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第1章 精神病質―サイコパシー―
002 プラズマ操る少年、クロマ・オーファン 後半
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「おい、そこの女。」
サチが振り向くと、その青年を見て驚く。
彼からいくつか生える細い木の枝、真っ黒な髪に真っ赤なその目は恐ろしい魔物そのもの。
隠れて見ている誠治も、恐ろしくて顔を真っ青にしていた。
(あれが噂の植物人間…!?)
そしてサチも青年に言った。
「君は一体…」
サチの問いに彼は周囲を確認し、黒焦げた死体を見ると言った。
「これはお前がやったのか?」
「いえ、今去っていった少年がやりました。君はまさか植物人間?」
青年はサチの姿を見てから言った。
「そうだ。
『五島 数男(ごとう かずお)』、私の名前だ。…お前はどうやら私の力を受けた新しい仲間みたいだな。」
誠治は話を聞いていて何がなんだかわからない状況だが、とりあえず思う事があった。
(魔法少女さんがいる…!撮りたい!)
誠治の目は輝き、更に彼は携帯を携えている。
どうやら誠治は彼女がサチである事に気づいていないらしい。
(妹が喜ぶ…!あ、でも盗撮になる…。)
誠治は謎の葛藤に苛まれるのであった。
それはさておき、サチは数男に言った。
「じゃあ君が闇の植物人間って奴…!さっき君の敵がこの人を殺し、ついでにあたしも殺されかけた。一体何が起こっているの?」
サチが言うと、数男は鼻で笑った。
「奴等の目的は知らん。が奴等も大して変わらん、あっちのトップは植物人間だからな。」
サチが首を傾げると、数男は説明を続けてくれる。
「私はとある研究所に飼われている植物人間だ。
私は一般の植物人間と違い、自我を持ち、人間に自分の一部を与える事で自身の味方にできる。
それと同時に、人に超えた力を与えてしまう。」
サチは呆然と聞いていた。
「しかし力を与えられた人間は、副作用で身体や精神に異常をきたす。私の力を貰った者は望みの力を手に入れるが、良心が徐々に欠けてしまう。
良心のない植物人間を見た相手が、勝手に悪だの闇だの言ってるだけだ。」
「つまりさっき変な力を使えたのは、私が君の仲間になったからなのね。
…それに良心が欠けるって、それはどういう…?」
数男は無表情を保ちながら言った。
「心が読めず共感力に欠け、誰かに思いを抱く事がなくなる。」
(思い…?好き…とかも?)
サチは驚いた顔を隠しきれない。
「お前の心は徐々に欠け、大事な者を大事と思えなくなる。」
それを聞き、サチは絶望して動揺し始めた。
(つまり九重先輩を好きではならなくなるって事…。)
そのサチの様子を見た誠治は共感しているのか、血の気が引ける感覚を覚えた。
(大事な人を…)
サチの様子を見て、溜息を軽く吐いた数男。
「そう言えばここに植物人間が来なかったか?」
数男の問いに、サチは気持ちを切り替えて数男を見つめる。
誠治もサチの真似をし、隠れているのにも関わらず数男を怪しそうに見つめた。
それに対し、数男は呆れる。
「私以外でだ。その様子だと見てないか。おかしいな、確かにほんの一瞬だけ気配を感じたんだが。」
「植物人間を見つけ出してどうするの?」
それを聞くと、数男はサチを軽く睨んだ。
「ただの植物人間ではない。植物人間を生み出した、植物人間の頂点に君臨する生物だ。」
「植物人間の頂点…?クロマという少年と、ミンスという少年しか来ていないけど。」
数男は深く溜息をつくと、面倒そうに呟いた。
「あー、マリモと痩男か。」
どうやら知り合いのようだ。
数男は考え込むと独り言のように言う。
「あれが頂点…?野蛮と軟弱が頂点とは思えないな…」
その独り言を、サチは微妙な表情で聞いていた。
すると数男は呟いた。
「まあいいか。後で秀也に報告すれば。」
(適当!?)
サチは驚くが、そのまま数男は立ち去ろうとしてしまう。
するとサチは数男を追いかけて話しかけた。
「あ、待って!」
サチは大声を出しすぎたと思い、周りを確認してから先程より声のトーンを下げて数男に言った。
「秀也って、久坂さんの事だよね?あたし、今日から第二故郷病院で働く事になった真渕幸って言うんだけど。」
すると、数男はサチの方を見て眉を潜める。
それから再び溜息をついて言った。
「なら話は早い、こっちに来るんだ。
遺体は放置していろ、どうせマリモのプラズマを追って来た研究員が回収するだろう。」
サチは状況をイマイチ理解できないながらも、数男について行くことにした。
誠治も状況を完全に理解できなかったが…
(今日は魔法少女さん見れたなぁ…)
と楽観的だった。
しかし次の瞬間、先程クロマが殺した真っ黒な遺体を見つけて口を抑えた。
(これ…!人型…!?)
