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第4章 侵食―エローション―
042 三笠の哲学!…一人の願い 後半
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「守君。」
三笠は守に言った。
守は三笠の方を見ると、三笠は微笑んで言う。
「つまり守君は、五島先生から愛情を貰いたいんだよね?」
「うん…」
守が呟くと、三笠は頷いた。
「だけどね、五島先生は親子の愛を知らないんだよ。
君も言ってたろう?五島先生は暴力をされて育ってきた。つまり五島先生は、子供にはそうするものだと思っているはずだよ。」
守はムスっとしてしまう。
三笠は続けた。
「でもね、君の言う『最近五島先生が柔らかくなってきた』っていうのは、僕も本当だと思うよ。
もしかしたら、五島先生は何かに気づいたのかもしれないね。思いやりや、愛情を。」
それを聞いて、守は顔を上げて三笠の顔を見た。
三笠は言う。
「守君は、お母さんにどうやって愛情を貰ってきたか覚えているかい?」
「沢山看病してもらった!沢山心配してくれた!お喋りしたら一緒に笑ったり悲しんだりしてくれた!
いつも病院にも付き添ってくれて…お誕生日プレゼントもホンット嬉しかった…!
…でも、数男の暴力については全然信じてもらえなかった…」
守は一喜一憂しながらも答えると、三笠は静かに頷いた。
「守君は父親の愛を知らずとも、こうやって愛を知る事が出来ているよね。
それは、愛情を教えてくれる人が傍にいたからだ。」
「でも数男は…」
守が言うと、三笠は笑顔になって言う。
「なぁに、守君が五島先生に愛情を教えてあげればいいんだよ。」
「エッ!?」
守が驚くと、三笠は続けた。
「人はね、知らない事は出来ないんだよ。
貰ってきた物を、相手に与えようとする生き物なんだよ。
…守君もそうじゃないかい?自分達を蔑ろにする五島先生を、同じく蔑ろにしてきたろう?」
三笠の言葉に、守は言葉を詰まらせた。
三笠は頷いた。
「それが五島先生にとっては当たり前なんだ。親に蔑ろにされ、自分も相手を軽んじる。
守君のお母さんもきっと、誰かに沢山愛されてきたから、守君を大事にしてくれているんだと思うよ。」
「で、でも…数男はいくら母さんに愛されたって…母さんの事嫌ってるもん。
嫌だって、勝手に決められた女だからって、…母さん、あんなに頑張ってるのに…!」
守は涙を溜めて言うと、三笠は同情しているのか眉を困らせる。
それから弱々しい笑みを見せた。
「五島先生も、いつまでも親に首を絞められている。
奥さんの話をする度に、親の話が出てくるからね。きっとそのせいかもしれない。」
守はその言葉に反応すると、三笠は続ける。
「きっと五島先生も、親子ってなんだろうって思っているよ。
それはきっと、五島先生一人じゃ知る事は出来ないだろうね。」
三笠の言葉を聞いて、守は瞳を潤わせながらも黙って聞いていた。
それから守は俯いて黙る。
守は迷った顔をして、頭を抱えた。
しかし急に真摯な表情をすると、思い立って立ち上がる。
「僕、数男に教えてやるよ!アイツ、わからず屋だし!」
「おっ。」
三笠が期待の声を出すと、守は頷いた。
「アクションしてやるし…!アイツが血の通った人間だって事、僕が証明してやる!」
そう言ってドスドスと守は歩いて行った。
三笠は思わずクスクスと笑う。
「もう、五島先生の言葉を真似なくてもいいのに。」
するとシュンは目を輝かせながら言った。
「これが親子の愛かぁ…!すげぇな弟!」
赤子に言うと、赤子は言った。
「まもうー。」
それを聞くと、三笠は目を丸くした。
「あれ?守君の名前を覚えさせたの?」
それに対し、シュンは笑顔で頷くのであった。
第二故郷病院の外。
外に生える巨大植物の前に、数男とサチはいた。
サチは言う。
「どうしたんですか?話したい事って。」
「実は、以前から変な夢を見ていてな。」
「変な夢…?」
「親しげな親子が散歩する夢を毎日見ていた。だが、ミンスが復活してからはパタリと止んでな…」
「ほう。」
「親視点の夢で、談笑をしながらもずっと子供を眺めている夢だ。
色々考えたんだが、その子供があの研究所のボンボンにそっくりなんだよ。」
サチは驚いた。
「奈江島さんの事ですか?」
それに対し、数男は頷いた。
「その子供は親を石っ子ちゃんと呼んでいた。」
「あ。奈江島さんって、石の巫女を石っ子ちゃんって呼んでますね。
石の巫女視点の夢って事ですか…?」
「そして、アイツの母親は石の巫女に捕われたんだろう?
