植物人間の子

うてな

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第2章 正体―アイデンティティ―

023 植物人間の石が消えた? 後半

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街中。
ローブを纏い、フードを深く被った男が走り去る。
近くにいた誠治は落ち込み、隣にいたサチはその男を睨みつける。
更に近くにいたミンスとミィシェルは言った。

「あら、後はクロマにお任せなさい。」

「おつつけ[おちつけ]です」

サチに言うが、サチはその男を追いかけ始める。
ミンスはハープを一回爪弾くと呟く。

「血の気が多いですね。」

サチはあるフードを被った人物を追いかけているが、クロマもその男を追いかけている。
ここは住宅街で、誠治が持っていた石の種がそのフード男に盗まれてしまったのだ。
サチがクロマの隣まで走ってくる。

「クロマ!このフードの人に心当たりあるの!」

「知らん。だが悪を働く者はこの手で殺さねばならん。
…今は奴が我等の敵、貴様の命は見逃してやる。」

それにサチは引いた顔。

「殺す時点で君が悪では?」

それを聞いたクロマはカチンと来る。

「私は間違った事はしない!全ては神に…神が…」

と言うと何を言おうとしたのかを忘れるので、サチが言った。

「全ては神によって正当化され、神が君に悪くないと言っていると。」

面白可笑しく言ったつもりだったが、図星なのかクロマがギクッと反応をした。
サチは顔を引き攣らせて驚いた。

「やっぱり子供なのね。あのね、神なんていないし罪も正当化なんかされないわ。君はそれを信じて今まで人を殺してきたの?」

サチが聞くと、クロマはそっぽ向く。

「私は神など信じていない。それに、私が殺すのは植物人間という『異物』だけだ。」

「はい?神を信じてないのに陽の下院に入ってるの?」

サチが眉を潜めると、クロマは追いかけている相手を睨みながら言った。

「私にとって、何よりも尊く大事で…大好きな…母が……母が神同然なのだ。」

「お母さんが大好きなのは意外ね。」

すると、クロマは顔を赤くした。

「ミンスは…本当に母に似ている…。」

「マザコン…」

思わずサチが呟くが、クロマは恥ずかしそうにそっぽ向くだけ。
するとフードを被った者は話が気になるのか、一瞬こっちに振り向いてきた。
それを見たクロマは徐々にスピードをつけて相手に追いつき、サチも追いつこうと必死だが追いつく気がしない。

相手は巨大植物に飛び乗り、今度は上へと上がっていった。
サチは見上げると、クロマも植物に飛び乗って相手同様に登っていく。
サチも負けていられなくなると魔法少女に変身し、杖を箒の代わりにして空を飛び始めた。

それから少し経ち、遂に巨大植物の頂上に着く。
サチは巨大植物を見下ろし、雲の上にいる事に気づくと驚いた。
クロマはお構いなしに相手を追いかけるが、相手は植物の先端から高くジャンプをする。
勿論クロマもできるのか、クロマも同じ植物から高いジャンプをした。

すると相手はゆっくりこちらに振り向き、両腕を広げる。



どこから飛んできたのか、幾つもの花びらが相手を包み込み、やがて大きな蕾となった。
サチは唖然とし、クロマはその蕾を壊そうと腕にプラズマを纏う。

しかしすぐに蕾は花びらに散り、相手の姿が完全になくなっていた。
クロマはそれに気づくとプラズマを纏うのをやめ、そのまま下に落下する。
サチは着地する様子も見せないクロマに驚きながらも追いかけ、クロマをキャッチした。

「大丈夫?」

サチが聞くと、クロマを後ろに乗せる。

「…植物人間…。」

クロマは俯きながら言うと、サチは首を傾げた。

「そんなに珍しいかしら」

しかしクロマは何も答えず、地上に戻るまで黙り込んでいた。



クロマとミンスとミィシェルが陽の下院に帰ると、すぐに秋菜に見つかって秋菜に言われる。

「クロマ、今度貴方の故郷に帰ってみる?」

「場所をご存知なのですか?」

ミンスが聞くと、秋菜は「ちょっとね。」と言うのだった。
クロマは目を見開く。

「いいのですか」

「ええ、私達も知りたい事ができましたの。ミンスは?」

「ぼくは行くです!」

ミィシェルは飛んで喜ぶが、ミンスはあまり乗り気ではない顔をした。

「あら嫌?」

秋菜が聞くとミンスは首を横に振る。

「…いいえ。」

「なんだか嫌そうね。」

秋菜が聞くと、ミンスは秋菜を見る。

「わたくし、嫌な予感がいたします…。」

秋菜は首を傾げたが、立ち去る。

「じゃあ決まりね。予定は明日くらいに知らせるから。」

クロマは急に落ち着かなくなって部屋に篭る。
ミンスは心配そうにクロマを見るが、クロマは楽しみなのか日も沈んでいないのにもう布団に入っていた。
不覚ながらミンスはその純粋さにクスッと笑ってしまった。

