うちでのサンタさん

うてな

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うちでのサンタさん1

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十二月の頭。
都会にしては寒い日が続いており、遂には雪が降り始めた。

寒くてベッドを出るのが億劫になる。
部屋の窓から、白く降る雪が見えた。
その白さが、更に外の寒さを想像させる。

僕はうつ伏せになると、部屋の壁を見上げた。
壁には写真を何枚か貼っている。
十数人程度の幼い子供達の集合写真。
この子供達は、僕が以前いた孤児院の子供達だ。

(今年もみんな、いい子にしてるかな。)

僕は孤児だった。
両親はおらず、親戚の家にずっといた。
だけど親戚の家にも馴染めず、遂には孤児院に送られたのだ。

そして数年前、僕は財ある家庭に引き取られた。
豪華な部屋。
多少は僕好みに質素にしているが、部屋の広さは驚くものだった。
不便な思いもしていない。

すると、部屋の扉が急に開いた。

「【ちとせ】、朝だよ。」

急な出来事に、僕は驚いて跳ね上がって起きた。
扉から顔を出していたのは、兄である【ケン】兄さん。
とは言え、ケン兄さんも僕も養子に貰われた身。
全く血の繋がりはない。

僕は思わず溜息を吐き、頭を掻いた。

「ケン兄さん、急に驚かせないで…。」

「昨日孤児院の子供達が、サンタに手紙を書いたんだ。
ちとせ、取りに行ってきなさい。」

「今じゃなくてもいいじゃないすか。
子供達の欲しいプレゼントを確認するのは、直前でも全然問題ないですし。」

「そうかな?」

ケン兄さんの口振りに、僕は思わず目を丸くした。
ケン兄さんは部屋に入ってくると、僕の前に手のひらを出して言う。

「リンゴ出して。」

そう言われ、僕は思わず眉を潜めた。

(ケン兄さんはいつも、下らない事で僕の【能力】を使おうとするなぁ。)

僕はケン兄さんの手に自身の手をかざし、それから一気に手を離す。
するとケン兄さんの手のひらに、一個のリンゴが現れた。
ケン兄さんはリンゴを見ると目を丸くし、それから微笑んだ。

「これ、ちとせにあげる。」

そう言われ、僕は思わず言った。

「僕に渡すんかい!」

僕は渋々リンゴを受け取り、リンゴを齧った。

「美味しい。」

僕が言うと、ケン兄さんは言う。

「ちとせは自分の身長以下の大きさの物なら、何でも作り出せる。
この能力で毎年ちとせは、クリスマスプレゼントを孤児院の子供達に送っている。」

「まあ完璧に作り出すなら、物をしっかり知らないといけないけど。
それを今頃説明して何がしたいんです?」

「去年の事を忘れた?
孤児院の子供がちとせよりも大きい人形を欲しがったから、直前になって買い物をしたのを忘れたか?
あの時俺は大変だったんだからな。」

「だから早めに確認しに行けと。」

「勿論。」

…そうだな。
去年みたくケン兄さんに迷惑かけたくないし、そうしよう。

「わかりました。」

僕は服に着替えると、ケン兄さんは部屋の扉の前に立って言った。

「子供達のプレゼントで作れない物があったら、早めに教えてくれ。
買っておいてやるから。」

「いえ、でも…」

「高校生なんだから、気にするな。」

ケン兄さんはそう言うと、扉を開いてから僕に向かって笑みを向けた。
優しい笑みだった。

「それにちとせは家族だろ。
お兄さんに沢山甘えていいんだぞ。」

そう言ってケン兄さんは、部屋を出てしまった。
僕はケン兄さんの背中を見ていたが、やがて窓の外の雪を見た。

(僕が養子になってから、もう三年か。
父さんやケン兄さんには良くしてもらっているけど、未だに口調が余所余所しいかも。)

僕はそう思いつつ、思わず笑んでしまう。
僕は着替えを終えると、「よし!」と言った。





僕は孤児院にやってきた。
孤児院の庭は、相変わらず子供達で賑わっていた。
幼い子供から小学校高学年くらいの子供達まで、みんな楽しそうにしていた。
今日は休日だから、みんな揃ってるんだろうな。
子供達は、僕を見つけると笑顔で手を振ってくれた。

「ちとせ~!来てくれたんだ!」

僕はそれに返事をした。

「おはよう恭弥、久々に先生達とお話がしたくて。」

すると恭弥は不貞腐れた顔を見せた。

「はぁ~?先生だけかよ!俺達と遊びに来たんじゃないのかよ!」

「後でな~!」

僕は軽く流して、外で子供達の様子を見ている【瞳】先生の方へ向かう。

「瞳先生、アレ取りに来ました。」

そう言われると、瞳先生は驚いた顔を見せた。
そりゃそうだ。
いつもは月の後半に取りに行くし。

「わ、わかったわ ちとせくん。こっちよ。」

瞳先生はそう言って、慌てた様子で案内してくれた。
孤児院の中へ入っていくと、僕は微妙な違和感を感じた。

(なんだろう…。瞳先生、すっごい焦ってる様な…。)

そして先生達の休憩室に入ると、他の先生達がいた。
先生達は子供達がサンタに書いたであろう、手紙の中身を一つ一つ確認していた。

「先生!何してるんですか!」

僕が思わず聞くと、先生は僕が来ていた事に驚いていた。
瞳先生は言う。

「ちとせくんに渡す前に、子供達が無理なお願いをしていないか見ていたの。」

「そんな事をしなくても…!」

僕は言うが、先生達は浮かない表情をし続けていた。

「でも…」

瞳先生がそこまで言うと、別の先生が言った。

「ああ、やっぱり今年も書いてたわ。」

その先生は一通の手紙を読んでおり、それを聞くと瞳先生も困った顔をした。
困った顔と言えば語弊があるな。
なんだか悲しい表情だった。

「僕に見せてもらってもいいですか?」

僕が聞くと、瞳先生は少し考えてから言った。

「いいわよ。」

僕は手紙を貰い、中身を確認した。

『サンタさん、今年こそ僕と父さんを会わせてください。
  太一より』

思わず眉を潜めた。

(父親に捨てられてしまった子なのかな…。)

すると瞳先生は言う。

「太一くんのご両親、既に亡くなっているのよ。
先に母親が逝ってしまって、ずっと父親と暮らしていたそうなの。」

更に他の先生も言った。

「太一くん、相当ショックで信じられないのか、去年も同じ事を書いていたの。
ちとせくんに見せるべきでもないし…。」

僕は呆然としていた。

(太一くん。
確か去年入ってきたばかりの子だったはず…。
孤児院の中でも特に孤立していて、極力他人とは会話しない…。)

僕は他人事と思えず、思わず休憩室を出た。
瞳先生は僕を呼び止めようとしていたが、諦めた。

(太一くん、さっき外にはいなかった。
孤児院のどこかにいるはず。)

僕が廊下を走っていると、廊下の窓を見ると太一くんを発見した。
太一くんは孤児院の裏で、一人ひっそりと浅く積もった雪で雪だるまを作っていた。

「太一くん!」

僕が呼ぶと、太一くんはこちらに振り向いた。
まだ小学校に入って間もない太一くん。
太一くんは虚ろな瞳で、まるで正気のない表情をしていた。



…その姿はまるで、過去の僕を見ているようだった。
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