植物人間の子

うてな

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第5章 大絶滅―グレートダイイング―

058 新しい子 前半

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数ヵ月後、サチは一人の赤子を抱いていた。

「行ってきます!」

サチがそう言うと、サチの両親らしき人が笑顔で言う。

「「いってらっしゃーい!」」

そしてサチはマンションから外に出かけると、駐車場にミィシェルがいた。
ミィシェルは随分大きくなっていて、サチの背も以前は抜かせなかったのに今は抜いている。

「おはようミィシェル君、早いね。」

サチが言うと、ミィシェルは笑顔。

「ミンスと今日も公園でお散歩するんです?」

サチは微笑むと、今抱いている赤子をミィシェルに見せた。
青い髪に紫色の瞳。
そう、この赤子はミンスから出来た種。
つい数週間前に赤子として成長したために、サチが主に面倒を見ている。

「ミンス、オハです。」

ミィシェルが微笑むと、サチが苦笑。

「ミィシェル君、この子にはちゃんと名前あるでしょ。」

それを聞くと、ミィシェルは困った顔をしてから笑顔を見せた。

「『未来(ミク)』!ミンスとクロマ兄様の名前を取った未来!」

ミィシェルが言うので、サチは「そうそう。」と頷いた。
ミィシェルは未来を見て言った。

「ミィシェル、今日も一日学校頑張ります!いってきます!」

そう言って走り出す。
サチは微笑んで言った。

「いってらっしゃい!」



ある立派な一軒家。
その玄関から守が出てくる。

「おーーい数男もお姉ちゃんも遅れるよ~ん!」

守が言うと、セーラー服を着たサイ子そっくりの女子が出てきた。
彼女は守の双子の姉である『香奈子(カナコ)』。

「守、随分元気になったわね。昔はとろかったのに。」

香奈子が言うと、守は言った。

「ガビーーン!今頃気づいたんかい!この~!」

玄関前では、妻が数男にネクタイを結んであげていた。
そのネクタイは、守から貰ったネクタイだ。
数男は苦笑して言う。

「いやいや、できないなら自分で結ぶよ。」

「いいえ!もう少し…!」

と妻は頑張っていた。
妻がネクタイに夢中になっているので、数男は顔を逸らしてイラついた表情を浮かべる。

(仕事に遅れるっての!)

数男が思うと、妻は笑顔。

「できた!行ってらっしゃい!数男さん!」

(やっとか。)

数男はそう思いつつも言った。

「行ってきます。」

「数男遅いぞ!部活に遅れる~~~!」

と守は全力疾走。
香奈子は余裕なのか歩いていると、近くに小さい子供を連れた大人が通りかかる。
そして香奈子は、つい子供を見てしまう。
それを見て嫌な予感がした数男は、二人の頭を殴ってしまう。

「いたぁっ!!」

守が言うが、香奈子はそのまま子供を見つめていた。

「なんで子供を見る。」

数男が言うと、香奈子は言った。

「美味しいからだよ。」

すると数男は溜息をついた。

「お前等、やっぱり第二故郷病院に帰れ。」

数男に言われ、守は怒った。

「僕もかい!」

数男は素っ気ない素振りを見せるので、守は膨れる。
すると守は、数男に軽く突進。
数男が守に気づくので、守は言う。

「数男、おんぶしろ。」

「自分で歩け。」

突き放すように言われたので、守は頬を膨らました。

「今までさせなかった分甘えさせろーー!!」

守は思い切って我儘を言うと、急に理性を取り戻して黙り込む。
守は恥ずかしそうに顔を赤くした。

「すまねぇな。」

守はそう言って立ち去ろうとすると、数男はニヤリと笑って「フン」と鼻で笑う。
すると数男は片腕で守を担ぐので、守は驚いた。
そしてもう片腕で香奈子を担いで小走りした。

