植物人間の子

うてな

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第4章 侵食―エローション―

049 テオドール、愛を囁く 前半

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サウザはみんなが入っていった建物の中にいた。
本当はテオドールの作戦通り外で待機していたが、外に出て行ったミンスを見て入ったのだ。
クロマ達のいる部屋の前についたサウザは、中の話し声を聞いて驚いた。

「私達を焼却する気ですか?…確かに安全策ですね。」

誠治の声が聞こえたからだ。

(まさかみんな捕まっちゃってるんじゃ…!)

サウザが焦り顔をすると、クロマが喋る。

「植物人間さえ死ねば子である貴様等の力も消えるからな。不死身の貴様も終わりだ。」

誠治が悔しそうな顔をクロマに向ける。
するとテオドールは急にしゃがんで言う。

「ここ焼却炉近いから熱いよな。なんか頭痛がしてきた、ちょっと休ませて。」

「勝手にしろ。」

ちなみにテオドールは、明らかに今の状況を不味いと思っている顔だった。
そこで、サウザは部屋の中に入った。

「クロマ!」

サウザは言い、すぐ目に入ったミィシェルを見て力を放つ。
ミィシェルに花びらが集まってきて、ミィシェルが慌てるとそのまま花びらに包まれて蕾になってしまう。
クロマはそれを見て冷静にも言う。

「ついに来たか。貴様も来ると思っていたぞ。」

「なんだって!」

サウザが言うと、クロマはプラズマを飛ばすがサウザが打ち消す。

「クロマ!暴力はダメだよ!」

「黙れ殺す。」

クロマは冷酷ながらもそういった。
テオドールは眉を潜めて言う。

「クロマ!サウザに手を出すな!」

クロマはお構いなしに攻撃を仕掛ける。

「こちらに勝負を挑んできた以上、殺さない事はない。」

「全部消しちゃうもんね!」

サウザが構えると、クロマは目が潰れそうなくらい眩しい閃光を放ち、プラズマをサウザに飛ばす。
勿論サウザは力で打ち消す。

「いくら大きくたって一緒だよ!諦めてクロマ!」

思わずクロマは舌打ちをした。
それからクロマは近くに座り込んでいたテオドールを乱暴に引っ張る。
テオドールの両手を拘束し、彼の頭に人差し指を添える。
テオドールは驚いてポカンとした。

「ミィシェルを解放し、力を抑えろ。さもなくば貴様の父を消す。」

クロマはテオドールを人質に取り出した。
テオドールは流石に驚いて「なっ!」と声を上げてしまう。
サウザは驚くと躊躇ってしまう。

「クロマ…!
クロマは!父上を!自分の父上を殺せるって言うのかい!?」

「ただの邪魔者だからな、都合がいい。」

「酷い…」

サウザは思わず呟いてしまう。

「酷い!クロマ!いつ人を殺すだなんて酷い事を覚えたんだ!」

サウザが涙すると、数男は言った。

「元から。何十人殺してきたと思ってるんだ。」

それを聴くとサウザは顔を真っ青にした。

「嘘…!クロマ、嘘だよね?クロマ誰も殺してないよね?」

しかしクロマは平然と言う。

「なぜ殺していないと言う?害虫を殺して何が悪い。」

サウザはポカンとすると、誠治は心配そうにサウザを見つめた。

(流石の王子も…これには憤怒してしまうか…?)

守も言った。

「院長を殺して、綺瑠さんに大怪我負わせたのもコイツだよ!
僕だって殺されそうになった事あるんだから…!
コイツは罪のない人間を何人も殺してきてる殺人鬼だよ!」

大きな声で言うので、サウザは口を閉じてしまう。
それでもクロマは冷酷に言う。

「早くミィシェルを解放しろ。」

するとサウザは真面目な顔をした。

「クロマ…!お兄ちゃん、流石にそれだけは許しておけないよ…!
クロマが沢山反省するまで、お兄ちゃん怒るよ!」

クロマは平気そうな顔をしていて、テオドールは笑う。

「威厳ゼロだもんサウザは~」

「貴様、早く解放しないとテオドールを殺す。」

指先にプラズマを纏うが、テオドールはクロマに言う。

「クロマ、俺のポシェット見てみ。」

「こんな時になんだ。」

クロマが開いたポシェットを見ると、そこには幾つかみかんが入っていた。
サウザはみかんに集中し始めるクロマを見て言った。

「聴いてるのクロマ!」

サウザは怖くない怒りで叱るが、クロマは手にみかんを取る。

「暇だからな。貴様を拘束した後にでも食べるか。」

クロマが余裕を見せてきたので、サウザはクロマを睨んだ。
すると、なんとみかんが破裂する。
それを見たテオドールは思わず「ぶっ」と笑ってしまう。
クロマは呆然と消えたみかんを持っていた手を見つめた。

(まさか、ミンスと同じスキルを…!?)

