赤い館をあなたにあげる

うてな

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新聞

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館に侵入した犯人が、数成であると判明。
数成はそれが知られると、茉百合と距離を縮めようとする…

茉百合が強く目を閉じていると、数成は言う。

「泥棒目的な訳ないだろう。探し物をしているんだ。
ここは直に取り壊されるし、窓を割って入った。」

数成はそう言うと、茉百合が食べた弁当箱を回収。
茉百合は肝を抜かれてポカンとすると、数成は続けた。

「お前はここでずっとこもるつもりか?」

その問いに、茉百合は無愛想な顔を見せる。

「でも私、この館から出られなくて…。」

それを聞くと、数成は目を丸くした。

「お前もか。」

「お兄ちゃんも!?」

茉百合は前のめりになって聞くと、数成は頷く。
すると茉百合は困った顔をして言った。

「いったいなんで…?私もお兄ちゃんも、悪い事してないじゃん!」

数成はその問いに答える事もなく、茉百合に言う。

「来い、一人では心細いだろう。」

数成はそう言って立ち上がると、出入り口に向かう。
しかし茉百合は頬を膨らませると言った。

「イヤよ!どうせ帰れない。それにお化けがいるもん!」

茉百合は下を向いて言うと、数成は軽く溜息をつく。

「まだ帰れないと決まってないだろう。」

「じゃあ帰る方法わかるの?」

「さあ。」

「ほーら。」

茉百合は無愛想にそっぽ向くと、数成は続けた。

「とは言え、帰る方法がわからないから帰れないと断言するのもおかしな話だ。
諦めるのはまだ早い。諦めた時点で、もう家に帰れないと思え。」

数成の言葉に、茉百合は無愛想ながらも数成を見つめた。
茉百合は不機嫌ながらも、数成に手を伸ばした。

「手、繋いで。」

そう言われると、数成は目を丸くする。
そして茉百合の元に帰ってくると、さっと手を出した。
茉百合はその手を掴むと、数成はそっと茉百合の手を握ってくれる。

「はぐれるんじゃないぞ。」

そう言って。
茉百合は頷くと、部屋の扉の前まで歩く。
数成は胸ポケットから鍵を取り出すと、その部屋の鍵を開いた。

その時だ。
数成の胸ポケットから、小さな赤が落ちる。

「赤…」

茉百合はそう言って拾うと、数成は言った。

「さっきクローゼットで拾った。さっきまで暗い赤だったのに、今は赤く輝いているな。」

「これね、とっても温かいんだよ。」

茉百合は赤を持っていると、不思議と表情が柔らかくなる。
数成は不思議そうに赤を見つめ、呟いた。

「確かに、これを見ると落ち着くな。」

「でしょ!」

茉百合は笑顔で言うと、再び赤は消えてしまう。

「あ!赤が!」

茉百合は膨れたが、ふと思い出したような顔をする。
茉百合はポケットから、グチャグチャの紙を一枚出した。
それはさきほどキッチンで見た、新聞から落ちてきた暗号の様な紙。

「お兄ちゃん、ペンとか持ってない?」

数成はバッグからペンを取り出すと、茉百合に聞く。

「紙は持ってきたのにペンは持ってきていなかったのか?」

「ううん、さっきこの家で拾ったの。」

すると数成は茉百合の目線まで屈み、その紙を見つめる。
数成は目が悪いのか、目を細めた。

「いいや、これは…暗号じゃないか。」

「あんごう?」

茉百合が首を傾げていると、数成は紙を手に取ると言う。

「点字の暗号かもしれないな。」

数成は黙って暗号を解いていると、茉百合は数成が置いた手提げバッグを見た。
茉百合は気づく。

(数成お兄ちゃんが怪しい人だったら、この中に凄い物入ってたりして…)

茉百合は息を飲んだ。
そして好奇心で中を探ると、ハンマー、手袋、弁当箱、メモ帳、切り取られた新聞記事、これくらいしか入っていなかった。

(ハンマー以外は怪しくない…)

茉百合はふと、切り取られた新聞記事を見た。
去年の十二月三十一日、三日前の記事。

『 十二月二十九日午前十一時、○○地区にある○○山の麓が火事になった。
 火は十二時間後に消し止められ、焼け跡から 身元不明の死体 が一人見つかった。
  消火活動中に救助された少女の様態は安定しており、軽い後遺症が残ってはいるが直に退院できる様だ。
 身元不明の死体 の特定は今も続いている。』

茉百合は驚いて声が出なかった。
漢字が読めない年齢だが、写真等で自分が遭った山火事と、茉百合にはわかったのだ。

茉百合が愕然としていると数成は再び部屋に戻り、部屋にある小さな金庫の前に来た。
金庫は番号を入力する作りになっており、数成はそれを入力。
茉百合は見なかった事にして記事をバッグに戻すと、数成の方に向かう。
そして、暗号の紙を見つめた。