「おおおおい!!数男力持ちぃ!!」

守が歓声を上げると、数男は言った。

「お前等双子は未熟児すぎて軽すぎるくらいだな…!」

とは言え、少しキツそうだが。
香奈子は遠くなる子供を見て呟いた。

「あーあ、誘拐してやろうかと思ったのに。」

すると数男は無表情になる。

「やっぱ二人とも第二故郷病院行きだな。」

「いやだから僕も混ぜんなって!」

と、守は最後までツッコミを欠かさなかった。



第二故郷病院。
ここでは久坂が暇そうに会議室で寝っ転がっていた。
ちなみに会議室は既に修理されていて、窓も新しくなっていた。
久坂は頭を掻きながら呟く。

「守とアンジェル以外の植物人間は人間に戻れて…
サウザとミィシェルと奈江島にある力は未だ健在…か。なんでだろ。」

そこに綺瑠が来た。

「何やってんの久坂、僕が来るといつもそれだけど…
まさか毎日そこで寝てるの?」

久坂は寝返りを打って綺瑠の方を見る。

「数男も植物人間じゃなくなったし、暇なんだよな。」

それを聞いた綺瑠は微笑む。

「じゃあさ、久々に親友に会ってみれば?」

「親友~?」

久坂が聞くと、綺瑠は微笑んだまま言った。

「五島さんの事に決まってるじゃん!」

すると久坂は起き上がり、会議室の出口に向かって歩く。

「良い案だな。たまには仕事サボるか~」

綺瑠は苦笑しつつも、その後を追いかけた。
すると久坂は言う。

「そう言えば、来週ロサンゼルスの祖父の所に行くんだって?」

「うん、従兄弟達と一緒にね。父さんの訃報と、後継の挨拶をしてないから。
あ、ちなみに今日は【彼女全力謝罪】の日だよ。」

そう言って綺瑠はニッコリ。
久坂は微妙な反応。

「まだ終わってなかったのかよ…。」

それを聞いた綺瑠は眉を困らせて笑う。

「終わるわけないよ。付き合ってた子が二十八人かと思ってたら、実は三十一人だったなんて。
あーあー、なんで僕は彼女達に酷い事しちゃったのかなー?覚えてない僕が謝罪に行くのもなんだか気が晴れないし。」

「うん、頑張れ。
文句はもう片方が出てきた時に俺から言っとくわ。」

「はーい。」

そう言って綺瑠は、久坂の隣を歩いて笑顔に。

「それでさ、全員に謝罪が終わったら、五班の研究で人間じゃなくなった子達の様子見に行こうと思うんだ。」

「そんで?」

「人間に戻る方法を探し出す!
…ってのは最終目標で、相手の様子を見ながらコツコツ結果を出していきたいな。」

それを聞いた久坂は目を剥いた。
綺瑠はそれを見て目を丸くすると、久坂は言う。

「お前が人の為に何かしだすなんて…地球に隕石でもおちてくるんじゃねぇか?」

綺瑠は思わず苦笑。

「落ちてきたばっかじゃん?いいじゃん、悪いの?」

「まあてめぇの事だから、何か思惑でもあるんだろうな。」

「ないよ。」

綺瑠が言うので、久坂は思わず綺瑠を見た。
綺瑠は微笑むと言う。

「あれは僕の責任でもあるし。
二番に……誠治ならこうするのかなーって、思ったんだ。」

その笑みを見ると、久坂は軽く微笑みながらも鼻で笑った。
久坂は綺瑠の前を歩くと言う。

「一番は何?」

「え?それは秘密かなー。」

「てめぇも秘密なんて言えるようになったんだなぁ。つーかロボット作りは?」

「同時進行かな?父さんがやってたみたいに。」

「お前は彼女の事で警察の世話になってろ。」

「賠償金や懲役なんかじゃ償いきれないね。研究所の犠牲者を救うまではしないと。」

綺瑠がそう言うので、久坂は思わず鼻で笑った。

「数男は今から仕事だし、彼女に謝罪するの、今からオレもついてくわ。」

それを聞くと、綺瑠は目を丸くして喜ぶ。

「ホント!?一緒に土下座の練習しよ?」

「ハァ?てめぇだけがやれ。」

「え~!久坂もやろうよ~!」

そう言って二人は、第二故郷病院を出た。
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