うちでのサンタさん

うてな

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うちでのサンタさん5

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そしてクリスマスイブの夜。
結局、太一くんのサンタさんの手紙は僕に届かなかった。
孤児院の先生にも聞いて回ったけど、貰った覚えも処分した覚えもないらしい。
あの後も何度か太一くんと遊んだ日があったのだが、太一くんは『もうサンタさんに送ったよ』としか言わなかった。
一体どんなサンタに手紙を渡したんだ?
そんなモヤモヤを抱えつつ、僕はイブの夜を迎えた。

今日は孤児院の子供達にプレゼントを渡す日。
今年も太一くん以外のプレゼントは全て用意した。
後は渡しに行くだけだ。

渡したら、僕も颯爽と家に帰って寝る。
そして次の日になったら、子供達の反応を伺いに孤児院に向かうのだ。
毎年恒例の、クリスマスケーキを届ける為に。

僕は孤児院の前におり、サンタの格好で向かった。
先生達は僕に駆け寄ると言う。

「今年もよろしくね。」

「ええ。」

僕が答えると、瞳先生は言った。

「毎年ごめんね?子供達のプレゼントを全部用意するの…大変でしょうに。」

(イヤイヤ、僕ニハ能力ガアリマスカラネー!)

思わず心の中でカタコトになってしまうほどだ。
瞳先生のこの台詞は、何度も聞いた。

「僕の好きでやってるんですから、いいんですよ。」

「そう?でも今思えば不思議ね。
孤児院にいる時は最後まで子供達と関わっていなかったちとせくんが、急に関わるようになったなんて。
それにサンタになってよ?驚いたわ。」

僕は目を丸くした。

(そっか。
孤児院にいた時の僕しか知らない瞳先生からしたら、そう見えるか。)

僕は思わず笑みを浮かべた。

「サンタに救われた身ですから。」

僕の言葉に、瞳先生は目を丸くしていた。
瞳先生は僕がいた頃から孤児院にいる先生だ。
きっと僕の、過去のサンタへの手紙を見た事がある先生。
瞳先生は、優しく僕に微笑んでくれた。
その笑みに頷きで僕は答えると、プレゼントを置きに孤児院へと向かった。





次の日の朝。

(寒い…。
雪は降っていないけど、それでも寒いな。
孤児院の子供達も寝てる子多いだろうし、もう少し寝ようかな…。)

すると、部屋の扉が開いてケン兄さんが顔を出してきた。
しかも、サンタの格好をしてだ。

「ちとせ、メリークリスマス。」

ケン兄さんの棒声に、思わず飛び起きてしまった。
なぜケン兄さんがサンタの格好を!?

「ケン兄さん、一体何事ですか!」

するとケン兄さんは部屋に入ってきて、真っ白な袋から一枚の紙を僕に渡した。

「これ、クリスマスプレゼント。」

「え?」

僕はその二つに折りたたまれた紙を開くと、そこにはカラフルな絵と文が綴られていた。

『メリークリスマス!
 ちとせお兄さん、今日はこじいんまできてください。
 ぼくは、ちとせお兄さんともっとなかよくなりたいです。

  太一より』

その手紙に、僕は呆然とした。

嬉しい…!
そんな感情が僕の中を過ぎった。

更にケン兄さんは一通の手紙を出すと、僕に渡した。

「瞳先生からこれを預かってね。」

僕はその手紙を見た。
それは太一くんが、サンタへ宛てた手紙だった。

『メリークリスマス
 サンタさん、ぼくはこじいんによくくる
 ちとせお兄さんとお友だちになりたいです。
 いっしょにはいってるてがみを、ちとせお兄さんにわたしてください。
 おねがいします。』

僕の中で感じ始めていた嬉しさが、更に上昇した。
僕は高校生にしちゃ子供っぽいくらい、嬉しくてベッドの上で立ち上がった。

「やったよケン兄さん!初めての友達だ!」

「ちとせは学校でも孤高だからな、お友達ができて良かった良かった。」

だって学校に能力バレたくないし…バレたら利用される未来しか浮かばないし…。
するとケン兄さんは言った。

「それとちとせ、父上に手紙を送っただろ?
父上は今日までに帰国が間に合わないから、代わりに俺が手配しといたよ。
クリスマスプレゼント。」

僕はそれを聞いて顔が真っ青に。

(手配…?
確かに僕は、父さんにお願いの手紙を出した。
でもまだそれは確定ではないし…むしろ…)

するとケン兄さんは言った。

「朝ご飯を食べて、ケーキを持って孤児院へ行ってらっしゃい。
太一くんがちとせの登場を心待ちにしてる。」

(そうだな…。
急いで行ってあげないと。)



僕は孤児院にやってきた。
片手にケーキの入った大きな箱を持って。
孤児院の敷地外からでも、子供達の喜ぶ声が聞こえる。

(今年もみんな喜んでくれているようで良かった…!)

