うちでのサンタさん

うてな

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うちでのサンタさん2

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過去の僕は、金と人間が嫌いだった。
養子になる前、孤児院に入る前、まだ親戚の家に預けられていた時の事。
僕は厄介者の様に親戚に扱われていた。
それもその筈、親戚に全く交流のなかった両親の子供だからだった。

しかし、ある時を境にその扱いは変わっていった。
その扱いが変わり始めたのは、僕が能力で物を作れると親戚が知った時だった。

親戚は僕の力を使って、とにかく金を僕に作らせた。
日に日に金に溺れていく親戚を見て、僕は変に思った。
僕は親戚に宝の様に重宝された。

だけど僕は、家族として扱われた事はなかった。
宝の様に扱われても、僕は昔話で出てくる【打出の小槌】のような物だ。
そう、僕は物。
それ以外の何でもなかった。

僕は汚い人間を見て育った為か、人間が大嫌いだった。
僕の役割を象徴させる金も、僕が大嫌いな物だった。

僕は何もかもが嫌になってきた頃、親戚に逆らうようになった。
富ではなく害を与え、やがて孤児院に無理矢理送られてしまった。
孤児院にいた当初、僕には何もなかった。

悲しい感情も、苦しい感情も。
ただ虚しさだけがあって、人と関わるのが嫌だった。
人は僕の力を知れば、欲を見せたから。



…そんな時期の僕に、太一くんの今の表情はよく似ていた。
だからか、僕は太一くんを見ていて他人事とは思えない。

(どうにかしてあげたい…。)

僕はそんな気持ちが先走って、太一くんに話しかけた。

「こんにちは太一くん、僕の事を覚えてる?」

太一くんは僕を見た。

(どうしよう…。何を考えているのか、全くわからない。)

「知らない。」

ただそう言われた。
僕は思わず苦笑すると、話を続けた。

「毎年クリスマスの時期になると、この孤児院にクリスマスケーキを持ってくるお兄さんだよ。
僕はちとせ、よろしくね。」

それでも太一くんは黙っていた。
僕は思わず難しい顔をしてしまう。

(かつての僕に似ているのは確かなんだけど、それでもどう接すればいいかわからないな…。
あの時の僕なら、どう接すれば心を開いたんだろう。
と言うか、養子にされた当初も心を閉じてたのに僕…。)

どうする方法も思いつかず、頭を抱えてしまう。
すると太一くんは言った。

「先生達も同じ。
僕が一人でいるから、話しかけてくる。」

「そうじゃないよ!」

僕が思わず言うと、思わず窓から身を乗り出した。
太一くんは僕を見るので、僕は言った。

「去年のクリスマス、サンタさんからプレゼント貰ってないんでしょ!?
なんだか心配になっちゃって!」

(って!僕は何を言ってるんだ…!)

すると太一くんは驚いた顔をしてから、それから俯いた。
太一くんはボソボソと話すように言い始めた。

「去年はプレゼント貰えなかった、僕がいい子じゃないから。
それともサンタさん、僕の事嫌いなのかな。」

「そんな事!」

僕がそこまで言うと、思わず口を自分で塞いだ。
自分がサンタみたいな口振りは、絶対にしてはいけない事。
サンタが子供の夢を壊しちゃダメだ。
僕は急いで言い訳をした。

