赤い館をあなたにあげる

うてな

文字の大きさ
上 下
8 / 13

子供

しおりを挟む
茉百合は表情が優れない数成に言った。

「何をするの?」

数成は机の下の茉百合にやっと気づいたのか、普段のクールを装う。
そして薬を作りながらも言った。

「資料にあった猛毒の液体を作る。液体が肌に触れれば肌が溶ける様な。
外にいる香に使うのだ。
幸い一階の廊下の鍵はある。広間から閉じ込めてやればひとたまりもないだろう。」

数成の言葉に、茉百合は切なそうな顔をする。
茉百合は言った。

「数成お兄ちゃんは、あのお化けの事を自分の子供だと思う…?」

「息子だろうが関係ない。邪魔する者は排除するのみ。」

数成は即答するので、茉百合は傷ついた様子で目に涙を溜める。
それから数成に言い放った。

「酷い!数成お兄ちゃん、あなた子供の気持ち考えた事あるの!?」

「ない。」

数成の言葉に、更に傷つく茉百合。
淡々と薬品を混ぜ合わせる数成を見て、茉百合は悲しみとも捉えられる怒りの表情で言った。

「数成お兄ちゃんがこれからする事…私がパパやママにされたら絶対嫌よ!
誰も信用できなくなっちゃう…。」

「香もお前と同じとは限らん。」

「きっと同じよ!
数成お兄ちゃん、まるで私のママみたいだわ!」

「私とお前の親を一緒にする気か?」

茉百合は言葉に詰まった。
ここでやっと、二人が言い合いをしているのだと晴真と徳助は気づいた。
茉百合は悲しくて涙を流し始めると、数成を睨みつけて言う。

「大人って酷い、心が汚れてる…!
そうよ!私達がここから出られないのは あなたが、私が汚れてるからなんだわ!!」

「では死んでもお互い出られぬままだな。」

数成の言葉に、茉百合は再び言葉を詰まらせた。
晴真が数成に発言しようとすると、徳助が仲裁に入る。

「おーおーどーしたー?」

茉百合はその場で俯くだけ。
数成は薬を作り終えたのか、蓋をしたビーカーを持って言った。

「毒ができたぞ。
お前達もそこらをうろついてないで出る準備をするんだな。」

そう言って扉の前に行くと、晴真は逆に茉百合の元へ向かう。
茉百合は晴真に言った。

「私のママもそうなのかな…。
出来損ないの私なんか、要らないんだ…。あのお化けさんも可哀想…。」

晴真は心配そうに茉百合を見ていたが、すぐに優しく微笑んだ。

「僕はそんな事ないと思うよ。君のお母さんが遠藤さんに似ているのならね。」

晴真は優しく茉百合に語りかけるが、茉百合は言い放つ。

「なんで!あの人自分の子供を…!」

すると晴真はその場でしゃがみ、茉百合の両肩に手を乗せた。
茉百合は突然の事に驚くと、晴真は優しく目を閉じて言う。

「信じる心が大事だよ、茉百合ちゃん。」

晴真は優しく微笑んでいた。
茉百合は晴真の顔を見ると、晴真は目を開いて真摯な表情で言う。

「不信はきっと、破局しか生まない。茉百合ちゃんは大人を敵だと言ったり、時には自分自身を悪く言ってしまうよね。
己を信じなければ真心を失う、人を嫌いになってしまう。僕は、茉百合ちゃんにそうなって欲しくないな。」

「お巡りさん…」

茉百合は思わずそう呟く。
数成も横目で流すように、その話を聞いていた。
晴真は続ける。

「僕は遠藤さんを信じているよ。僕達を守る為にそうしているのだと思って。
茉百合ちゃんも信じて。
僕は遠藤さんのの冷たいところも、温かいところも知っている。
茉百合ちゃんのお母さんは、どうかな?」