そんな母親の息子に、石の巫女が親しげな会話をするのは意味不明と私は思うんだ。」
数男の言葉に、サチは考え込む。
「確かにその子供が欲しかったとかではない限り、母親を殺した挙句その子供に優しくなんてできませんね。
…だけど、ただの夢ですよ?」
それに対し、数男は鼻で笑った。
「以前までは、あのボンボンが病気を発症している所を見て心も痛んだ。
それを踏まえて、もしかしたらアイツの母親の記憶が石の巫女にあるんじゃないかと私は考えた。
私がその夢を見る理由はわからないが。」
サチは目を丸くした。
「確かに母親の記憶が石の巫女に無ければ、真っ先に秋田親子を殺害してそうですものね。
財力もあり、自分を追いかける力もある。先に始末していなかった方が不思議なくらいです。」
「偶然夢を見ていたしてはおかしい点もいくつかある。
なぜあのボンボンが石っ子と呼び、親しくしている夢なんだとか、あのボンボンを見て何かを思う所だ。」
「確かに…奈江島さんとは知り合いでもなかった五島さんがそういう過去を知っているのも、奈江島さんを見て何か思うのも不思議ですね。
むしろソシオパスなのに…。」
すると数男は巨大植物に近づいて触れた。
「ミンスに初めて触れた時、その日からその夢を毎日見るようになった。
ミンスに力が戻った時、その夢はパタリと止んだ…。
つまりミンスのどこかにアイツの母親が…」
その時だ。
植物から優しげな女性の声が聞こえる。
――「その心の動きは……五島数男さん、ですね?」――
「誰だ!」
数男が思わず言うと、サチは首を傾げる。
「どうしたんですか?誰かいました?」
その反応に驚く数男。
サチには何も聞こえていないようだ。
――「急に驚かせてすいません…。
わたくしの声は、石の巫女の力を貰っている植物人間の頭の中にしか聞こえないようなのです…。」――
数男はそれを聞くと驚きながらも、頭の中で言う。
(つまり、私の考えている事も筒抜けか?)
――「はい。
まさか、貴方からわたくしに話に来るとは思いませんでした…。」――
(お前は奈江島喜美子、それでいいんだな?
なぜお前は意識を保っているんだ?)
――「…貴方の仰る通り、わたくしは奈江島喜美子です。
貴方の疑問はわたくしにも詳しくはわかりかねますが、石の巫女がわたくしを心として取り入れたのが原因だと思われます。」――
(心…?)
――「石の巫女は人の心を知りたくて、わたくしの記憶を取り入れた…。わたくしは、彼女の記憶の一部となったのです。」――
(じゃあお前の息子と遊んでた石の巫女の記憶は、事実だな?)
――「はい。二年も見ない内に大きくなった息子を見て、わたくしの感情が抑えきれなくなったようです。」――
(私が夢で見ていたのは…あれはお前のせいか?)
それを数男が問うと、喜美子は少し間を空けてから返事をする。
――「…多分、そうです…。」――
(多分?…なぜそんな事を。)
――「…貴方の心は、わたくしが石の巫女の記憶に最初に触れた時と、よく似ていたからです…。
植物人間の心は常に虚無に満たされている…わたくしはそう感じています。
石の巫女が愛を知ったように、貴方にも伝える事ができたら…と、いつも語りかけていました。
それが、わたくしの記憶が流れる原因だったのかもしれません…。」――
数男は黙り込んだ。
それを傍から見ているサチは、さっきから黙っている数男に首を傾げていた。
数男は続ける。
(お前のせいで、私は感情を、思いやりを、愛を知るハメになった。)
――「わたくしの勝手のせいで…ご迷惑でしたか…?」――
その言葉に、数男は再び沈黙。
それから数男は答えた。
(損した気分でも、得した気分でもない。)
それに対し喜美子は何も答えない。
数男は続ける。
(お前は今、石の巫女の記憶の中に戻っているのか?)