「クロマ、夜はまだですよ。」

するとクロマは黙って起床し、椅子に座り机で折り紙を折り始めた。
ミィシェルは喜んで、クロマの隣で一緒に折り紙を折り始める。

ミンスは何かを不安に思いながらも、布団に入った。
クロマはミンスを見て言う。

「貴様も寝ようとするな。」

ミンスはクスクス笑った。

「バレましたか。」

そして、クロマの隣に来て折り紙を見る。

「ミンス折るです!」

ミィシェルがミンスに折り紙を渡すが、ミンスは折り紙を持ちながらもクロマの折り紙を見ていた。
するとクロマは言う。

「ミンスは不器用、折り紙が下手。だから折らない。」

ミィシェルは黙って頷く。

「楽器弾く上手いケド不思議」

ミンスは笑った。

「そうですね。本当に不思議。」

そう言いながら、暫く二人でクロマの折り紙を見ていた。





ここは秋田宇宙生物研究所。
久坂がやってきており、第三研究グループの部屋で上郷と会っていた。

「んー、じゃあてめぇは来ねぇの?友人に会えるかもしれねぇのに?」

久坂の言葉に、上郷は首を横に振った。

「会えないだろうな。俺はそう思っているから、行かない。」

「そーかよ。夢のねぇジジィだ。」

それに対して、上郷は若干イラついた様子。
すると久坂から視線を逸らして言った。

「そんな事より、坊ちゃんどうにかしてくれないか?
研究室で眠ったり、お陰で戸締りもできないんだよ。」

「おうおう。」

久坂は了承すると、小走りで第五研究グループの方へ向かった。
綺瑠のいる研究室前まで来ると、扉前の張り紙を見る。
『立ち入り禁止』とあった。
しかし久坂は入り、わざとらしく言った。

「奈江島ぁー、張り紙の文字読めなぁ~い」

すると、久坂は室内に驚いた。
壁の一部には一面びっしりと文字の書かれた紙が何枚も貼られている。
綺瑠は机に向かい、パソコンの前に資料とペンを置いて何か考えている様子だった。
久坂は綺瑠の真後ろまで来て言った。

「よぉ、風呂入ってっかー。」

それを聞くと、綺瑠は腕時計を確認してから言う。

「つい三時間前に入ったかなー。」

綺瑠は考える事に夢中になりながらも、ちゃんと返事してくれる。
久坂は綺瑠の異変に気づいていた。
綺瑠の目の下にはクマがあり寝不足なのは確実、声にいつもの活気がない。

「おい奈江島?なんかお前、代表に似てきたぞ?」

それを聞くと、綺瑠は鼻で笑った。

「光栄だね。」

「マジで言ってる?てか何の研究してるんだ?」

「んー、新しい発明?ってやつ。」

「何のって聞いてんだが?」

久坂が言うと、綺瑠は黙り込む。
少しすると、綺瑠は言った。

「父さんが、夢から目が覚める様な…発明。」

「どゆこと?」

綺瑠はペンを置くと、椅子から立ち上がって久坂の方を見た。
綺瑠にしては圧のある雰囲気だったので、久坂は若干圧倒される。

「父さんはさ、夢を見ているんだよ。
石の巫女に母さんが眠っている、そんなの有り得るわけないじゃないか。
だって母さんは、石の巫女の養分になって死んだんだからさ。
それをね、僕が父さんに証明してあげるんだよ。そうしないと、父さんは死ぬまで母さんに執着する。
はあ、馬鹿馬鹿しい…」

綺瑠はそう言うと、頭を抱えて再び椅子に座った。
久坂は綺瑠を見て言う。

「親の為の研究かよ。てめぇは何で研究員を始めたんだ?」

「言ってなかったっけ?…僕がここの研究員になったのは、父さんを夢から目覚めさせる為。
父さんはさ…いつまでも夢を見過ぎなんだよ。もっと現実見ろって。」

それを聞いた久坂は、眉を潜めた。
どこか虚しさを感じる表情だ。

(本当…てめぇら親子が、植物人間のせいで一番人生を狂わされてるわ…)

すると綺瑠は引き出しから厚みのある資料を出し、久坂に渡した。

「これを第四グループ一班の班長に渡しておいて。お願い。」

「おう。」

「ありがと。」

綺瑠は資料を渡すと、再び机に向かった。
そして久坂は黙って資料の中身を見ると、目を剥く。
『植物人間殺傷機 開発案』とあった。
久坂は思わず綺瑠を見ると呆然。

(代表を夢から目覚めさせるって…奈江島、何を考えてんだ…?)
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