「サンタさんはね、太一くんにきっと素敵なプレゼントを渡したくて色々考えてるんだよ!」

そう言われ、太一くんは俯いた。
太一くんは呟く。

「他のプレゼントなんて要らない…。
ただ、お父さんだけ帰ってこればいいだけなのに…。」

僕は思わず黙り込んだ。
幼い子供が、どれほどの悲しみを背負ってこのお願いをしているのだろう。と。

生憎僕の能力では、人間を作る事はできない。
失った人間を、生き返らせる事だって当然できない。

「不甲斐ないな…」

僕は思わず呟いた。
太一くんは僕を見上げていた。

「たった一人の子供の笑顔も、作れないサンタなんて…。」

「サンタさん、今年は来るかな。
いい子にしてたから、来るといいけど。」

太一くんの言葉を聞くと、僕は答えに迷った。
太一くんは僕からの答えなど必要ないのか、その場を立ち去ろうとした。
僕は思わず太一くんの肩に触れ、太一くんを止めた。

「何、ちとせお兄さん。」

太一くんが僕に振り向いた。
この虚ろな瞳を見ていると、どうも放ってはおけない。

「僕もサンタにお願いしてみるよ。」

そう言われ、目を少し見開いた太一くん。
やっぱり太一くんも、サンタを完全に信じていない訳じゃないんだね。
僕は太一くんの手を握り、言葉を続けた。

「僕は、サンタさんとお話した事があるんだ。」

それに太一くんが反応を見せるので、僕は続けた。

「サンタさんが大切にしているもの、それは太一くんの笑顔と幸福なんだって。
サンタさんはきっと、太一くんが笑顔になれるような物を探し続けているんだと思う。」

太一はそれに目を丸くしながら呟いた。

「サンタさん…お父さんを探してくれてる?」

それに僕は、深く目を閉じた。

(『はい』と言う訳にはいかない。
だけど、これだけは言っておこう。)

「大丈夫、サンタさんは太一くんのプレゼントを忘れてないよ。」

「本当…?」

太一くんはそう言った。
少し希望を得たような、そんな表情だった。
僕は強く頷き、暫くの間は太一くんと一緒に過ごした。





その日の夜。
僕は既に帰宅しており、共に帰宅していたケン兄さんと夕食の時間を過ごしていた。
僕は太一くんの事を考えていた。

(太一くんへのプレゼントはどうしよう。
亡くなったお父さんに匹敵する何か…うぅ、思いつかない…!)

すると、僕をジッと見つめていたケン兄さんは言った。

「どうしたのちとせ。」

僕は我に戻る。

(ケン兄さんには迷惑かけたくないけど、ちょっと相談してみようかな。)

「ケン兄さん、人間に勝るクリスマスプレゼントって何か知らない?」

そう言ったところで、僕は自分が変な事を言っている事に気づく。
僕は思わず頭を抱えた。

(何言ってんだ…!完全に意味わからない人じゃん…!)

しかしケン兄さんは動じていない様子だった。

「クリスマスプレゼントに人間をプレゼントするの?」

「いや!違います!」

「じゃあ一体何を?」

ケン兄さんに言われたので、僕は答えた。

「実は孤児院で、亡くなった父親をプレゼントで欲しいって言っている子がいるんだ。
遺骨を渡す訳にもいかないし、去年もプレゼントを送れなかった子だから…今年こそはって思って。」

僕の言葉に、ケン兄さんは考える仕草をした。

「人間に勝るプレゼントなんていくらでもある。
その子が価値さえ見出せば、どんな物でも人間に勝っていると思えるだろう?」

そう言われ、僕は溜息。

「だからー、そういうのが見つかったら苦労しないんだって!
話聞いてましたかケン兄さん、その子供は自分の肉親を探しているんです。」

「俺にもそんな時期があったなぁ。」

「はい~?」

僕は呆れ顔を浮かべていると、ケン兄さんは至って真面目に話し始める。
と言うか、ケン兄さんは表情が堅いから常に真面目に見えるんだけども。

「俺が養子である事は知ってるだろう。
父上の養子となった当初、本当の両親が気になって会いたいとごねた事があってね。」

「ごねるケン兄さんなんて想像もつかないですけど。」

「だけど、その内どうでも良くなってしまってね。」

「なぜ!?」

あまりに僕が真剣に聞いている為か、ケン兄さんは目を丸くした。
それからケン兄さんは落ち着いた様子になって言う。

「新しい生活に夢中になっていたら、そうごねていた事も忘れていたんだ。
ちとせはどうだった?」

「僕!?」

ケン兄さんが言いたい事が、イマイチわからなかった。
ケン兄さんは更に考えた素振りを見せると、次に話す。

「ちとせがまだ孤児院にいた頃、ちとせがサンタさんにしたお願い事を覚えてる?」

「はい?僕は別にサンタに願い事なんてしてないんですけど。
欲しい物があったなら、僕の能力で簡単に手に入るし。」

それを聞き、ケン兄さんは笑った。
何が可笑しいと思っているんだろう。

「自分の口で言った事、忘れた?」

僕は心当たりがなくてボーッとしていたが、僕は思い出した。
僕は一度だけ、サンタに願い事をした事があった。
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