誠治は息をするのを一瞬忘れる。
(だ…誰が…)
そう思って、魔法少女を見つめた。
この街にある、とある研究所。
その研究所は、普通の学校の倍近くの広い土地があった。
九階もある建物。
ここは宇宙生命体について主に研究する、【秋田宇宙生物研究所】である。
そしてここでは、植物人間に関する研究が常に執り行われていた。
研究室の廊下を歩くのは、なんと第二故郷病院の久坂秀也。
彼の名札は病院の時とは打って変わって、『第二研究チームリーダー 久坂秀也』とある。
胸には研究所のエンブレムバッジまで。
廊下の途中途中で、人の悲鳴が微かに聞こえた。
そしてある一室の透明ガラスから見える光景と言えば…
植物を全身から生やした植物人間と、それを火炎放射器で殺処分する研究員の姿だ。
(おうおう今日も非道な実験をしていますこと。)
久坂はそう思いながらも、とある部屋の前に着く。
表札には『第五研究チームリーダー室』とあった。
久坂はノックもせずにその部屋に入る。
「坊ちゃ~ん、開発進んでる~?」
無機質な声で入ると、そこには一人の男性が。
その男性はなんと、誠治といつもゴミ拾いのボランティアをしている奈江島だった。
名札には『第五研究チームリーダー 奈江島綺瑠(きる)』とある。
ちなみに綺瑠はいつも黒い手袋を両手にはめていて、手袋には研究所のエンブレムが縫われていた。
綺瑠は手提げ袋に何かを詰めており、久坂に気づいていない様子だった。
久坂は少し声を大きくして言う。
「奈江島。」
「ん?」
そう言って綺瑠は久坂に気づくと、笑顔を向けた。
「久坂、おはよう!」
笑顔の綺瑠を見て、久坂は気味悪そうに綺瑠を見る。
「どうしたどうしたテンション高いな?このロールキャベツデビルマッシュルーム。」
「美味しいよねロールキャベツ。…デビルマッシュルームって何?」
綺瑠が目を丸くして言うと、久坂は黙り込む。
綺瑠は思わず苦笑してしまう。
「なんで黙るの?
と言うよりどうしたの久坂、直接会いに来るなんて珍しい。」
「てめぇオレとの約束忘れてっか?
植物人間を普通の人間にする手段を考えるって言ってなかったっけ?」
呆れた久坂を見て、綺瑠は思い出したように手を叩いた。
「あまり時間が取れなくてね、忘れていたよ!」
「だと思ったよ…お前の専門なんだからマジ頼むわ。」
「うん。」
そう言われ、久坂はただただ笑顔の綺瑠を見る。
すると久坂は溜息をついた。
「お願いだから興味持ってくれ…そうじゃないとてめぇは動かないから。」
「そうだ久坂!見てこれ。」
そう言って綺瑠は手提げ袋から箱を取り出し、箱をパカリと開けた。
そこには、大きなダイヤモンド。
久坂は顔を引き攣った。
「お前さ、財力に物言わせて女の機嫌取るのやめろ?」
しかし、綺瑠は目を丸くした。
「なんで?ヒカリちゃんはこれがホシイんだよ?これできっとヒカリちゃんの機嫌も直るよ!」
そう言って綺瑠はリーダー室を出た。
久坂は呆れた表情をすると、綺瑠を追いかけながら言う。
「直らねぇよ。どーせ今頃は廃人にでもなってんだろーよ。」
それに対し、綺瑠は笑った。
「そうだね。ヒカリちゃんの宝石好きは、普通の人以上だからね。」
「そうじゃなくてよ…」
久坂は呆れて、何も言う気になれなかった。
そして向かった先は最上階。
最上階のとある一室に入った二人は、部屋から女性の泣き呻く声が聞こえた。
それを聞いた瞬間に綺瑠は、ニタリと笑う。
「ヒカリが泣いてる、嬉し泣きかな?」
「ウエッ。」
久坂はさり気なくそう言うが、綺瑠は気にしていない。
綺瑠は右手を白衣のポケットに突っ込むと、部屋の奥へ向かった。
するとそこにはソファーに座らされ、両手両足と腹部を手錠と鎖で繋がれた一人の女性。
そしてその女性を囲むように、色とりどりの宝石が部屋中に埋め尽くされていた。
女性は体中に目も当てられないほど切り傷やアザがあり、青ざめていて目にはクマがあり体が震えている。
顔は涙と鼻水でめちゃくちゃだった。