クロマがシリアスな顔で思っていると、サウザは言った。

「クロマ、お兄ちゃんの話をちゃんと聞いて。」

それらを見ていて、数男はイライラした様子をみせていた。

「あんな隙だらけなのになぜ殺さないんだあの愚図王は…!」

思わず誠治は苦笑。

「う~ん、彼の優しさだろうか。」

「クロマも相手があの王様だから気を抜いているのかもね…」

とサチは言う。
するとアンジェルも呆れたのか言った。

「誰よりも緊張感を持つべきでしょ。」

「あら、家族団らんですか?」

サウザの背後からミンスの声が聞こえる。
サウザは驚いて背後を見ると、背後にいたミンスは植物でサウザを拘束する。

「帰ってきて正解でした。全て貴方の作戦ですね?テオドール。」

ミンスが言うので、テオドールはニヤけてしまう。

「何で俺?」

するとミンスは一枚の紙を出す。
それはテオドールが病院にいる一同に宛てた手紙。

「な、なぜそれを!」

テオドールが言うべきなのだが数男が言っている。

「落ちてましたよ?帰り道に。」

ミンスが微笑むので、数男は悔しがる。

「落としたのか…」

テオドールは笑ってしまった。

「あらら~。怒った?」

ミンスはそれに対し、クスクス笑う。

「貴方は最初からクロマを殺す気で…」

そこまで言うと、ミンスの声色が暗くなった。

「昔から、一切目的が変わっていませんね。」

テオドールは動じずに答えた。

「そうだな。『地球を守りたい』は、『クロマに死んでもらいたい』って意味に直結する。避けては通れない道ってやつ。」

ミンスは穏やかな表情を浮かべて言う。

「だから人間が邪魔なのですよ、テオドール。中途半端な知能を持った人間が。」

ここで、ずっと大人しくしていたシュンは赤子に合図を送っていた。
なんと赤子だけは拘束から免れていて、今からミンスの元に向かわせる様だ。
赤子はミンスの周囲に生える植物が気になって、ミンスに向かってハイハイをし始める。
テオドールはそれに逸早く気づいて言う。

「クロマ、まだみかんあるぞ。ミンスも、三人で食べて話し合わないか?」

するとクロマはミンスの方から目を逸らし、ポシェットのみかんを見た。
しかしミンスは気を抜かない。

「時間稼ぎのおつもりですか?」

「なーんで?時間稼ぎしたら何か変わる?もう降参さ!」

テオドールがニコニコしていると、ミンスはみかんばかりに夢中になっているクロマが気になって言う。

「クロマ、みかんばかりに気を取ら…!」

と言ったところで、赤子がミンスの足に捕まって立ったのでミンスは驚いた。

「キャっ…!」

ミンスが言うと、クロマはすぐにミンスの方に目を向ける。
テオドールが笑った。

「可愛い声出しちゃって~」

と言っている間に、クロマは赤子に向かって攻撃を放とうとした。
それをテオドールは見逃しておらず、空気に溶け込んでクロマの拘束から逃れる。
クロマはその瞬間にはプラズマを放っており、赤子に向かってプラズマが向かった。

「弟!」

とシュン。

「赤ちゃん!」

とサチも声を出す。
すると赤子の前にテオドールが現れて、避ける暇は無かったので赤子を庇った。
プラズマを浴びたテオドールは全身に痛みと耐え切れないほどの熱を感じるが、それでも赤子を抱いてミンスやクロマから距離を離した。
テオドールは苦笑して言う。

「えっとクロマ?流石に赤ちゃんを殺すのは良くないと思うぞお父さんは。」

「クロマ!」

サウザが叱ると、クロマは舌打ち。

「邪魔をするな。」

ミンスは心臓が跳ね上がるほど驚いていたので、ただの赤子だと知ると安心の溜息を吐いた。

「おーとーと、まもう」

赤子が笑うと、守は驚いた。

「はぁ!?シュン!僕の名前を覚えさせたな!」

シュンは照れながらも喜んだ。

「バレちまったか!」

テオドールはクロマにポシェットを投げ、クロマはそれをキャッチする。

「これ、お土産にあげる。」

「供え物か?」

クロマの問いに、テオドールは言う。

「違うし。」

そう言った後に、テオドールはプラズマのせいで口から血を吐いた。
それを見たサウザの血の気が引いていく。
サチも顔を引き攣り、誠治は見ないようにしていた。
それをアンジェルは緊張した表情のまま見ていた。

「アイツのプラズマに当たると、ああやって死ぬんだね。」

すると守は言った。

「誰かさんは生きてたけどね。」

言わずもがな、綺瑠の事である。
それを聞いたテオドールは笑った。

「あ、俺死ぬの?流石に二度目はキツイぜ…」

とその場でしゃがみ込んでしまう。

「テオドール…!」

ミンスは唖然とした。

「赤子など見殺しにしておけばいいものの。」

と、クロマは歩いてテオドールに近づく。
サウザはクロマに叫ぶ。

「ダメッ!クロマ!父上に何をしようと!」

「これから死ぬ者に何もするわけがないだろう。」

クロマの言葉に、サウザは頭が真っ白になった。

「だめ…!ダメ!父上!死んじゃダメッ!!」

サウザが言うと、テオドールは笑って顔を上げた。

「…サウザはホントに優しぃなぁ…。クロマ、赤ちゃんは大事にするんだぞ~」

「まだそんな顔をしていられるのだな。」

「いいじゃん?俺らしくて。」

ミンスが顔を引き攣らせながらそれを見ていると、テオドールはミンスを見て言った。

「ミンス…、俺、愛してるから…お前の事…。」

それを聞いたミンスは「テオドール…」と少し眉を潜め、それらを見てクロマは険しい顔をした。
クロマは怒りを感じている、そんな顔だ。

「別に、悲しんで欲しいわけじゃなくって…、悲しい思いさせてきたお前に…少しでも…愛を…伝えたくて…!」

それは石の巫女とミンスが別の生命として誕生し、石の巫女ばかり相手をしていたテオドールの反省のようだ。
クロマはテオドールを睨みつけると、テオドールに手をかざす。

「ごめん…!お前もいるのに…寂しい思いばかり…。ミンスも…愛せなくて…ぇ」

テオドールが言ったところで、クロマはプラズマを放ってテオドールの喉を貫いた。








一同は突然の出来事に驚きを隠せない。
テオドールは話す事が困難な上に、力尽きて倒れてしまう。

「テオドール…!」

ミンスはショックで唖然とした。
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