「お兄ちゃん、点字に詳しいの?」

「この家主の妻は全盲だったんだ。その娘が、よく点字に関する暗号を作っては遊んだんだと。」

「え、この家の人を知ってるの?」

「ああ。この家の一人娘、【雨宮英美子 アマミヤエミコ】は私の教え子だからな。」

茉百合は驚いた顔をしていた。

「じゃあお巡りさんのママの先生って事!?」

茉百合はそこに驚いていた様だが、もっと驚くべきところがある。
二十歳を超えた晴真、その母のの先生なのだ。
年齢の割に、若い顔立ちをしていた。

「お巡り?……雨宮晴真の事か?」

それと同時に鍵が開き、金庫は開いた。
金庫の中には鍵。
数成はそれを手に取ると、茉百合は頷く。

「うん。一緒に来てるお巡りさんの一人が、そのお巡りさんなの!」

数成は茉百合に手を引かれ、そのまま廊下に出た。
茉百合はこの部屋に入った時は、目を伏せて来た事を忘れて廊下に出た。
すると目の前には、血塗られたロープに吊るされた腕一本。
少し遠くに、人間の遺体が同じく血塗られたロープに吊るされていた。
人間の遺体は皮膚がただれており、見るに堪えない姿だった。

茉百合は怯えて、思わず数成に飛びつく。

「キャーッ!!」

数成は怯える様子も見せず、茉百合に言った。

「怖がるな、生きていない。」

「そういう問題じゃない!」

茉百合は強い怒りをぶつけるが、数成は無反応。
それから数成は軽く首を傾げた。

「あの遺体が見えるのか?」

「見えるもなにも…!」

茉百合が言うと、数成は何かに気づいた顔をして遺体を見つめる。
数成の異変に気づいて、茉百合は数成を見上げた。
数成は無表情ではあったが、どこか物寂しそうな目でその遺体を見つめていたのだ。

茉百合も呆然としていると玄関廊下に続く扉が開き、晴真と徳助が駆け込んできた。

「茉百合ちゃん!」

どうやら二人は茉百合の悲鳴を聞きつけてやってきたようだ。
すると、晴真と数成は目が合ってお互い息を詰まらせる。
徳助は数成を見ると、目を眩しく輝かせた。

「お!俺好みの眼鏡っ娘じゃねぇか!」

それに対し、数成は即答。

「お前、目が腐ってるんじゃないのか。私は男だ。」

徳助はそれでも笑っていると、茉百合は晴真を見つめる。
先程の恐怖がまだ残っているのか、茉百合は数成の耳元で言った。

「ねえ、お巡りさんにお化け憑いてない?」

「お化け…」

数成はそう呟くと、晴真を見つめる。
晴真は呆然と数成を見つめたまま。
数成は次に茉百合の怯えた目を見つめる。

すると、数成は小声で言った。

「いいや。」

その言葉に茉百合は笑顔を見せる。

「ホント!?じゃあさっきのは気のせいなのね!」

数成は頷くので、茉百合は嬉しくてニコニコ。
茉百合は晴真に言った。

「お巡りさん、このお兄ちゃんと知り合いなんでしょ!」

茉百合の笑顔に晴真は眉を困らせると、数成の表情を見る。
数成は変わらず無表情、晴真は言った。

「母の恩師でね。
新聞を読んだ時に言った、母を助けたヒーローはこの遠藤さんなんだよ。」

それを聞くと、茉百合は笑顔になる。

「やっぱり!じゃあこのお兄ちゃんがお巡りさんのパパなのね!」

そう言われると、一瞬にして数成の表情が暗くなった。
晴真も驚いた顔をしてから、数成の顔色を伺う。
数成は晴真に向かって言った。

「何度言えばわかる、私はお前の父ではないと。」

「どういう事…?」

茉百合が首を傾げると、数成は冷静な様子を少し崩して言った。

「夢を見ているだけだ。誰の子かもわからない奴が、勝手に親を決め込んでいる。」

数成は少々ムキになっている様にも見えた。
晴真は頭を下げると、素直に謝る。

「申し訳ありません。」

「大体、私には妻も子もいるのだぞ。変な言いがかりはよせ。」

それでも数成は言うので、徳助が間に入った。

「まあまあそれは置いといて、なんで眼鏡っ娘はここにいるんだ?」

その疑問に対し、茉百合は素直に言おうとするが…
ふと、悪人に対する冷たい晴真を思い出す。

(お兄ちゃんが窓を壊した犯人だって知ったら、お巡りさんまた怖くなるのかな…)

茉百合は一度留まり、次に言う。

「私の悲鳴を聞いて駆けつけてくれたの。
それで…この人も私と同じで出られないの。ねえ、四人で一緒に出よう?」

咄嗟の嘘に、数成は驚いたのか冷静な表情のまま茉百合を見下ろした。
茉百合は一瞬数成に目をやるが、すぐに晴真達に視線を向ける。
すると徳助は言った。

「うん。だったら一緒に来い!眼鏡っ娘!」

数成は徳助に呆れているのか、晴真に言う。

「コイツも警察だろう。お前と同じ巡査か?」

対し晴真は苦笑しながら言った。

「こう見えても警部補なんです。こう見えても。」

それを聞くと、数成は軽く溜息をついて言う。

「警察もロクな奴がいないな。」
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