――「…はい。
これもわたくしの勝手ですが…この世界を、壊して欲しくないのです…。」――
(世界を壊す…?隕石の事か。)
――「ええ。あんな恐ろしい出来事…二度も起こしてはなりません…!
わたくしは彼女の心の中に残ります。そうする事で、彼女がいつまでもこの世界を愛せるのなら…!
愛せるのなら、きっと恐ろしい事はしないで済むと考えております…。」――
喜美子の悲しくも強い思いが感じられた数男。
数男は真摯な表情を見せた。
(お前も私達と考えている事は似ている…か。
…じゃああまりここに長居されても困るな。さっさと石の巫女の記憶に戻った方がいい。)
喜美子はそれを黙って聞いていると、数男は何かを思ったのか聞いた。
(息子に…言っておきたい事はないか?)
すると喜美子は少しの沈黙の後に言う。
――「わたくしの事はどうか綺瑠には伝えないで…。
例えわたくしが彼女の中にいると考えていても、真実は伝えないであげてください…。
いつまでも、…いつまでも。」――
最後の言葉に、数男は多少の違和感を感じつつも返事をした。
(わかった…。すまない、時間を取らせたな。)
――「いいえ…。
五島さん、貴方に幸あらん事を…」――
喜美子はそう言い残すと、声が聞こえなくなってしまう。
数男は巨大植物から手を離し、植物を見上げた。
サチはやっと聞く。
「何があったんですか?ずっとボーッとして。」
「…いいや、何でもない。」
「え?」
サチが目を丸くすると、数男は眉を潜めて言う。
「帰るぞ。」
そう言って立ち去るので、サチは首を傾げながらも数男を追いかけた。
数男はサチを見ながらも思う。
(お前は嘘をつくのが苦手だからな…。言わない方が為かもしれない。)
三笠は守に言った。
守は三笠の方を見ると、三笠は微笑んで言う。
「つまり守君は、五島先生から愛情を貰いたいんだよね?」
「うん…」
守が呟くと、三笠は頷いた。
「だけどね、五島先生は親子の愛を知らないんだよ。
君も言ってたろう?五島先生は暴力をされて育ってきた。つまり五島先生は、子供にはそうするものだと思っているはずだよ。」
守はムスっとしてしまう。
三笠は続けた。
「でもね、君の言う『最近五島先生が柔らかくなってきた』っていうのは、僕も本当だと思うよ。
もしかしたら、五島先生は何かに気づいたのかもしれないね。思いやりや、愛情を。」
それを聞いて、守は顔を上げて三笠の顔を見た。
三笠は言う。
「守君は、お母さんにどうやって愛情を貰ってきたか覚えているかい?」
「沢山看病してもらった!沢山心配してくれた!お喋りしたら一緒に笑ったり悲しんだりしてくれた!
いつも病院にも付き添ってくれて…お誕生日プレゼントもホンット嬉しかった…!