「ヒカリ起きてる?おーはよ。」
綺瑠が話しかけると、ヒカリと呼ばれた女性は綺瑠を見て目を剥いた。
そして化物を見たかのように、逃げられない拘束の中暴れだす。
「ギャアアアアッ!!」
我を忘れたように叫ぶ姿は、人の理性を既に失っている。
久坂は引いた様子で、それを少し遠くから見ていた。
綺瑠は気にせず、彼女の前にやってきてダイヤモンドを見せた。
「ほら、ヒカリの大好きな宝石。この部屋には、ヒカリがホシイって言った物が全部。幸せだよね?」
綺瑠はニタニタと笑った。
その笑顔を見ると、ヒカリという女性は泣きじゃくって俯いた。
「ごめん…なさい……!もう…こんな事やめて…!」
女性が言うので、綺瑠は目を丸くした。
「どうして謝る?僕は君の喜ぶ顔が見たいだけなのに。」
「要らない…!もう別れて……!!」
それを聞くと、綺瑠は寂しそうな顔を見せた。
「残念。君の笑顔に僕は救われてきたのに。
…それが君の望みなら、別れようか。」
その言葉に、女性は顔を上げた。
それと同時に、綺瑠は笑顔で言う。
「でも」
綺瑠は持っていた手提げ袋から何やら怪しい道具を取り出した。
そのまま手提げ袋を落とすが、その袋の中からは何やら拷問道具の様なものが…
それを見た瞬間、女性の顔は真っ青に。
「契約の分の実験が終わってないから、それが終わってからね。」
「嫌…やめて……」
そして、女性の理性を失った悲鳴は再び響くのであった。
綺瑠の笑い、歌う声が聞こえる。
「え~がお♪ え~がお♪ え~がおーがー す て き♪
愛してるよヒカリ~」
それを眺めていた久坂は、頭を軽く掻く。
それから久坂は綺瑠に背を向け、その場を立ち去った。
「また出直してくるわー。次の女探しもガンバ~」
「ありがと!久坂~」
サチが振り向くと、その青年を見て驚く。
彼からいくつか生える細い木の枝、真っ黒な髪に真っ赤なその目は恐ろしい魔物そのもの。
隠れて見ている誠治も、恐ろしくて顔を真っ青にしていた。
(あれが噂の植物人間…!?)
そしてサチも青年に言った。
「君は一体…」
サチの問いに彼は周囲を確認し、黒焦げた死体を見ると言った。
「これはお前がやったのか?」
「いえ、今去っていった少年がやりました。君はまさか植物人間?」
青年はサチの姿を見てから言った。
「そうだ。
『五島 数男(ごとう かずお)』、私の名前だ。…お前はどうやら私の力を受けた新しい仲間みたいだな。」
誠治は話を聞いていて何がなんだかわからない状況だが、とりあえず思う事があった。
(魔法少女さんがいる…!撮りたい!)
誠治の目は輝き、更に彼は携帯を携えている。
どうやら誠治は彼女がサチである事に気づいていないらしい。
(妹が喜ぶ…!あ、でも盗撮になる…。)
誠治は謎の葛藤に苛まれるのであった。
それはさておき、サチは数男に言った。
「じゃあ君が闇の植物人間って奴…!さっき君の敵がこの人を殺し、ついでにあたしも殺されかけた。一体何が起こっているの?」
サチが言うと、数男は鼻で笑った。
「奴等の目的は知らん。が奴等も大して変わらん、あっちのトップは植物人間だからな。」
サチが首を傾げると、数男は説明を続けてくれる。
「私はとある研究所に飼われている植物人間だ。
私は一般の植物人間と違い、自我を持ち、人間に自分の一部を与える事で自身の味方にできる。
それと同時に、人に超えた力を与えてしまう。」
サチは呆然と聞いていた。
「しかし力を与えられた人間は、副作用で身体や精神に異常をきたす。私の力を貰った者は望みの力を手に入れるが、良心が徐々に欠けてしまう。
良心のない植物人間を見た相手が、勝手に悪だの闇だの言ってるだけだ。」
「つまりさっき変な力を使えたのは、私が君の仲間になったからなのね。
…それに良心が欠けるって、それはどういう…?」
数男は無表情を保ちながら言った。
「心が読めず共感力に欠け、誰かに思いを抱く事がなくなる。」
(思い…?好き…とかも?)
