植物人間の子

うてな

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第2章 正体―アイデンティティ―

022 大人になった子供は、子供を羨む 後半

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クロマは目が覚める。
眩しくもない白い朝日が差し込む窓、クロマは目の前に青い髪の長い女性がいる事に気づく。
前かがみにクロマをまたぎ、こちらを見つめてただ微笑む女性。
クロマはその女性の容姿に息を呑むと、女性は優しく、そして可愛らしい声でクロマに話しかけた。

「目覚めなさい、クロマ。私の…大事な息子よ…」

女性はそう言うと手を伸ばしクロマの頬に触れる。
クロマは目を少し見開き、彼女の顔を見つめていた。
ミンスによく似ているので、もしかしたら自分の母親なのではないかと思ったのだ。

「貴方に…伝えなければならない事があります…」

その女性は状態を起こすとゆっくり目を閉じる。
クロマも起き上がり、彼女の体を見始める。
彼女はその視線に気づかず目を開けると言った。

「貴方は…あっ」

彼女は言う前にクロマが体を触ってきたので驚く。
クロマは夢中になってくびれのあたりを触る。

(細い…)

クロマはくびれにある手を徐々に上にスライドさせて胸に向かおうとするが、女性が恥ずかしがって抵抗する。

「駄目です…おやめなさい…」

しかしクロマはやめる気配を見せず、顔を赤くしながらも言った。

「ごめん…無理だ。」

そこに扉を開けてミィシェルが入ってくる。

「クロマ兄様!ミンス!オフロ入るです!」

女性はミィシェルの方を見て驚いた様子を見せるが、クロマは気にせず触ろうとする。
ミィシェルはムスっとすると、女性の髪を引っ張った。
するとなんと髪はカツラであり、長い髪の下は普通のミンスだった。

それを見たクロマは固まる。
ミンスはクロマの反応を見るとクスクスと笑う。

「あらクロマ、わたくしに欲情とは。我慢も限界ですか。」

クロマはミンスから赤い顔を逸らした。

「女みたいな面を見せるからだ。」

ミンスは可笑しくて笑っているが、ミィシェルはミンスとクロマの服を引っ張り駄々をこねる。

「二人!オフロ入るです!はーいーるーでーすー!」

「あら、しかし昨夜寝る前に一緒に入ったばかりでしょう?」

しかしミィシェル首を横に振って、涙目で二人を見つめる。

「ぼく今入るです…!」

「一人で入れないのか。」

クロマに言われると、ミィシェルは涙を流し始めてしまう。
クロマは何が起こったのかわからずギョッとしていると、ミンスはクロマを横目で見る。

「クロマ、ミィシェルさんはわたくし達と入るのが好きなのです。ただのお風呂好きではありません。」

「三人で入ったら何か変わるのか?」

すると、ミィシェルはクロマの服で涙を拭き始める。
クロマはその様子に呆れて溜息をつくと、ミィシェルは更に鼻をかむ。

「貴様何をしてくれる…!」

クロマは怒ったのか言うと、ミィシェルは笑顔を上げてクロマを見る。

「服汚れる、お風呂入るです!」

するとミンスはクスッと笑い、クロマは無愛想な顔のままミィシェルの髪を鷲掴みにして睨みつける。

「貴様、」

ミィシェルは気にせず笑顔を見せ、ミンスはタンスから服を取り出してクロマに投げる。
クロマの頭にヒットする服、クロマはミンスの方を睨むとミンスは扉の前まで来ていた。

「さあお風呂に行きますよ。ミィシェルさんも早く。」

ミィシェルは喜ぶとミンスの元に走る。

「ミンス!Michel[ミィシェル]サンNonです!Michel!」

ミィシェルにそう言われると、ミンスは一瞬困ってしまうがすぐに微笑んで言う。

「わかりました。ミィシェル、お風呂に入りましょうね。」

それを聞くと、ミィシェルは言葉にならない声を上げて嬉しそうにする。
クロマはそのまま布団に潜ると、ミンスは空かさず言った。

「お風呂に入っている時に植物人間に襲撃されたらどうするつもりなのです?わたくしを守ると約束してくださったのは誰でしょうか。」

クロマは急に起き、ミンスに渡された服を持って二人の元に向かう。

「貴様がいつまでも頼りないからだ。」

クロマは捨てるように言い、先に風呂場まで向かっていく。
ミィシェルは言葉を整理して話を少し理解する。

「約束、したです?」

ミンスは笑うと、ミィシェルの視線までしゃがむ。

「クロマ、凄く優しい。いつも助けてくれる、いい兄。駄目な私を助ける。」

ミンスの言葉を理解したミィシェルは驚いたように目を開ける。

「ミンス…!ぼくと同じです?」

ミィシェルは聞くが、ミンスはただ微笑んでいるだけであった。

ミィシェルと手を繋ぎ廊下を歩くミンス。
ミンスは教会にいた時の小さい頃を思い出していた。


――教会の外れにある深い森の中、ミンスは涙を拭いクロマに手を引っ張られて共に歩いていた。
ふとミンスは不安に思ってクロマに聞く。

「クロマ、帰り道を覚えているのですか?」

クロマは怖がった様子もなく言った。

「何を言っている、私はミンスを探しに来ただけだ。道を覚えに来たのではない。」

向こう見ずなクロマはミンスにとって驚きを与える存在ではあったが、それは案外ミンスの助けになっていた。――


「今日も空は桃色ですね。」

ミンスが言うと、ミィシェルは驚いた。

「!…空ハ青です!」

「夕日です。」

ミンスはクスクス笑って言うのだが、ミィシェルは外を見ても空が青い為に、言葉の意味が理解できなかった。



そして三人は広いのお風呂で入浴中。
クロマは軽く目を閉じて大人しくお湯に浸かっていて、ミンスは二人の様子を見て微笑んでいた。
ミィシェルはタオルをお湯に沈めながら言った。