僕は染み染みと思った。
いやしかし、そんな場合ではない。

(さて、太一くんの元へ…)

と思ったが、太一くんが門の前に立っていた。

(僕を待っていてくれているのか…!?
こんな真冬で寒いのに…?申し訳ない…!)

「太一くん!」

僕が駆け寄ると、太一くんは笑顔を向けてくれた。

「ちとせお兄さん!」

僕は太一くんの目線までしゃがむ。

「メリークリスマス。
お手紙ありがとう、とっても嬉しいよ。」

それを聞き、太一くんは目を光らせて喜んだ。

「お手紙届いた!?やった!今年はサンタさんがお願いを聞いてくれた!」

僕も思わず喜んでしまう。
良かった。
今年は太一くん、いい笑顔だ。
太一くんは僕に抱きつくので、僕は太一くんを抱き抱えた。
右手にケーキ、左腕に男の子一人の重さは尋常ではない。

(重い…でもここは我慢だ…!
今こそ太一くんのクリスマスプレゼントを…!)

僕は重みに耐えながら言う。

「太一くん、お兄さんとお友達になろっか。」

すると笑っていた太一くんは、急に大人しい顔になる。

(あれ…?何か変な事言ったかな…?)

太一くんは上着のポケットに手をいれ、僕に言う。

「でも、でもこれ…」

そう言って太一くんがポケットから出したのは…

 僕が父さんに送った手紙!!?!?

なぜ太一くんが持ってるの!?
恥ずかしい!あんな内容を見られただなんて!

太一くんは手紙を出しながら言う。

「全部は読めなかったけど、年長さんに読んでもらったよ。」

『サンタさんへ
 今年もそんな時期がやってまいりました。
 早速ですがサンタさん、僕への今年のクリスマスプレゼントはもう決めましたか?
 僕は孤児院のある男の子を弟にしたくなりました。
 お願いですサンタさん、養子をもう一人増やしていただけないでしょうか。
 ちなみにまだ本人の確認は取れていないので、サンタさんがOKを出したのなら本人に聞いてみます。
   ちとせ』

はずい…!
こんな半ばふざけた内容の手紙を、太一くんだけでなく年長さんにも読まれた…!

すると太一くんは言う。

「ちとせお兄さんの弟に僕がなったら、僕は友達になれないでしょ?」

確かに…!
でもまさか太一くんからそんな手紙が来るとは思わないじゃない…?

「た、確かにね。
ど、どうしよっか。
ああ、僕の手紙を取り下げればいいんだね。」

そう言って僕は太一くんを下ろし、
手紙を奪おうとしたが、太一くんは強く持っていて離してくれない。

(お願い恥ずかしいから…!)

太一くんは手紙を後ろに隠してしまうと、少し考えてから言った。

「お父さん以外の家族ってよくわからないから…ちょっと考えたいな。」

!?
考えてくれるの…?

僕が呆然としているのを見て、太一くんは何か勘違いしたのか慌てた様子で言う。

「僕はちとせお兄さんの事、大好きだよ!
でも、でもまだちょっと…」

太一くんがそう言うので、僕は思わず笑ってしまう。
僕は太一くんの頭を撫でて言った。

「ありがとう、太一くん。」

すると太一くんは嬉しそうに喜んでくれた。
太一くんは僕の手を握ってくれる。

「ちとせお兄さん、中でクリスマスパーティーやってるから一緒に行こう!」

「うん。」

僕はその手を握り返すと、二人で孤児院へ向かった。



メリークリスマス。

僕は今日この日、またサンタの世話になった。
 自分の力では手に入らない幸せを、サンタのお陰で再び見る事ができたのだった。
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