サチは驚いた顔を隠しきれない。
「お前の心は徐々に欠け、大事な者を大事と思えなくなる。」
それを聞き、サチは絶望して動揺し始めた。
(つまり九重先輩を好きではならなくなるって事…。)
そのサチの様子を見た誠治は共感しているのか、血の気が引ける感覚を覚えた。
(大事な人を…)
サチの様子を見て、溜息を軽く吐いた数男。
「そう言えばここに植物人間が来なかったか?」
数男の問いに、サチは気持ちを切り替えて数男を見つめる。
誠治もサチの真似をし、隠れているのにも関わらず数男を怪しそうに見つめた。
それに対し、数男は呆れる。
「私以外でだ。その様子だと見てないか。おかしいな、確かにほんの一瞬だけ気配を感じたんだが。」
「植物人間を見つけ出してどうするの?」
それを聞くと、数男はサチを軽く睨んだ。
「ただの植物人間ではない。植物人間を生み出した、植物人間の頂点に君臨する生物だ。」
「植物人間の頂点…?クロマという少年と、ミンスという少年しか来ていないけど。」
数男は深く溜息をつくと、面倒そうに呟いた。
「あー、マリモと痩男か。」
どうやら知り合いのようだ。
数男は考え込むと独り言のように言う。
「あれが頂点…?野蛮と軟弱が頂点とは思えないな…」
その独り言を、サチは微妙な表情で聞いていた。
すると数男は呟いた。
「まあいいか。後で秀也に報告すれば。」
(適当!?)
サチは驚くが、そのまま数男は立ち去ろうとしてしまう。
するとサチは数男を追いかけて話しかけた。
「あ、待って!」
サチは大声を出しすぎたと思い、周りを確認してから先程より声のトーンを下げて数男に言った。
「秀也って、久坂さんの事だよね?あたし、今日から第二故郷病院で働く事になった真渕幸って言うんだけど。」
すると、数男はサチの方を見て眉を潜める。
それから再び溜息をついて言った。
「なら話は早い、こっちに来るんだ。
遺体は放置していろ、どうせマリモのプラズマを追って来た研究員が回収するだろう。」
サチは状況をイマイチ理解できないながらも、数男について行くことにした。
誠治も状況を完全に理解できなかったが…
(今日は魔法少女さん見れたなぁ…)
と楽観的だった。
しかし次の瞬間、先程クロマが殺した真っ黒な遺体を見つけて口を抑えた。
(これ…!人型…!?)
誠治は息をするのを一瞬忘れる。
(だ…誰が…)
そう思って、魔法少女を見つめた。
この街にある、とある研究所。
その研究所は、普通の学校の倍近くの広い土地があった。
九階もある建物。
ここは宇宙生命体について主に研究する、【秋田宇宙生物研究所】である。
そしてここでは、植物人間に関する研究が常に執り行われていた。
研究室の廊下を歩くのは、なんと第二故郷病院の久坂秀也。
彼の名札は病院の時とは打って変わって、『第二研究チームリーダー 久坂秀也』とある。
胸には研究所のエンブレムバッジまで。
廊下の途中途中で、人の悲鳴が微かに聞こえた。
そしてある一室の透明ガラスから見える光景と言えば…
植物を全身から生やした植物人間と、それを火炎放射器で殺処分する研究員の姿だ。
(おうおう今日も非道な実験をしていますこと。)
久坂はそう思いながらも、とある部屋の前に着く。
表札には『第五研究チームリーダー室』とあった。
久坂はノックもせずにその部屋に入る。
「坊ちゃ~ん、開発進んでる~?」
無機質な声で入ると、そこには一人の男性が。
その男性はなんと、誠治といつもゴミ拾いのボランティアをしている奈江島だった。
名札には『第五研究チームリーダー 奈江島綺瑠(きる)』とある。
ちなみに綺瑠はいつも黒い手袋を両手にはめていて、手袋には研究所のエンブレムが縫われていた。
綺瑠は手提げ袋に何かを詰めており、久坂に気づいていない様子だった。
久坂は少し声を大きくして言う。
「奈江島。」
「ん?」
そう言って綺瑠は久坂に気づくと、笑顔を向けた。
「久坂、おはよう!」
笑顔の綺瑠を見て、久坂は気味悪そうに綺瑠を見る。
「どうしたどうしたテンション高いな?このロールキャベツデビルマッシュルーム。」
「美味しいよねロールキャベツ。…デビルマッシュルームって何?」
綺瑠が目を丸くして言うと、久坂は黙り込む。
綺瑠は思わず苦笑してしまう。
「なんで黙るの?