茉百合はそれを聞くと、呆然と考え事をする。

「私の…ママ…」

数秒すると、茉百合の目に涙が溢れ泣き出した。
茉百合は溢れる涙を拭うと、嗚咽を我慢して言う。

「優しいママもっ…いるよ…!
信じたら…ママもパパも、また私の事…相手してくれるかな…?」

「きっと。」

晴真が言うと、茉百合は涙を拭いた。
茉百合は暫くひっくひっくと嗚咽を聞かせていたが、やがて落ち着く。
吹っ切れたように茉百合は笑顔を見せると、晴真に言う。

「お巡りさんと話すとすごく安心する!ありがとうお巡りさん、ママを信じてみるね!」

その言葉に、晴真は深く頷いた。

「うん。それでいいんだよ、茉百合ちゃん!」

晴真と茉百合は二人で笑い合うと、それを見ていた徳助は言う。

「六歳娘は晴真より俺と一緒に喋ってんのに、なんでこんなに晴真に懐いてんだろ。
不思議だなぁ。」

それに対し、晴真はニコニコとした顔で言う。

「僕は、まともですからね。」

「そうそう!」

晴真と茉百合がそう言うと、徳助はクッと笑った。
そんな三人を見かねて、数成は言う。

「行くぞ。」

三人はその言葉に気分を切り替え、気を引き締めた。
数成は言った。

「今から廊下にいるあの死体に、この毒をかける。
相手が苦しむかはわからんが、体の組織を溶かすほどの毒ならば足止めにはなるはずだ。
その間に逃げ、この廊下に死体を閉じ込めるぞ。
この毒は液体だけでなく蒸気まで猛毒、隔離してしまえばこっちのものだ。」

「うぃ~」

徳助は数成のバッグを代わりに持ちながら返事し、晴真は頷いて茉百合を抱っこする。
しかし茉百合は、悲しそうな表情を浮かべていた。
まだ香の遺体の事を気にかけている様子。

そんな事も知らず、数成は扉に手をかけて開いた。

その先は、先程まで見ていた廊下とは随分様子が一変していた。
廊下一面が血だらけで、息を殺したくなるほどの異臭を放つ。
血だらけの赤黒い廊下に紛れ込む、同じく赤黒い遺体を見つけた。

香の遺体だ。
香の遺体は四人に振り向く。

「 ア ツ     イ タ  イ 
   ナ ンデ   ボ ク ダ ケ  …? 」

次に再び気持ちの悪い音を立て、四人の方にゆっくりと近づいた。
思わず茉百合は顔を引き攣り、晴真は緊迫した様子に。

「 ケ ガ  レ テ    ミ ン  ナ 
   ボ クノ    ナ カマ  ニ  」

数成は心に決めた様に深く目を閉じると、次に香の遺体を睨みつけて言う。

「お前にプレゼントだ。」

そう言って、作った猛毒の薬品を遺体にかけた。
香の遺体はその薬品が効いたのか、怯んでしまう。
それを数成は見逃さなかった。

「今だ!走れ!」

その声と共に三人は走り出した。
勿論香の遺体もそれを見逃す事もなく、再び猛スピードで追ってくる。
茉百合は晴真にしっかり捕まり、ひたすら逃げ切れる事を願うだけ。

「足には自信があるんだぜ!!」

徳助が言うと、数成も言う。

「奇遇だな、私もだ。」

「僕もですよ。」

晴真も言うと、玄関廊下の扉を徳助、晴真、数成の順番に出る。
数成の場合は、わざと晴真の後ろを追っていたようにも見えた。
数成は全員が出た事を確認すると、右廊下の扉を閉じて鍵をかける。

遺体が扉の前にいるのか、ひたすら扉を叩く。
扉の向こうからシュウシュウと、皮膚が溶ける音も聞こえてくる。
一同は黙って相手の反応を伺っていると、遺体の声が聞こえた。

