンと残る痛みを感じていた。



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