「ヌノッキレ!ヌノッキレ食えです!」

クロマは片目を開いてミィシェルを見る。

「食え ではなく 食らえ の間違いではないのか。」

クロマが言うと、ミンスは図星なのか苦笑。

「なぜ布でもなくタオルでもなく布切れなのだ。」

クロマが言い、ミィシェルはクロマの方を見る。
そして沈めたタオルを見せて自慢しようとしたミィシェルは、タオルの両端を握り、思い切り上に掲げる。
すると見事大量の水しぶきがクロマの顔面にかかるのであった。

「貴様…」

クロマは不機嫌そうな顔をミィシェルに向けると、ミィシェルは焦って言い訳を始める。

「お顔、お綺麗、なる、です。」

「日本語をしっかり学んでから丁寧語を使え。」

クロマが言うと、ミィシェルはササッとミンスの背後に隠れてしまう。

「ミンス!クロマ兄様襲うです!」

ミンスは声を上げずに笑っていたが、ただその光景が可笑しいだけでなかった。
クロマが徐々にミィシェルの不自由な日本語を理解している事に、温かみを感じていたのである。





場面は戻り、誠治はまずは自殺を図ったりする人が出ないように屋上へ向かった。

するとそこに、百合の葉を伸ばした少女の植物人間がいた。
芙美香と同じくらいの年頃の少女だろう。
彼女はその場で三角座りで伏せているだけで、動く気配がない。
彼女の様子を見るに、彼女がみんなを変えてしまったのだと察する誠治。
誠治は彼女に近づき、肩に触れようとすると彼女は急に顔を上げて誠治を睨みつけた。

「触るな!」

「…君が、みんなをこうしたの?」

「私何もしてないもん。根拠は」

少女は強めに誠治に言った。
誠治は彼女に生える植物を見つめる。

「なぜ植物が生えているの?」

「知らない。それが何。」

誠治は眉を潜める。

(この植物人間、自我がある…?)

「えっと、植物人間だと、人間に悪影響及ぼしたりしますよね。」

誠治が満面の笑みで言うと、少女は気持ち悪い何かを見る目で誠治を見た。

「私を疑ってるの?」

誠治は微妙な反応をしつつ、彼女で間違いないことは確信していた。

(こういう時はどうすればいいんだろう…)

すると少女は誠治を危険人物と思ったのか、手に持っていた鋭い石の破片で誠治の胸を刺した。
誠治は驚いたが、不死身なので死なないことをふと思い出す。
勿論痛いが、血もあまり滲まず死ぬ気配はない。
少女は仰天して誠治から離れた。

「お前人間じゃないの…!?」

誠治はキョトンとした顔でなんと言えばいいか考えていた。

「えっと…人間なんですが、植物人間の力を受けて不死身になっちゃったっていうか…」

「それもう人間じゃないでしょ!」

少女に言われると、誠治はずっしりと心臓に重みを感じる。
ちなみに刺された痛みではない。
誠治がその場でショックしていると、少女はその隙に立ち去ろうと病院の中へ続く扉を開く。

しかしその先には、さっきの男の子がいた。

「邪魔よ。」

少女が言うと、男の子は退こうとせずに少女を見つめていた。

「何!」

男の子は植物を指差す。

「蕾があるね。オレンジ色の花、オレンジ色の百合には『嫌悪』っていう花言葉があるんだ。」

少女は眉を潜め、男の子の言いたい事が理解できていない。
誠治も勿論何を伝えたいのかわからなかった。

「下を向いて咲いて、大きくて立派なようだけどなんだか惨めだよね。いや、まだ未熟な子供を見下しているのかもしれない。」

「気持ち悪い…」

少女が男の子に対して言うと、男の子はふと閃いた顔をした。

「違う…子供たちを羨ましがっているんだ。幸せそうな子供を見下ろして、惨めな大人。」

少女は男の子を突き飛ばすと、男の子はぐらつくだけであまり後退はしなかった。
男の子はポケットから定規を出すと百合を見る。

「この花は要らないな、きっと大人になったら嫌いになる。」

男の子は少女に近づいた。
少女は淡々と喋って近づく男の子に恐怖を感じていた。
男の子は百合の生え際に、包丁を構えるようにして定規を当てた。

「ちょ…!」

少女が焦ると、構わず男の子は言った。

「さよなら。」

百合を捻りながら、定規で強く切り離した。
少女の痛みを見せる顔は一瞬だったが、植物が取れると淡い光を発しながら百合ごと消えて石の種になった。
誠治は唖然とし、男の子は種を持つ。
すると男の子は正気に戻ったのか言った。

「ん?あれ?…僕は一体…」

男の子は手元の種を見て言う。

「いつの間に。…まあいいや、僕には必要ない物だ。良ければお兄さんにあげるよ。」

そう言って少年は、種を誠治にパスする。
誠治はキャッチすると種を見つめ、少年を見る。

(不思議な子…。)

誠治はそう思っていた。
そのまま少年は病院の中に帰っていき、もう誠治の前に現れることはなかった。



道路を歩いている数男とシュン、数男はふと誠治のいる病院の方を見た。

「どったのごっちゃん。」

シュンが聞くと、数男は屋上の方を見る。

「あそこにあった植物人間の気配が消えた。誰かが倒した。」

「エーッ!?俺の出番…!」

シュンは悔しく頭を抱えた。
数男はすぐに撤退し、久坂たちのいる病院に向かう。
シュンも渋々数男についていくが、泣き出した赤子の世話ですぐに元気を取り戻したのだった。
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