と言うよりどうしたの久坂、直接会いに来るなんて珍しい。」
「てめぇオレとの約束忘れてっか?
植物人間を普通の人間にする手段を考えるって言ってなかったっけ?」
呆れた久坂を見て、綺瑠は思い出したように手を叩いた。
「あまり時間が取れなくてね、忘れていたよ!」
「だと思ったよ…お前の専門なんだからマジ頼むわ。」
「うん。」
そう言われ、久坂はただただ笑顔の綺瑠を見る。
すると久坂は溜息をついた。
「お願いだから興味持ってくれ…そうじゃないとてめぇは動かないから。」
「そうだ久坂!見てこれ。」
そう言って綺瑠は手提げ袋から箱を取り出し、箱をパカリと開けた。
そこには、大きなダイヤモンド。
久坂は顔を引き攣った。
「お前さ、財力に物言わせて女の機嫌取るのやめろ?」
しかし、綺瑠は目を丸くした。
「なんで?ヒカリちゃんはこれがホシイんだよ?これできっとヒカリちゃんの機嫌も直るよ!」
そう言って綺瑠はリーダー室を出た。
久坂は呆れた表情をすると、綺瑠を追いかけながら言う。
「直らねぇよ。どーせ今頃は廃人にでもなってんだろーよ。」
それに対し、綺瑠は笑った。
「そうだね。ヒカリちゃんの宝石好きは、普通の人以上だからね。」
「そうじゃなくてよ…」
久坂は呆れて、何も言う気になれなかった。
そして向かった先は最上階。
最上階のとある一室に入った二人は、部屋から女性の泣き呻く声が聞こえた。
それを聞いた瞬間に綺瑠は、ニタリと笑う。
「ヒカリが泣いてる、嬉し泣きかな?」
「ウエッ。」
久坂はさり気なくそう言うが、綺瑠は気にしていない。
綺瑠は右手を白衣のポケットに突っ込むと、部屋の奥へ向かった。
するとそこにはソファーに座らされ、両手両足と腹部を手錠と鎖で繋がれた一人の女性。
そしてその女性を囲むように、色とりどりの宝石が部屋中に埋め尽くされていた。
女性は体中に目も当てられないほど切り傷やアザがあり、青ざめていて目にはクマがあり体が震えている。
顔は涙と鼻水でめちゃくちゃだった。
「ヒカリ起きてる?おーはよ。」
綺瑠が話しかけると、ヒカリと呼ばれた女性は綺瑠を見て目を剥いた。
そして化物を見たかのように、逃げられない拘束の中暴れだす。
「ギャアアアアッ!!」
我を忘れたように叫ぶ姿は、人の理性を既に失っている。
久坂は引いた様子で、それを少し遠くから見ていた。
綺瑠は気にせず、彼女の前にやってきてダイヤモンドを見せた。
「ほら、ヒカリの大好きな宝石。この部屋には、ヒカリがホシイって言った物が全部。幸せだよね?」
綺瑠はニタニタと笑った。
その笑顔を見ると、ヒカリという女性は泣きじゃくって俯いた。
「ごめん…なさい……!もう…こんな事やめて…!」
女性が言うので、綺瑠は目を丸くした。
「どうして謝る?僕は君の喜ぶ顔が見たいだけなのに。」
「要らない…!もう別れて……!!」
それを聞くと、綺瑠は寂しそうな顔を見せた。
「残念。君の笑顔に僕は救われてきたのに。
…それが君の望みなら、別れようか。」
その言葉に、女性は顔を上げた。
それと同時に、綺瑠は笑顔で言う。
「でも」
綺瑠は持っていた手提げ袋から何やら怪しい道具を取り出した。
そのまま手提げ袋を落とすが、その袋の中からは何やら拷問道具の様なものが…
それを見た瞬間、女性の顔は真っ青に。
「契約の分の実験が終わってないから、それが終わってからね。」
「嫌…やめて……」
そして、女性の理性を失った悲鳴は再び響くのであった。
綺瑠の笑い、歌う声が聞こえる。
「え~がお♪ え~がお♪ え~がおーがー す て き♪
愛してるよヒカリ~」
それを眺めていた久坂は、頭を軽く掻く。
それから久坂は綺瑠に背を向け、その場を立ち去った。
「また出直してくるわー。次の女探しもガンバ~」
「ありがと!久坂~」
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