…でも、数男の暴力については全然信じてもらえなかった…」
守は一喜一憂しながらも答えると、三笠は静かに頷いた。
「守君は父親の愛を知らずとも、こうやって愛を知る事が出来ているよね。
それは、愛情を教えてくれる人が傍にいたからだ。」
「でも数男は…」
守が言うと、三笠は笑顔になって言う。
「なぁに、守君が五島先生に愛情を教えてあげればいいんだよ。」
「エッ!?」
守が驚くと、三笠は続けた。
「人はね、知らない事は出来ないんだよ。
貰ってきた物を、相手に与えようとする生き物なんだよ。
…守君もそうじゃないかい?自分達を蔑ろにする五島先生を、同じく蔑ろにしてきたろう?」
三笠の言葉に、守は言葉を詰まらせた。
三笠は頷いた。
「それが五島先生にとっては当たり前なんだ。親に蔑ろにされ、自分も相手を軽んじる。
守君のお母さんもきっと、誰かに沢山愛されてきたから、守君を大事にしてくれているんだと思うよ。」
「で、でも…数男はいくら母さんに愛されたって…母さんの事嫌ってるもん。
嫌だって、勝手に決められた女だからって、…母さん、あんなに頑張ってるのに…!」
守は涙を溜めて言うと、三笠は同情しているのか眉を困らせる。
それから弱々しい笑みを見せた。
「五島先生も、いつまでも親に首を絞められている。
奥さんの話をする度に、親の話が出てくるからね。きっとそのせいかもしれない。」
守はその言葉に反応すると、三笠は続ける。
「きっと五島先生も、親子ってなんだろうって思っているよ。
それはきっと、五島先生一人じゃ知る事は出来ないだろうね。」
三笠の言葉を聞いて、守は瞳を潤わせながらも黙って聞いていた。
それから守は俯いて黙る。
守は迷った顔をして、頭を抱えた。
しかし急に真摯な表情をすると、思い立って立ち上がる。
「僕、数男に教えてやるよ!アイツ、わからず屋だし!」
「おっ。」
三笠が期待の声を出すと、守は頷いた。
「アクションしてやるし…!アイツが血の通った人間だって事、僕が証明してやる!」
そう言ってドスドスと守は歩いて行った。
三笠は思わずクスクスと笑う。
「もう、五島先生の言葉を真似なくてもいいのに。」
するとシュンは目を輝かせながら言った。
「これが親子の愛かぁ…!すげぇな弟!」
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「まもうー。」
それを聞くと、三笠は目を丸くした。
「あれ?守君の名前を覚えさせたの?」
それに対し、シュンは笑顔で頷くのであった。
第二故郷病院の外。
外に生える巨大植物の前に、数男とサチはいた。
サチは言う。
「どうしたんですか?話したい事って。」
「実は、以前から変な夢を見ていてな。」
「変な夢…?」
「親しげな親子が散歩する夢を毎日見ていた。だが、ミンスが復活してからはパタリと止んでな…」
「ほう。」
「親視点の夢で、談笑をしながらもずっと子供を眺めている夢だ。
色々考えたんだが、その子供があの研究所のボンボンにそっくりなんだよ。」
サチは驚いた。
「奈江島さんの事ですか?」
それに対し、数男は頷いた。
「その子供は親を石っ子ちゃんと呼んでいた。」
「あ。奈江島さんって、石の巫女を石っ子ちゃんって呼んでますね。
石の巫女視点の夢って事ですか…?」
「そして、アイツの母親は石の巫女に捕われたんだろう?
そんな母親の息子に、石の巫女が親しげな会話をするのは意味不明と私は思うんだ。」
数男の言葉に、サチは考え込む。
「確かにその子供が欲しかったとかではない限り、母親を殺した挙句その子供に優しくなんてできませんね。
…だけど、ただの夢ですよ?」
それに対し、数男は鼻で笑った。
「以前までは、あのボンボンが病気を発症している所を見て心も痛んだ。
それを踏まえて、もしかしたらアイツの母親の記憶が石の巫女にあるんじゃないかと私は考えた。
私がその夢を見る理由はわからないが。」
サチは目を丸くした。
「確かに母親の記憶が石の巫女に無ければ、真っ先に秋田親子を殺害してそうですものね。
財力もあり、自分を追いかける力もある。先に始末していなかった方が不思議なくらいです。」
「偶然夢を見ていたしてはおかしい点もいくつかある。
なぜあのボンボンが石っ子と呼び、親しくしている夢なんだとか、あのボンボンを見て何かを思う所だ。」
「確かに…奈江島さんとは知り合いでもなかった五島さんがそういう過去を知っているのも、奈江島さんを見て何か思うのも不思議ですね。
むしろソシオパスなのに…。」
すると数男は巨大植物に近づいて触れた。
「ミンスに初めて触れた時、その日からその夢を毎日見るようになった。
ミンスに力が戻った時、その夢はパタリと止んだ…。
つまりミンスのどこかにアイツの母親が…」
その時だ。
植物から優しげな女性の声が聞こえる。
――「その心の動きは……五島数男さん、ですね?」――
「誰だ!」
数男が思わず言うと、サチは首を傾げる。
「どうしたんですか?誰かいました?」
その反応に驚く数男。
サチには何も聞こえていないようだ。
――「急に驚かせてすいません…。
わたくしの声は、石の巫女の力を貰っている植物人間の頭の中にしか聞こえないようなのです…。」――
数男はそれを聞くと驚きながらも、頭の中で言う。
(つまり、私の考えている事も筒抜けか?)