「 ア ツ     イ タ  イ 
   ナ ンデ   ボ ク ダ ケ  …? 」

その声を聞くと、数成が眉を潜めてドアノブを強く握る。
握った手は少し震えており、数成は強く葛藤した表情を浮かべていた。

「くっ…!」

次の瞬間、数成は扉を開いて遺体の方へ向かう。
数成は扉の向こうへ行くと、香の遺体を優しく抱きしめた。

突然の行動に、他の三人は呆然と驚いていると…

「扉を閉じろ。」

数成はそう言った。

「そんな!」

「何考えてるの!」

晴真と茉百合が言うと、数成は首を横に振って掠れた声を出す。

「お願いだ…!」

遺体を強く抱きしめる数成、遺体も数成を見ていた。

「 ネ ェ 」

遺体の声で数成が気を抜いた時、香の遺体は頭を使って数成の腹に強く突進。
数成はそのまま玄関廊下まで戻されると、香の遺体は玄関廊下まで出てきた。
晴真は咄嗟に茉百合を下ろして、勇敢にも香の遺体の前に出る。

「遠藤さんに、手出しはさせない!」

すると香の遺体は言う。

「 ナ  ンデ …? 」

思わぬ一言に、晴真は目を丸くした。
香の遺体の視線は、数成の方を向いている。
数成は香の遺体から視線を背けると呟いた。

「…気まぐれだ。」

「 ヘン  ナノ 」

数成は香の遺体と会話ができると知ると、一番知りたかった事を聞いた。

「お前は香なのか…?」

「 ウン 」

香はそう言うと、数成は俯く。

「そうか…。…悪い事をしたな。」

それを聞くと、香は驚いた様子になった。

「 ナ ンデ…? 
   ボ ク ガ  ワ ル  イノ ニ 」

数成は平静を取り戻したのか、顔を上げていつものクールな顔で言う。

「知らんな。
強いて悪いところを言えば、私の許可もなく死んだことか。」

数成はそう言うと、軽く俯いた。
香は何も答えないまま、数成を見つめるだけ。
すると香は少しずつ、数成に近づく。
既に敵意は感じないのか、晴真もそれを黙って見ていた。

「 ト ウ  サ ン 」

香の声掛けに、数成は自然と香の顔を見ていた。
香は数成と目が合うと言う。

「 モット  イキテ モ イイ?」

数成は香の言葉に反応すると、無表情ではあるが少し切なそうに答える。

「勿論だが…」

そこまで言うと、香はしゃがれた笑い声を出した。
喜んでいるような、驚いた数成を見て大変面白く思っているのか…そんな雰囲気であった。
香はそのまま真っ直ぐ前進し続け、やがて玄関から左側の洗面所がある方の廊下へ消えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あなたが口にしたものは

浅貴るお
ホラー
 復讐を行うレストランのお話。

あやかしのうた

akikawa
ホラー
あやかしと人間の孤独な愛の少し不思議な物語を描いた短編集(2編)。 第1部 虚妄の家 「冷たい水底であなたの名を呼んでいた。会いたくて、哀しくて・・・」 第2部 神婚 「一族の総領以外、この儀式を誰も覗き見てはならぬ。」 好奇心おう盛な幼き弟は、その晩こっそりと神の部屋に忍び込み、美しき兄と神との秘密の儀式を覗き見たーーー。 虚空に揺れし君の袖。 汝、何故に泣く? 夢さがなく我愁うれう。 夢通わせた君憎し。   想いとどめし乙女が心の露(なみだ)。 哀しき愛の唄。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

怪奇現象対策班

いしるべーた
ファンタジー
度重なる現世での怪奇現象に対抗すべく地獄に設立された、怪奇現象対策班。 役所の中でも、特に人気が低いこの班に配属された鬼族の少年、カキは自由奔放なメンバーと、様々な怪奇現象に振り回される。 この小説は「カクヨム」、「小説家になろう」でも連載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...