――「はい。
まさか、貴方からわたくしに話に来るとは思いませんでした…。」――
(お前は奈江島喜美子、それでいいんだな?
なぜお前は意識を保っているんだ?)
――「…貴方の仰る通り、わたくしは奈江島喜美子です。
貴方の疑問はわたくしにも詳しくはわかりかねますが、石の巫女がわたくしを心として取り入れたのが原因だと思われます。」――
(心…?)
――「石の巫女は人の心を知りたくて、わたくしの記憶を取り入れた…。わたくしは、彼女の記憶の一部となったのです。」――
(じゃあお前の息子と遊んでた石の巫女の記憶は、事実だな?)
――「はい。二年も見ない内に大きくなった息子を見て、わたくしの感情が抑えきれなくなったようです。」――
(私が夢で見ていたのは…あれはお前のせいか?)
それを数男が問うと、喜美子は少し間を空けてから返事をする。
――「…多分、そうです…。」――
(多分?…なぜそんな事を。)
――「…貴方の心は、わたくしが石の巫女の記憶に最初に触れた時と、よく似ていたからです…。
植物人間の心は常に虚無に満たされている…わたくしはそう感じています。
石の巫女が愛を知ったように、貴方にも伝える事ができたら…と、いつも語りかけていました。
それが、わたくしの記憶が流れる原因だったのかもしれません…。」――
数男は黙り込んだ。
それを傍から見ているサチは、さっきから黙っている数男に首を傾げていた。
数男は続ける。
(お前のせいで、私は感情を、思いやりを、愛を知るハメになった。)
――「わたくしの勝手のせいで…ご迷惑でしたか…?」――
その言葉に、数男は再び沈黙。
それから数男は答えた。
(損した気分でも、得した気分でもない。)
それに対し喜美子は何も答えない。
数男は続ける。
(お前は今、石の巫女の記憶の中に戻っているのか?)
――「…はい。
これもわたくしの勝手ですが…この世界を、壊して欲しくないのです…。」――
(世界を壊す…?隕石の事か。)
――「ええ。あんな恐ろしい出来事…二度も起こしてはなりません…!
わたくしは彼女の心の中に残ります。そうする事で、彼女がいつまでもこの世界を愛せるのなら…!
愛せるのなら、きっと恐ろしい事はしないで済むと考えております…。」――
喜美子の悲しくも強い思いが感じられた数男。
数男は真摯な表情を見せた。
(お前も私達と考えている事は似ている…か。
…じゃああまりここに長居されても困るな。さっさと石の巫女の記憶に戻った方がいい。)
喜美子はそれを黙って聞いていると、数男は何かを思ったのか聞いた。
(息子に…言っておきたい事はないか?)
すると喜美子は少しの沈黙の後に言う。
――「わたくしの事はどうか綺瑠には伝えないで…。
例えわたくしが彼女の中にいると考えていても、真実は伝えないであげてください…。
いつまでも、…いつまでも。」――
最後の言葉に、数男は多少の違和感を感じつつも返事をした。
(わかった…。すまない、時間を取らせたな。)
――「いいえ…。
五島さん、貴方に幸あらん事を…」――
喜美子はそう言い残すと、声が聞こえなくなってしまう。
数男は巨大植物から手を離し、植物を見上げた。
サチはやっと聞く。
「何があったんですか?ずっとボーッとして。」
「…いいや、何でもない。」
「え?」
サチが目を丸くすると、数男は眉を潜めて言う。
「帰るぞ。」
そう言って立ち去るので、サチは首を傾げながらも数男を追いかけた。
数男はサチを見ながらも思う。
(お前は嘘をつくのが苦手だからな…。言わない方が為かもしれない。)
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